4-10.決意と覚悟


──翌朝…


 目が覚めて、ふと隣を見る。


 綺麗な寝顔でスヤスヤと眠っている柊。


 こんな朝が訪れるなんて……数日前の私には想像もできなかった。


 まさか……夢じゃないよね……?


 頬を抓ってみる。……うん、痛い。


 そんなことをしていると……隣でモゾモゾと柊が動き出した。



「ん……起きてたの……?」

「うん、おはよ」

「はよ」

「ふふっ」


 幸せが溢れて、思わず笑みがこぼれる。


「これ……夢じゃないよね……?」


 柊は「ふはっ」と小さく吹き出して。


「俺も今……同じこと考えてた。笑」


 私をグッと抱き寄せて、頬に唇を寄せる柊。


「生きててよかった……」


 噛み締めるように言いながら、優しい瞳で私を見下ろし、甘く甘くキスしてくれた。


 二人はもう……10年前と何も変わらない空気感を纏っていた。ベッドの上、お互いの存在を確かめ合うように、ずっとずっと寄り添っていた。



「──せっかくだし、もう一泊してかね?」

「うん、良いね。そうしよっか」


 その日、私たちは北海道を観光することにした。



 これでもかというくらいに広がる大自然は、私たちの心を解放していった。


「うわ〜、やべーな!まじで良いとこ!俺らが苦労してる間、あいつらこんな長閑な場所でイチャイチャしてたのかと思うと……普通にムカつくわ。笑」


 柊はそんなことを言いながらも、とても清々しく解き放たれた表情をしていた。


「ふふっ、だね。ほんとムカつくー!笑」


 私も真似してそう言うと、顔を見合わせて笑った。


 その日一日中、私達は当たり前のようにずっと手を繋いでいた。


 若かった10年前とは違って、お互いもう良い歳だということも忘れ……恥ずかしげもなく、手を繋いでいた。


 そしてこの10年の隙間を埋めるように、いろんな話をして、同じ時を過ごした──


 


──夜になり、柊の提案で旭山記念公園に向かった。


 展望台に上ると……

 澄んだ空気。

 ライトアップされた噴水。

 札幌の夜景。


 そのすべてが相まって美しく、涙が出そうだった。



「亜妃?」

「ん?」

「昨日……ちゃんと言えなかったからさ……」


 柊は向き合って、私の手を両手で包み込む。




「もう一度、俺と付き合ってください」



 こうしてちゃんと男らしく伝えてくれる所も、昔と変わらない柊だった。



「はい……よろしくお願いします」


 私が答えると、くしゃっと笑って抱き締めてくれた。



 しばらくそのまま抱き合っていると……


「でもさ……」


 柊がまた不安そうな顔をしながら、身体をそっと離す。


「ぶっちゃけ引いたっしょ?……昨日の話」


 そう聞きながら、視線を遠くの景色に向けている。

 私が本音を言いやすくしてくれてるのが伝わってきた。



「──引いてないよ」


 力強く言うと、柊は不安そうな顔のままこっちを見る。


「自分でもビックリするくらい、引いてない」


 私は心から湧いてきた言葉を……そのまま伝えた。


「虚しかっただろうな、寂しかっただろうなって……その頃の柊のこと、抱き締めてあげたくなったよ?」


 柊は目を丸くして私を見ると……まっすぐなその瞳を潤ませて、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「さっきさ……、もう一度付き合ってって言ったじゃん?」

「うん……」

「あの言葉、撤回してい?」

「……えっ?」


 戸惑いを隠せず、柊の顔を覗くように見る。


 柊はさっきよりもまっすぐに私の目を見つめて……


「亜妃」







「俺と、結婚してください」






 10年ぶりの再会からわずか4日後──


 私の母と柊の父が駆け落ちした先の、北海道の広大な自然と夜景を前に……


 私は最愛の人からのプロポーズを受けた。



「はい……、よろしく……お願いします…っ…、」


 震える声で答えると、私の頬にすぅっと一筋の涙がこぼれた。


 柊は私を再びぐっと抱き寄せる。


「もう一生離さない。何があっても………お前だけは、絶対」


 その言葉に……彼の決意と覚悟を、強く感じていた──

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