最終章

5-1.誓いの証


 昔から、柊の行動力には目を見張るものがあったけれど……そこからの彼の行動は、とにかく早かった。



──翌朝……北海道を発つ前、


「俺、仕事辞めてくるわ」


 柊はそんな言葉を残して名古屋へと帰って行った。


 私も東京へ帰り、急なお休みのお詫びと北海道のお土産を渡すため、少し職場に出向いてから帰宅した。



──その夜……21:00頃…


『家の住所教えて』


 柊から突然、連絡が来た。よく分からないまま住所を教えると……1時間後、部屋のインターフォンが鳴る。


 慌てて玄関に行き、鍵を開けた。


 そこには髪を黒くした柊が、小さなキャリーケースを一つ持って立っていた。


「え、柊?!どしたの?!」


 ビックリしながら部屋の中へ入ってもらう。


「仕事辞めて、家も解約してきた」


 柊は清々しい顔をして、そう言った。


「明日からこっちで仕事と家探すからさ、ちゃんと見つかったら、一緒に住も?」


「あ、でも俺……ヒモみたいなのはもう嫌だから。笑

 家見つかるまでホテル泊まるから、今日だけ泊めてもらってい?」


 柊は昔と変わらず、本当にまっすぐで全力な人だった。


 私はそんな彼の姿が愛おしくて嬉しくて……込み上げてくる気持ちを落ち着かせながら、うん、うん、と何度も頷いていた。


「──とりあえず、座って?……何か飲む?」


 荷物を置いた柊をソファーに促すと……


「……その前に………ちょっと……、」



 ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、何やら深刻そうな声で呼び留められる。


「ん……?なに……?」

「……これ……受け取ってくれる?」


 柊はポケットから、ネイビーブルーの上品な小箱を取り出して。


 私に中身を見せるよう、左右にパカっと開いた。


 見ると……


 とんでもない数のダイヤがアームにまでビッシリ散りばめられ、眩しいほどキラキラ輝く──指輪が入っていた。



「うそ……こんなすごいの私……受け取れな…「結婚しよ?」


 私の言葉を遮るように、柊は言った。


「俺さ……あの仕事してたの、お前にこの指輪買うためだったっぽい。笑」


 戯けたふりをする柊。



「……もー……なに言ってるの……」


 私はそのあまりにも美しすぎる指輪の入った小箱を、恐る恐る手に取る。


 平凡な自分には不釣り合いな……豪華で高価な指輪。


 あまりにも急な展開で、戸惑う気持ちもあったけれど……。


 彼とこれから先の人生を共にすることに、一片の迷いもなかった。


 私は、柊の目をしっかりと見つめて


「ありがとう……よろしくお願いします」


 その決意を再び言葉に込めた。


 柊はほっとした顔をして、小箱からその指輪を取り出すと……私の指にスッと嵌める。


 ビックリするくらい私の指にぴったりフィットしてる美しい指輪。


 その輝きの中に、柊と私の10年間が、ギュッと詰まっているような気がして……。

 眩い誓いの証を、しばらく眺めて続けていた──

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