第10話 武器を買おう
リボルバー
映画やドラマ、ゲームその他でおなじみの、5連、あるいは6連のレンコンがくっついたハンドガンである。
この世界では、銃身の側面にマジック・クリスタルがついている。鉛玉ではなく、魔法の攻撃を放つ、マジカルなハンドガンだ。少しは魔力を必要とするが、攻撃魔法の一割も必要としない。
おかげで、レックのように、下級魔法もギリギリと言う冒険者は、助かっている。
技術の、勝利だった。
「修理、出来るかな~………」
懐から、リボルバーを取り出した。
クリスタルが、砕けていた。何度見ても、砕けていた。この状態では、とても怖くて使うことが出来ない。壊れたリボルバーだ。
エルフの女子中学生?から逃れて、レックは本来の目的地である、武器ショップを前にしていた。
誰が見ても、ここが武器ショップとわかる、リボルバーの拳銃や、ショットガンをあしらった看板が、屋根にたくさん突き出ていた。
レックはリボルバーを懐に戻すと、改めて前を見る。
「………絶対、西部劇の酒場だよな、ここって」
扉が、西部劇の扉である。
周囲が中世ヨーロッパ風ファンタジーであるのに、ここだけ西部劇だった。
ガラン、ガラン――と音がする扉をおして、中に入った。すると、バーカウンターがある。酒を飲んだ荒くれ物が、いっせいに
幸い、客はいなかったが、おっさんはいた。酒の変わりに、武器が棚に飾られていた。おそらくは店主だろう。
いや、酒瓶も複数、飾られていた。
「よぅ、いらっしゃい――なんだ、ガキか」
やっほう、テンプレ――
レックの中の日本人が、小躍りをして喜んだ。
そんな感想を抱くことが出来るのも、レックに前世の記憶があるおかげである。以前のレックなら、武器ショップは、そういうものか――という感想でしかなかったのだから。
ふっ――と、店主に分かるように笑みを浮かべて、レックは、ずかずかとカウンターまで進む。
身長ギリギリであったが、カウンターにひじを置くと、懐からリボルバーを抜いた。
ガタン――と、酒を飲んでいた荒くれ者達が、立ち上がる。
――わけがなく、カウンターのおっさんと、レックの二人だけである。レックの中の浪人生が、幻想を見ているだけだ。
カウンターの上にリボルバーを置くと、そのまま店主へと差し出す。店主のおっさんは、しばらくレックの動きを眺めている。
バカにしたような目つきだったが、驚きに、目を見開く。
「――なっ、クリスタルが割れただと?」
店主の驚きは、当然だった。
武器は、頑丈でなければ命に関わる。もちろん限度はあり、攻撃を受けて破損することもある。
だが、店主は分かったのだ。クリスタルだけが砕けて、リボルバーの本体の破損は、違和感しかなかった。
魔力の、暴発だった。
暴発という以外に、レックの取り出したリボルバーの破損が、説明できないのだ。それは、レックの魔力が、武器の限界を超えたということ。
使用者が、それだけ優れた力を持つということだ。
レックは、得意げだ。
「モンスターにトドメを刺すときに、ちょっと――な」
レックは、格好をつけた。
年上の店主に向けて、ちょっと失礼ではないか。そんな常識を上回る、内心は興奮でいっぱいだった。
驚いてる、驚いてる、オレ、すごいっ――
主人公は、こうあるべきだと、前世の浪人生がガッツポーズを取っていた。お調子者の少年レックは、心で飛び上がっていた。
お店で飛び上がらないだけ、レックは大人だった。
「モンスターにトドメって………クリスタルが砕けてるんだぞっ!」
おっさんは、リボルバーを様々な角度で見つめる。驚きから、専門家の目に変わっていた。レックは、その様子を眺める。
自慢したい気持ちから、今度は不安が湧き上がる。
お金、足りるかな――
先日の討伐では、思ったよりも莫大な報奨金を手にした。そして、『マヨネーズ伯爵』からも、支援金をいただいた。今は、少し余裕を持っても許される懐具合である。
癖とは、悲しいものだ。
「ボウズ、このリボルバー、どうするつもりだ?」
考え事をしていたレックは、やや返答に時間を必要とした。
壊れた武器を持ち込めば、修理するものだと思っていた。武器の素人であるレックは、単純に、クリスタルを交換するだけだと思っていた。
予想以上に状態が悪ければ、買いなおすことも考えていたのだが………
「気に入ってるなら、直すがよ――だが、すぐに壊れるぞ?」
店主のおっさんが、困ったような顔をしていた。
直せる――それは理解したが、すぐに壊れるとは、どういうことだろう。すでに武器の強度が限界を超えており、次に銃弾を放つと、砕け散るほど弱っているのか。
違うと、レックは感じた。
そのような意味合いとは、違った印象を受けたのだ。クリスタルが、なぜ砕けてしまったのか、その原因であるレックは、顔を上げた。
「オレの魔力………か」
レックの魔力のために、クリスタルが砕けたわけである。
クリスタルを取り替えても、同じことが起こるのだ。魔力をコントロールが出来るならばともかく、跳ね上がった魔力を、レックは制御できるのか。
未来が、予想できた。
先日はモンスターを倒すことに成功しているが、偶然と運の要素が強すぎる。具体的に、何をしたのか、レックにも分からないのだ。
それこそ、リボルバーが破裂するだけで終わるかもしれないし、暴発の余波で、レックが大怪我をするかもしれない。
そして、目の前には無傷のモンスターが………
レックの顔色を見て、おっさんはうなずく。
「そうだ。いざと言うときを考えると、オススメできねぇ………ちょっと待ってな」
レックの答えを聞く前に、おっさんは奥へと消えた。
不安だけが、残された。
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