3-11.深い愛


──それから1年が経った頃…


 お互いに仕事が忙しくてなかなか会えなかったけれど、久しぶりに勇人くんと一緒に食事に行った。

 

 私の家の前まで送ってもらった帰り際……車から降りようとすると、目が合う。

 いつものように優しく微笑みながら、勇人くんはそっと私に近づいてキスしてくれた。



──と、そのとき……


 勇人くんが唇の隙間から……舌を割り込んできた。


 この1年で初めてのことだった。

 私は驚いて、咄嗟に勇人くんの胸を押してしまった。


「……ごめん」


 混乱したまま謝ると、勇人くんは戸惑ったような顔で首を横に振った。


「いや、俺こそごめん。調子乗ったわ。笑」


 勇人くんは寂寞感の漂う笑顔を作った後、ふぅーっと息を吐いて天井を仰いだ。


「……亜妃ちゃんの気持ちに整理つくまで待つから。ゆっくり進んでこ?」

 

 勇人くんの底知れぬ深い愛を感じた。


 “申し訳ない”……同時にそう思った。結局1年経っても、こんな顔をさせてしまってる。


 頭では勇人くんを大切にしなくちゃいけないと……ちゃんと好きになりたいと、思ってるのに……。


 私は彼を拒絶してしまった。本能がそうさせていた。


 でもいつかきっと、もっと時間が経てば、受け入れられるようになるはず。こんなにも私を想ってくれている彼を、ちゃんと大切にしていきたい。


 私はまた自分自身に、そう言い聞かせていた。




──そうして、あっという間にまた2年が経った。


 勇人くんとは月に2・3回デートして、それ以外の時間はひたすら仕事に没頭する日々を過ごした。


 その日、勇人くんの車でドライブデートを楽しんだ。いつもとなんら変わりのない穏やかでたくさん笑った一日だった。


 帰りの車中、勇人くんがチョイスしてくれたお洒落な洋楽に耳を傾け、窓の外を見ていると……


「今日……ちょっと俺ん家寄ってかない?」

「え……?」

「もう少し一緒にいたい」


 勇人くんに誘われて、初めて彼の家にお邪魔した。

 なぜだか理由は分からなかったけど、今までは一度も家に誘われたことがなかった。


「──何か飲む?」

「あ……じゃあ、コーヒーもらおうかな?」

「おっけー」


 コーヒーを淹れてくれている間、勇人くんの部屋をグルっと見回す。パッと見た感じはベッドとPCデスクがあるだけの、広々としたシンプルな部屋だった。



──ふと見ると、部屋の隅に置いてある木製のお洒落な戸棚が視界に入る。


 腰の高さより上の部分がガラス張りになっていて、3段になっている小ぶりな戸棚だった。


 ゆっくりと近づくと……真ん中の段には木枠のシックな写真立てに入った3枚の写真が、控えめに飾ってある。


 1枚は、高校の卒業式の写真。

 もう1枚は、専門学生の頃にカフェでお茶をしている時の写真。

 最後の1枚は、お付き合いを始めてから撮ったツーショット写真だった。


……そのどれもに、私が大きく写っていた。


 上の段と下の段をよく見ると……その棚には、私がこれまでクリスマスや誕生日にプレゼントした物が、大切そうに保管されていた。


 タイピンやボールペン、旅行のお土産で買ってきた300円のキーホルダーまでもが、綺麗に棚に収められていた。



──……ふわっと突然、背中に温もりを感じて振り返る。


 勇人くんに、後ろから抱きしめられていた。



「………引いた?」


 不安そうな声が耳元に響く。


「……なんで?……嬉しいよ?」


 嘘じゃない。本当に私はただ、嬉しいと思った。


「そっか……よかった。引かれたらヤダなって思って……、家呼べなかったんだよね。笑」


 勇人くんは、以前見た寂寞感の漂う笑顔を、また作っていた。



「……亜妃ちゃん?」

「ん?」


 クルっと後ろに向き合わされ、目が合う。


「……っ、」


 いつもと同じ、勇人くんの優しいキスが降ってくる。



──…と、思ったのも束の間。


 勇人くんはいつになく激しく唇を求めてきて、キスをしながら私はベッドに押し倒されていた──

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