第9話 エルフと、携帯電話



「いやぁ~、いい人だったなぁ、『マヨネーズ伯爵』はぁ~」


 レックはご機嫌であった。

 マヨネーズ伯爵のもてなしを受けた翌日、今度こそはと、レックは武器ショップを目指して歩いていた。


 懐は、暖かかった。

 わずかばかりと言われたが、支援金として、金貨を下さったのだ。

 その額は、大型モンスターを討伐した報酬に匹敵する。おそらく、転生した人物への気遣い、先代の言伝なのだろう。


 めったに現れないことも、理由だろう。


 マヨネーズの晩餐ばんさんで得た知識では、数年に一人発見される程度で、出会う確立は、数十年に一度といったところだ。

『テクノ師団』のおっさんとの年齢の差を考えれば、納得だ。


 成功者は、さらに少ない。


「あとは『みそ将軍』と『しょうゆ仙人』だけだもんなぁ、どっちも、生まれたのが江戸とか、明治とかだろうし………?」


 違和感が、歩いてきた。

 前世の地球あれば、良くある光景ともいえる。いや、それでも違和感だ。むしろ、少し昔の映画やドラマで見た光景と言うべきだ。


 女子中学生が、歩いてきた。


「えぇ~、やだ、マジでぇ~?」


 どこかで見た、女子中学生が、あるいてきた。


 いや、本当に、90年代末のホラー映画では、最初に呪い殺されるだろう女子中学生が、歩いてきた。

 青色というか、黒に近い折り目のあるスカートに、ひざまであるソックスは、不自然にぶかぶかだ。そして、おへそを出したブレザーに、赤いリボンである。


 レックは、思わずつぶやいた。


「スマホ………じゃ、ないよな」


 違うと、すぐに形態から判断した。むしろ、映画で見た、トランシーバーと似ているが、スマホサイズの通信機械であった。


 つまり、ガラケーだ。


 携帯電話が正しい名前だが、アンテナがついていることで、トランシーバーと言う単語が、最初に頭に浮かんだのだ。

 いや、ガラケーにはアンテナがついていないはず。いいや、そういう機種もあったのかもしれない。ともかく、ファンタジーあふれる街中では、違和感しかなかった。

 驚きに、立ち止まっていた。


 見つめていた。


「なに、考えてたのかなぁ~………やだ、ナンパ、いやらしい目で私を見て――ひょっとして、これ?」


 白々しく、小娘を気取った。

 見た目は、確かに15歳のレックと似合いの、少し年下の彼女と紹介されて、違和感のない年頃だ。


「知らないのぉ~?これはねぇ~、ケータイっていうのよぉ~」


 自慢をするように、ニコニコとケータイを、差し出してきた。ジャラジャラと、アクセサリーも付属していた。重くないのだろうか、そんなことを考えていると、自慢げに語り始めた。



 レックは、驚きを口にした。


「やっぱり、スマホじゃない………ってか、エルフ?」


 エルフだった。

 淡い金髪の、さらさらロングヘアーに、そして肩幅までとがった耳であった。間違いなくエルフと紹介されて間違いない、エルフだった。


 むしろ、こちらをメインに驚きたかった。ファンタジー作品では、必ずと言っていいほどの、有名な種族である。

 この世界の常識としても、優れた魔法の力を持つ種族として、知られている。物好きが人間の暮らしに混じると、噂で聞いたことがあるが………


「エルフのほうが珍しいって………そっか、転生者ね?なら、ケータイは古い技術になるのか………」


 自慢げな子供の顔から、つまらなそうな顔になる。

 イタズラが通じない相手を前にした、いたずらっ子のようでもある。見た目の通りの年齢ではないだろうが、レックは反応に困っていた。


 お姉さん?は、つまらなそうにケータイを操作した。

 自慢したかった、最新技術であろう。しかし、転生者が広めているのだ、数十年のタイムラグがあっても不思議はないが………


 レックは、つぶやいた。


「く………ここでも、SFかよ」


 セーラー服のエルフさんは、画面を、操作していた。

 画面と言うか、空中に投影されたボタンと言うか、宝石と言うか、色々と出ていた。


 まさかの、立体映像だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る