37 バレンタインを救え!大作戦 その2 カラスの色
「どの程度の時間的余裕があるか。時間逆行の術で巻き戻せる時間は正確には分からない。青龍隊全員の力を注ぎ込んで……そうだね、15分。これだけは約束しよう。いいかい? 15分だ」
「うん」
「耕作様の時間伸長で最大4倍まで引き延ばして、体感で約1時間。その間にやって貰いたいことは、大きく三つ。よく聞いて覚えてくれ」
「分かった」
「動き回る前に認識阻害を使うのを忘れないようにね。それと、前にも話したかな、耕作様を招くにあたって条件があったと」
「条件の話は幾つか聞いたよ」
「その条件の中にヤタガラスが近くにいる、というのがあってね。一つ目は、そのヤタガラスを探すことだ。諜報活動の一環で潜伏している。何から話したものか……」
少し考える素振りを見せる青龍さん。
「第三次世界大戦が起きる。その話はしたね?」
「うん」
「その契機となるのがパンデミック、疫病の世界的大流行だという話もしたかな?」
「聞いた気がする」
「そのパンデミックは仕組まれたものなんだ。戦争を起こしたい某国による策謀だ。どの国が計画に関与しているかについて、耕作様が知る必要はない」
「そうなの? ちょっと知りたいな」
「興味本位で首を突っ込んでいい話じゃない。余計な詮索はしない方が身のためだ」
「そっか、うん。分かった」
「それに、より正確に言えば国ではないしね。ある組織、と言った方が正確だろうね……」
× × ×
時間がない。迅速な行動が求められる。
「オン、バサラダン、オン、バサラダン……」
体内から力を開放していく。
「……アビダラウンケン、バサラダン、カンマン!」
時間伸長の術! すごい。体中の細胞が覚醒していくのが分かる。今なら何でも出来そうな気がする!
× × ×
「時間逆行と、時間伸長の術は違う。時間伸長、自分に作用させて、運動力や思考力を数倍に高める術は、寿命こそ縮めてしまうけどね、人間一人の力だけで使用が可能だ」
「うん」
「耕作様の魂を戻した後に青龍隊全員で使う、時間逆行の術は、より大きな術法だ。この術法を行使するには大変な力を必要とする。人間一人の、一生分の力を費やしても、世界の時を数分戻すのが精いっぱいなのさ」
そうか……だから戻せるのはせいぜい数分だと言ったのか。
「手前ども、青龍隊全員の命を捧げる」
「……は? えっ!?」
「もう、この世界は終わりだ。耕作様が過去に戻り、任務に成功したとしても、あるいは失敗したとしてもだ」
「ちょっと待って! どういう事?」
「耕作様が任務を果たせた場合、この忌まわしい未来は消え去る。今ここにいる人々は存在しなかったことになる」
「そんな……」
「逆に任務に失敗すれば、八咫鏡が示すように、このまま日本自体が終焉を迎え、ここにいる全員、毛人の胃袋の中だろうね」
「助かる方法はないの?」
「ない。手前ども青龍隊全員、この任務に全てを懸けている。命の最後の一片まで燃やし尽くして、耕作様のために働こう」
「僕の……ために……?」
「それが日本のためでもあるんだ。気にするな。耕作様だって、彼女のために命を懸けるんだろう?」
「そうだけど……」
× × ×
「ノウマク、サンマンダ、ボラカンマネイ……」
認識阻害の術。光学迷彩のように姿を眩まし、気配も完全に遮断する。諜報工作を得意とする、玄武さん直伝の術法だ。
「……シシャネバラ、アニチワ、ソワカ!」
自分では術法が成功したのか分からない。体内から感じるものはあるので、多分大丈夫だろうとは思うが……カメラが設置してある橋には、なるべく近付かない方が良さそう。
× × ×
「通常、潜入工作を行うヤタガラスは、相手の術法への対抗手段を備えている。だから超音階を使った時、周辺にいる人間の中で動ける者がヤタガラスと考えて間違いない」
「なるほど」
「いいかい? 近くのヤタガラスを探すとは、即ち動いている者を探すということさ」
「分かった」
「ヤタガラス同士、出会った際の符丁があってね……」
× × ×
動いている者、動いてる者……発見は容易だった。というより相手から接触を図ってきた。
「君がこれをやったのですか?」
男の言葉は質問ではなく確認だ。40代半ばの眼鏡の男性。薄茶色のスラックスに長袖シャツと背広。パンフレットを手に持った、ごく普通の観光客にしか見えない。
「カラスの色は?」
一定の距離を保ち、警戒の色を隠さない。男の問いかけに、僕は青龍さんから聞いた合言葉を返した。
「赤、青、白、黒。その大きさは?」
「誰も知らない」
男はホッとした様子を見せる。
「僕の名前は高橋耕作。1500年後の未来から……」
「そうでしたか」
男は即座に察した……って僕の認識阻害の術、失敗してた!? 思いっきり認識されてるじゃん!
「僕の姿、見えてる?」
「いいえ、逆に見えないからこそ気付きました。大丈夫。普通の人には見えません」
ちょっと何を言っているか分からない。
「時間伸長も使っていますよね? 私もです」
術法を使った者同士だから、普通に話せるようだ。
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