カメ
五月タイム
短編「カメ」
「カメ食わねぇだろ」
朝の情報番組を見ていた達夫は生ぬるく突っ込んだ。大して気にしているでもない今日の占いカウントダウンで最下位だった達夫の星座では、救ってくれるはずのラッキーフードが「カメ」だった。達夫はひらめいた。
「おっとっと食えばよくね」
今では昔懐かしいとも言える焼き菓子「おっとっと」。達夫は大好きだった。段ボールで買っている。うすしお味には魚介類の形をしたものが入っていた。カメを含む。
一応の自制心として帰宅してから食べることにしているが、たまにはいいだろう。段ボール箱から取り出して開封に掛かる。中のビニールの開け方も慣れたもので、破れて大きく口が開くことなどない。
カメを探す。これまでカメを探したことはなかった。探すとすればイカかカニだ。イカの細長さが気に入っていた。カニの高級っぽさが気に入っていた。カメはピンと来ないでいた。
とはいえ見付けるのは簡単だ。見付けては食べ、食べては見付けた。三個食べたところで異変に気付いた。見付からない。そんなことないだろう、もっと入っているはずだ。指で引っ掻き回すが見付からない。
これが運勢最下位の威力なのか。救われない気がした。もう一箱出した。こんどは四個だった。これでも少ない気がする。達夫は焦った。もう一箱出した。
達夫にはもうよく分からなくなっていた。運勢とかラッキーフードとか、よく分からない。夢中でカメを食べた。気が付けば買い置きを全て開封してカメを食べていた。呼吸が荒くなっていた。
台所へ行ってコップに一杯水を飲んだ。いつもと違う味がする。水の水っぽさが際立っていた。口の中に水が湧くような錯覚に陥った。知らなかったことに気付いたような気がした。
達夫は居間に戻ると座卓の前に腰掛ける。目前には食べ散らかされたおっとっと。イカの姿が目にとまった。当たり前のことのように、つまんで食べた。つるりとした舌触り。サクッとした食感。口腔内に広がる風味。塩の粒を感じた。
達夫は脱力した。表情には、一日を攻略してやろうという気概が満ちていた。
カメ 五月タイム @satsuki_thyme
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