38 バレンタインを救え!大作戦 その3 人為的ウィルス

「次は人払い。橋の上や、公園内にいる全ての人たちを帰宅させるんだ」

「それは世界を救うってのと関係あるんだよね?」

「もちろんさ。あの場所でインフルエンザのような、人工的に変異させたウィルスがばら撒かれる」

「え?」

「人為的なパンデミック発生だ」

「人為的って、そんなの出来るの?」

「当然だよ。世界中でウィルスの研究実験が行われていた。表向きは新しい疫病発生に備えるという名目で、実際は軍事兵器としてね」


   ×   ×   × 


「ここで人為的ウィルスがばら撒かれるんだって」

「知っています」

「え!?」

「パンデミック発生計画は把握しています」

「そうなんだ? じゃあ話が早い」


   ×   ×   × 


「ウィルスは密閉した容器で、冷凍された状態で運搬されているだろう」

「それを破壊すれば良いんだね?」

「思ったよりも耕作様は頭が悪いんだね」

 ほっとけ!

「せっかく密閉されているのに、破壊したらウィルスが拡散してしまうだろう」

「あっ!」

「ウィルスは目に見えないし、臭いも味もない。もし拡散すれば対処は難しい。それに、相手に計画失敗を悟られるのもまずいね」


   ×   ×   × 


「体調が悪そうですね」

「ちょっと、いやかなり熱っぽい。でも大丈夫」

「ウィルスの運搬役は、あの男です」

 厚手のコートを羽織った若い男性を指さす。

「ウィルスがばら撒かれる前に無毒化しよう」

「それは難しいです。私は中和剤などを持っていません」

「僕が。解毒の術で……」


   ×   ×   × 


「世界人口削減計画!?」

「これはごく一部の、世界を支配する大富豪たちによって計画されたんだ」

 ゴクリ。

「最大の理由は、地球に氷河期が迫っているからだ」

「地球温暖化が問題になっても、氷河期なんて聞いた覚えがないよ」

「情報統制さ。氷河期が迫り食料不足になる。そんな話が広まったらパニックになるだろう」

「そっかあ」

「一般人に知られては面倒。それを知る人間は一握りで良い。世界の支配者はそう考え、逆に温暖化などという出鱈目、嘘情報を流布したのだろう」

「支配者?」

「ビルダーバーグ会合」

「?」

「白人権力者たちによる、世界の行く末を決める集会だ。内容は完全非公開で、ヤタガラスでも潜入は難しい。歴史上、一度だけメディアに公開されたことがあった筈。耕作様の時代じゃないかな」

「全然知らなかった」

「そこで決まったのが人口削減計画だよ。計画の概要はこうだ。まず世界中にウィルスを拡散する。これで世界人口を1%程度削減する」

「1%って意味あるの?」

「約1億人の抹殺だよ、大きい数だ。だけどね、確かにそれだけでは効果は薄い」

「だよね」

「だから次の手はワクチンだ。そこにウィルス変異を促進させ、女性が不妊になる効果を混ぜる」

「不妊……」

「変異により多くの人がワクチンを接種するよう仕向け、不妊で中長期にわたる人口削減を行う」

「なるほど」

「更に第三次世界大戦計画だ。ウィルス発生の責任を問う形で、特定国へ憎悪ヘイトを集め、世界大戦へと発展させる。世論を動かすんだ。それが計画の全容だよ」

 マア、おそろしい計画

「パンデミック発生を防げたとしても、それで全てが終わるとは思えない。数年の遅れが出るだけで、支配者はまた計画を練り直し実行しようとするだろう」

「じゃあ意味ないの?」

「意味はあるさ……」

「そんなに!」

「それに時間的余裕さえ作れば……」


   ×   ×   × 


「何とかビルダーバーグ会合に潜入して、計画阻止のため動くようにと」

「承りました」

「計画が実行される際のキーワードがあって。世界の首脳陣や日本の国会、大手メディアから、この言葉が出たら注意して」

「はい」

「第三次世界大戦。核戦争。グレートリセットの3つ。同時に言論統制、特にインターネット規制が始まれば、いよいよ第三次世界大戦計画が動き始めたと思って間違いないと。その前に何とかするようにって」

「承りました」

「確かに伝えたよ」

「はい」

「あとは複製品を……」


   ×   ×   × 


「以上だ。任務完了後、勾玉の複製品を受け取って」

「複製品を?」

「耕作様の体に魂が二つ入っている状態は長く持たない。離魂と帰魂の術を使うため、複製品が必要だ」

「なるほど」

「最後に、耕作様にとって何より大切な……」

「栞奈!」

「そう。彼女を救う方法について」

「それな!」

「彼女が耕作様を突き落とす。その事実さえなくなればいいんだよ」


   ×   ×   × 


「見て! 人がいなくなったよ! 今がチャンス! ね、渡ろ?」

「ちゃん、す?」

 いけない、うっかり返事するのを忘れていた。今この体の中、僕ではない方の僕、元の世界の高橋耕作はまだ眠っている。

「足が震えてフラフラでしょ。私知ってるんだから」

「うん」

「今なら誰にも見られないし、恥ずかしくないよ? ほら、今がチャンス!」

(耕作、目を覚ませ。昔の僕の魂。君は僕だ、分かるかい?)

「ん……」

「……やっぱり……やめて帰ろっか?」

 まだ僕の魂は寝ぼけているようだ。僕の魂、昔の僕と言うべきか。ややこしい。代わりに返事をしておこう。

「行く!」

「行くよ! せーの」

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