第11話 レックと、武器ショップ



「ほれ、とりあえず、測っとけ」


 おっさんが戻ってきた。

 体重計を、持ってきた。


 前世の自分が「体重計かよ――」と、ツッコミを入れたが、レックには覚えがあった。魔力を測定するための、装置である。


「ん………どうした?使い方は知ってるはずだ」


 おっさんは、体重計の中央を指差す。

 クリスタルが複数はめ込まれている、ここへ魔力を注ぐことで、体重計のメーターが動くのだ。


 もちろん、体重計ではなく、魔力の出力を計測する装置である。そして、武器の購入に必須の条件でもある。武器を扱うためにも、魔力が必要なのだ。そのために、最初に測定されるわけであり、レックも測定された。

 剣をもてるほどの筋力がなければ、剣を売ることは出来ない。弓を引くことが出来ないやつに、弓を売っても意味がない。

 意味は、同じである。


 そして――


「まさか………どっかでマズイことでも、やらかしたのか?」

「ま、まさか………っていうか、前よりずっと魔力が上がってるから、驚かないでくださいよ~」


 武器屋の主人として、絶対に外せない条件だ。

 前世の知識も納得だ。指紋の登録により、犯罪者に武器を渡さないためのシステムの、異世界バージョンなのだ。魔力の波長は個人で異なり、ギルドや武器ショップでの登録、あるいは手続きに必須でもある。

 今回は、武器の耐久性能のための前情報として、計測を求められていた。登録はまた、後日である。


 ただ………どこか、アナログだった。


「では………いくぜっ」

「おいおい、気合を入れすぎて、攻撃魔法をぶっ放すなよ?」


 なお、レックがリボルバーを購入したときの数値は、40であった。

 一応、下級魔法を扱える魔力の値であるものの、すぐに攻撃力がほしかったレックは、武器に手を出したわけだ。


 では、転生した主人公である、今のレックの値は――


「魔力値120?………中級魔法レベルか。なら、クリスタルは何で――いや、命の危機には――ってヤツか。なら、そうだな………」


 普通だった。

 いや、レックの魔力の値は、かつて40だったのだ。それが、3倍にも跳ね上がったのだから、跳ね上がったと言う表現は、正しい。

 ただ………おっさんが疑問に首をかしげる程度には、普通であるだけだ。


 レックは、じっと測定器へ腕をかざしたまま、動くことが出来なかった。


「へへへ、ステータス先生ったら、冗談が過ぎますぜ、主人公はいきなり、やらかすものって決まってるでしょうに………ねぇ?」


 現実から、目をそむけていた。

 たしかに、魔力は上がっているのだ。しかし、中級の魔法を扱う程度であり、レックの期待していた、すごい――と呼ばれるには、遠かった。

 上級魔法を操るには、魔力の値が1000は必要とされ………まだまだ、道は遠いのだ。


 一方のおっさんは、レックを気にすることなく、戸棚から商品を選んでいた。

 一つを、手に取った。

 ゴトリ――と、レックのリボルバーより、倍ほど大きなリボルバーがおかれた。銃身は大きく長く、やや小柄なレックには不似合いなサイズである。


「リボルバーがいいなら………これだな」


 マグナムだ――


 前世の浪人生が、ちょっとうるさい。レベルアップだ、新たな武器だと、飛び跳ねている。レックが愛用していたリボルバーより、銃身がごつく、そして倍ほどに長かった。弾丸サイズも、レンコン部分の違いで分かる、倍はあるだろう。


「威力は見た目どおり、リボルバーの数倍はある。撃つときに必要な魔力も、もちろんリボルバーのときよりたくさん持っていかれるが………まぁ、魔力値が120もあるんだ、問題ないだろう。他には、オートマとかいう、連射が出来るやつがあってな――」


 レックは、新しい武器に興奮していた。

 中古のリボルバーではない、威力は数段上で、他にもあると、オートマと言うハンドガンを見せてくれた。

 グロックとか、ベレッタとか、ゲームや映画では、むしろこちらが主流だ。西部劇ではリボルバーばかりであるが、この武器ショップでは、しっかりと近代の武器もそろっているようだ。


「連射が出来る分、リボルバーの倍の値段だな。まぁ、8発の小型のハンドガンに、18発のほかに………サブマシンガンみたいに、30発の――」


 次々と、机の上にハンドガンが並べられる。レックの魔力と、懐具合では問題のないアイテムたちだ。


「もっと威力がほしいなら、ショットガンもあるぜ。それに、遠距離ならライフルだって、金に余裕があるなら――」


 おっさんが、棚を見渡す。

 西部劇で登場する、レバーアクションタイプのショットガンに、ボルトアクションタイプのライフルにと、どうしても西部劇にしたいらしい。


 よく見ると、帽子もたくさんだ。


 転生者が西部劇のファンなのか、あるいは、日本人以外の西部劇の人か………あるいは、数百年前の、本物の西部時代のガンマンでも、転生したのかもしれない。


 前世が、つぶやく。


「ガンシューティングなら、全部って所だけど………」


 近接戦ならこいつだ――と言うショットガンに、長距離ならばスナイパーライフルと、多くの敵に囲まれれば、サブマシンガンだと、叫びだす。

 実際にモンスターと戦うレックは、懐具合と真剣に相談していた。さもしく生き延びるか、武器を大量に購入して、レベルアップをするべきか………


「ガトリングガンは、やめておけ………モンスターの巣窟に突撃するつもりなら別だがな――っていうか、ここまで来ると、趣味ってもんだ」


 あるのか

 ガトリングガンが、あるのか――


 購入するつもりはないものの、ガンシューティングでお約束、ゲームでも出てきてほしい、最終兵器。

 ロケットランチャーも外せないが、いったい何と戦うつもりなのだろう。そのうち、戦車でも持ち出してくるのではないか。


 お値段を聞いて、興奮は一気に醒めた。


 ガトリング様は、かなりのお値段だった。いくら討伐の報奨金が莫大で、マヨネーズ伯爵からも援助金をいただいていたとしても、限度があるのだ。万が一に備えて、数か月分の生活費は保持したい。

 そして、余裕を持って、さらに数か月分の生活費も、常にキープしたいのが人情というものだ。


「ボウズ、金はどれだけ持ってる?………とりあえず、マグナムだけでも、中古のリボルバーの3倍ほどなんだが………」

「あぁ、それなら大丈夫………中古に30発の弾丸つきで、ルペウス金貨が一枚………って、まだ覚えてるよ、オレ」

「あぁ、最初の相棒だったな。なら、覚えているものさ。見た感じ、クリスタルの交換だけで終わりそうだ。どうせ、新しく銃を買っても、練習しなけりゃ、危なくて使えないだろう?その間に、直してやるよ」


 なるほど――と、レックは今後の予定を考える。

 そして、予算と、購入したい武器を、改めて考える。


「オレのリボルバーの修理に、切り札のマグナム、近接でショットガンと、遠距離からはスナイパーライフルを………あと、弾丸もたっぷり――」


 絶対、あとで後悔する。衝動買いは、未来が不確かな冒険者が、決して行ってはいけない愚考である。

 分かっている、分かっているが………


 レックは決断した。


 先が分からない。だからこそ、慎重に武器を選ぶのだ。多少懐がさびしくなっても、アイテムボックスに武器を山積みにしておけば、生き残れるのだ。


 でかい武器で、でかく稼いでこその冒険者だ。

 幸い、レックの予算範囲だった。

 こういうことを見越して、マヨネーズ伯爵は援助してくれたのかもしれない。

 さすがは領主様だと、あのキュー○ー・マヨネーズ様に怒られそうな、おっさんの銅像に感謝したくなった。

 今度あの銅像を見かけたら、拝もうと心に決めたレックだったが………


 おっさんが、なにかを取り出した。


「おっと、ビーム・サーベルを忘れてた」


 白にオレンジに、真っ赤な赤いヤツに、そして、もちろんゴールドもある。いろ取り泥理の一本を握り締めていた。

 スイッチを押したのだろう、ビカ――と、なにかが輝いた。


 これは間違いなく、アレである。あれ――


「ガ○ダムかよっ!」


 レックは、大声で叫んだ。


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