第3章

3-1.別れのとき


──それから数日間、私は何の感情も沸かないまま、ぼーっと学校へ行き、ただ無心で家事をこなす日々を過ごした。


「亜妃、平岡くんと何かあった?」

「どうしたの?もしかして別れた……?」

「転校したって聞いたんだけど!?」

「ねぇ、何があったか教えて!!」


 仲が良かった女友達から柊のことを質問攻めにされても、頭の中がぐちゃぐちゃで訳が分からず……


「……分からない」


 放心したまま応えるしかなかった。


 その私の雰囲気から只事ではないと皆察したらしい。数日後にはクラスメート含めもう誰も、柊のことを聞いてくる人はいなくなった。


 それどころか、何か大きな秘密を抱えているらしい私と関わることに不信感を抱き始めたようで……

 私に話しかけてくる女友達は、誰一人いなくなった。あっという間に、私は独りぼっちになった。



──1週間と数日が経った朝…


 家のポストを覗くと、一通の手紙が入っていた。


 差出人は……最愛の彼だった。

 住所は記載されていなかった。



 手紙には──


 あの朝、気が狂ってしまったママにスマホを壊されてしまい連絡できなかったこと。


 ママの実家がある名古屋に、あの日の昼間荷物をまとめて帰ったこと。


 夫を奪われたことで、ママは精神的に不安定になり大変な状況であること。


 娘である私と柊が関係を続けたら、ママが私に危害を加える可能性があること。


 私を守るため、もう会えないこと。




 そして最後に……




『本気で愛してた 絶対幸せになってな』





……そう、書かれていた。



 柊からの手紙を読みながら、何かの糸が切れたように涙が次から次へと溢れた。

 いくら泣いても涙は少しも止まらなかった。


 その日は学校になんて行けず、身体中の水分が全てなくなってしまうんじゃないかというくらい、ずっとずっと泣いていた。


 喉が渇いたので立ち上がると、泣きすぎたせいで酷い頭痛がした。


 もういっそこのまま干からびて死んでしまいたいと思うくらい……柊にもう会えないという現実を、私は受け入れることができなかった。




──気がつくと、外は暗くなっていた。


 その日お父さんはこれまで通り仕事で帰りが深夜になると言っていた。

 私はたった独り時計の秒針の音が響く部屋で、ただただ泣き続けていた。



……ふとスマホを見ると、ピコンッと通知が見えた。


 柊から連絡が来ることはもうないと分かっていながらも、慌ててスマホを開く。



 一通のメッセージが届いていた──





──天王寺くんからだった。


『成瀬さん、大丈夫?俺でよかったらいつでも話聞くよ。明日の朝迎えに行きたいから、家の住所教えてもらえるかな?』


 数日前、学校で天王寺くんに会った時も、私はぼーっとしていて挨拶を返す気力もなかった。柊が学校を辞めたことは学校中で噂になっていたので、天王寺くんはきっと何かあったんだと悟って連絡をくれたんだと分かった。


 正直、学校に行く気になんて全くなれなかったけど……この暗い部屋で明日も独りで一日中泣き続けたら、本当に私はどうにかなってしまうんじゃないかと客観的に自分を見ている私もいた。


 誰かと話さなきゃ。このままじゃ壊れてしまう。


……私は天王寺くんに自宅の住所を送った。




──翌朝、支度をして外に出ると、家の前で天王寺くんが待っていてくれた。


「おはよ!成瀬さん、行こ!」


 いつもの爽やかな笑顔で、私の自転車を玄関の乗りやすい位置に移動させてくれる。

 きっと私は、前日に泣きすぎたせいで酷い顔をしてるはずなのに……

 彼は何も聞かず、何の話もせず、静かに私の隣で自転車を漕いでくれた。


──その日から毎朝、天王寺くんが家まで迎えに来てくれた。柊の手紙を読んだあの日から3週間が経ち、私の心は少しずつ現実を受け入れてきていた。



 朝の登校中も天王寺くんが他愛もない会話をさりげなく振ってくれて、少しだけ笑って話せるようになった。


 こうして、1ヶ月、また1ヶ月…と無情にも時は過ぎた。

 その間もずっと、天王寺くんが私のそばにいてくれた。


 毎朝一緒に登校して、学校でもいつも天王寺くんが

頻繁に私の教室に脚を運んでくれて、独りでいる私に話し掛けてくれた。


 彼のお陰で私は人間らしい生活を維持することができてるような……そんなギリギリの精神状態で、なんとか毎日をやり過ごしていた──

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