5-6.ツインレイ




──翌月、柊の新しい職が決まった。


 10年の空白はあっという間に埋まっていき、平穏な生活が日常になった。二人でいると、環境も心も全てが安定するような……そんな感覚があった。



 その頃、とあるカップルのブライダルメイクを担当することになった。佐藤さんご夫妻──私と同年代のカップルだった。



 これまで数多くの婚礼を担当してきて、いろんなご夫婦を見てきた私。


 けれども、佐藤さんご夫妻が醸し出す雰囲気は……これまで見てきたどのカップルとも違っていた。単純に仲が良いだとか、顔が似ているだとか、そうゆうものではなく。



 言葉にはうまく言い表せないけれど、目には見えない何か深い繋がりがあるように感じた。


 打ち合わせの際に見つめ合う佐藤さんご夫妻を見ていると……まるで、二人だけの世界がその空間に広がっているように見えた。




 当日、新婦さんのメイク中、そのことをお伝えすると……



「平岡さん……『ツインレイ』って、知ってますか?」



 初めて聞くその言葉に首を横に振る。


 佐藤さんは、とびっきり幸せそうな笑顔を鏡越しに向けてくれて、恥ずかしそうに話し始めた。



「よく……魂レベルで深い繋がりを持つ相手のことを『ソウルメイト』とか言うじゃないですか……?そのソウルメイトの中でも特に結び付きが強い相手のことを『ツインレイ』っていうらしいんです……」


「『ツインレイ』って……『双子の光』って訳なんですけど、前世では一つの魂だったものが、今世で二つに分かれたって言われてるみたいで……」


「だから、一人より二人でいる方が落ち着くってゆうか……安定するとか……なんか諸説あるみたいなんですけど……、そうゆうものらしいんです……」



 メイクを進めながら話を聞いていると、恥ずかしくなってしまったのか口籠ってしまった彼女。


 頬を赤らめている姿を鏡越しに見て……言いたいことはもう分かった。



「……佐藤さん達は、ツインレイなんですね?」


 私まで幸せな気持ちになってそう聞くと、彼女はハッとして小さく頷く。



「……スピリチュアルなことって全然わからないんですけどね。そんな気がしてるんです。笑」





──私は自分と柊に重ね合わせて考えていた。


 帰宅後、『ツインレイ』というものをネットで調べれば調べるほど、自分と柊はそれとしか思えなくなっていた。








──私達は、結婚式を挙げないことに決めた。


 お母さんとお父さんにはもちろん報告して、二人共とても喜んでくれた。


 お母さんは、柊のパパと二人で暮らしていたあの家で、これからも一人、近所の方々と助け合いながら暮らしていくことにしたらしい。




 ただ、結婚式は挙げないことにしたものの、柊が「亜妃のドレス姿を見たい」と言ってくれて。


 自分の働いているブライダルサロンで、ウェディングドレスを着て、二人の結婚記念に写真だけ撮ってもらうことになった。





 職場の先輩である仁美さんに、あの人気No.1ホストの“ヒカル”と実は幼馴染で、結婚することになったと報告したら……それはもう、腰を抜かすほど驚いていた。



 あんなイケメンと結婚できるなんて羨ましすぎると妬きもちを妬きながらも「撮影のメイクは絶対に私が担当する!」と、心から祝福してくれた。






──ちょうど私の仕事の繁忙期と重なってしまい、少し時間が空いてしまったけれど……


 結婚してから半年程経った頃、ようやく写真撮影の日を迎えた──




 柊に内緒で、仁美さんとドレスを選んでおいた私。着替えを済ませ、メイクルームで、いつもよりも華やかなお化粧を施してもらう。



 撮影のスタジオへ移動すると……


 シルバーの光沢ある素材のタキシードを着て、キラキラしたオーラに包まれた柊が、先にスタンバイしていた。





「……亜妃…っ……」


 柊は私のドレス姿を見るなり、目を潤ませている。


「ごめ……なんも言えな…っ……」


 涙が溢れて来ないように、天井を仰いでいた。



「もー、ヒカ……じゃなくって、柊くん!ちゃんと見てあげて〜!亜妃ちゃん……とっても綺麗よ〜」


 仁美さんが後ろから柊の両肩を叩き、私の方に近づくよう促す。



「すげー綺麗だよ……亜妃……」


 目の前に立つ柊が、潤んだ瞳で私をやさしく見つめてくれている。



 婚姻届を出した時にはあまり実感が湧かなかったけれど……。このとき初めて、私達は家族になったんだなぁと実感した。



「……今日から本当に家族って感じだね?」

「……そうだな」




 柊も感慨深そうに微笑みながら応えてくれた──








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