最終章 世界崩壊 -せかいほうかい-
36 バレンタインを救え!大作戦 その1 作戦名は
「作戦の詳細を説明しよう」
「待って、その前に。今回の作戦名は、バレンタインを救え! 大作戦!」
「なんだい? それは」
「作戦名だけど? これから栞奈を救うための。僕にとっては何より大切な」
青龍さんはキョトンとしている。え? 僕、そんな変な事言っているかな?
「あの時も作戦名を考えたんだ。その名も、吊り橋効果で気になるあの娘を落とそう♡バレンタインデー大作戦!」
「えっと?」
「最初は栞奈を救え! 大作戦! にしようと思ったんだけど、
「その話、長くなるかい?」
「サーセン」
× × ×
「はい、あーんして」
ここは……?
「手作りチョコだよ?」
「ンゴ」
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
「ンゴ」
「……もう帰ろっか?」
栞奈! 目の前に栞奈がいる! 生きて、動いている! 戻ってきたんだ、あの日あの瞬間に!
「ね、美味しい?」
「……ンゴ」
あの最悪の未来を回避するため、最初にすべき事は……
× × ×
これは本当に大切な、一つのミスも許されない作戦だ。僕は受験でも何でも、ここまで集中した覚えがないというぐらい、一言一句聞き漏らすまいと耳を傾けた。
「戻った時、元の魂は半分死んだような状態だろう。体中に毒が回って酩酊状態。だから最初に使う術法は解毒だ」
僕は大きく頷く。
「前に話したね。一つの肉体に二つの魂。これは自然の理に反するもので、肉体に大きな負荷がかかる。今回は全く同じ耕作様の魂だから親和性は極めて高い。とはいえ体内の情報量は倍になる。分かるね?」
「うん」
「迅速な行動が必要だ。解毒に成功したら、すぐに音階を使うんだ。周辺にいる全ての人々に届くように」
「分かった」
× × ×
僕だけど僕じゃない。この時この瞬間の僕の肉体。感覚で分かる、39度か40度近い高熱。だけどあの苦行に比べれば、こんなの屁でもない!
「ほらぁ! こぼしてるよ」
「そう……わ、渡さ、なきゃいけ、いけない、ものが……」
(オンコロコロ、オンコロコロ……)
「ん? なあに?」
「こ、これ、ンゴ」
(センダリ、マトギ、ソワカ、ウン……)
「何?」
「あ、開けて、みて」
小箱の中には、僕が選んだオパールリング。太陽の光を反射して青と赤の文様が浮かぶ。
「あ、これは、私に?」
「ンゴ……たん、たんじょ、う石を、え、えらん……」
「ありがと」
当時の僕は意識朦朧としていて、栞奈の表情がよく分からなかった。良かった! 間違いなく喜んでくれている!
「か、栞奈。こ、告白、す、する……が、ある」
「なに?」
(オンコロコロ、センダリ、マトギ、ソワカ、ウン!)
「ぼぼ、ぼくと、僕と……け、結婚を、ぜ、ぜんて……」
× × ×
「時間伸長。正確に言えば時間を引き延ばす術法じゃないんだ」
「どういう事?」
「名前と逆なんだよ。自分の中でだけ、全てが早くなる」
「えっ?」
「人間は、本来持つ力の半分も使えていない。これは脳が自分に
「よく聞くよね」
「走馬灯というのもある。死に瀕した際、過去の出来事や思い出が一気に蘇る。これも脳が限界以上に働いているからだ。迫り来る死を回避するため何か出来ないかと、記憶の奥底にある知識や経験から探そうとする。それが走馬灯さ」
「なるほど」
× × ×
(聞こえるかい? 1500年前の僕)
(ン……ゴ……)
どうやら解毒は成功だ。だけど回復にはもう少し時間が必要。
「アーアーアー、アアアー、アーアー」
朱雀の特技だった音階。暫く眠れ、過去の僕。
「アーアアアー、アアアーアアー……」
愛しの栞奈も隣でうつら、うつらし始めた。
「アアアーアアアー、アーアーアアアアアー……」
更に効果範囲を広げていく。今この時、この吊り橋の周辺にいる全ての人たちへ……
「アーーーアーーーアーーー、アーアーーーアーーーアーーー……」
付近の人々は全て眠った。さあ! ここからだ! 僕の使命を果たそう。
× × ×
「つまり時間伸長の術って……」
「そうだ。人間の制限を強制的に解除する術法だ」
「しゅごい! そんな事が出来るなら……」
「言いたいことは分かる。常に時間伸長を使い続けたらって話だろう? 誰もが考えるけどね、無理なんだ」
「どうして?」
「なぜ人間は能力を制限されていると思う? それが答えだ」
「う~ん……体への負担?」
「その通り。この術法は使えば使うだけ命を縮める」
「ふぁ!?」
「例えば時間伸長で時間を2倍にすれば、通常より2倍多く活動出来ると思うだろう。だけどね、実際に使い続けてみた結果……」
ゴクリ。
「40代で術士は死んだ。その時の肉体は、まるで80過ぎた老人のようにヨボヨボだったそうだ」
「うわぁ~」
「単純に2倍の時間伸長を使い続ければ、寿命は半分になる。3倍なら三分の一になるだろう。使った分だけ命を縮めてしまう禁忌の術法だ。数時間程度なら問題は無いが、必要以上に使ってはいけないよ」
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