2-8.衝撃の事実


──柊と付き合い始めて、もうすぐ1年が経とうとしていたある休日。


「たまには気分変えてラブホでも行ってみない?めちゃくちゃ燃えそーじゃん!笑」


 そんな柊の言葉で、さすがに家の近くはまずいだろうと、電車で一時間かけて都心へ出た私たち。


 高校生だし……バレたらダメなやつだと分かってはいたけれど。初めて足を踏み入れる都心のホテル街にソワソワドキドキする。


「どこにすっかー、とりあえず一周見て決める?」


 大人の世界に飛び込んでしまった後ろめたさを感じながら、ホテル街をキョロキョロ見回して歩く。




──ふと、見覚えのあるシルエットが視界に入る。


 正面のラブホテルから出てきたその姿に……

 私の思考は……完全に停止した。


「……お母さん……?」


 昔、父が誕生日プレゼントに贈っていたヴィトンのバッグを持つその人物は……


 紛れもなく……私の母親だった。


 驚きのあまり、ただ呆然とする私。


 すると……視線の先に、もう一つ見覚えのあるシルエットが現れた。



「親父……?……え…嘘だろ……、」


 私の母の隣で優しく微笑みながら腕を組んでいたのは……あろうことか、柊の父親だった。

 二人は私たちの存在に気付くことなく、駅の方へと歩いて行った──




「………」「………」


 二人の間で沈黙が続く。


「……とりあえず、カラオケでも入るか」

「……うん」


 歌う気分になんてサラサラなれなかったけれど。

 誰にも見られない場所で、ただただ心を落ち着かせたかった。


 カラオケの部屋に入り、座ったまま……無言で手を繋ぐ私たち。

 どこかの部屋で若い学生たちがアイドルソングを熱唱する声が漏れ聞こえ、虚しく響いている。



「……このことは黙っとこ?」


 先に口を開いたのは、柊だった。


「さっき見たの、俺ら二人だけの秘密な?」

「………うん」


 私も柊も……ことの重大さは充分に理解できる年齢だった。


 私の母と柊の父はイケナイ関係にある。芸能人などがしようものなら一斉に叩かれてしまうような……“悪”とされる関係に。


 不安な気持ちを隠し切れずにいると、柊がクッと手を引いて抱きしめてくれた。


「まぁ……きっと一時の気の迷いってやつじゃない?大人でもあんだなー。…そりゃあるかぁ……」


 いつまでも気持ちが落ち着かない私を励まそうとしてくれてるのが伝わる。


 でも……あの時の二人の表情を見たら、誰だって分かる。柊だって本当は分かってるはず。


 お互いを心底愛おしそうに見つめ合い、幸せそうに微笑み合っていた。

 二人の恋愛は気の迷いなんかじゃない。本気だ。


 子供の私たちが問いただして、他の大人にバレる前になかったことに出来るような……そんな簡単な関係ではないことが、二人の様子から見て取れた。



……冷静に考えてみると、最近の母の様子はおかしかった。友人のお店の手伝いと言って帰宅が深夜になることも多かった。


 それに最近やたらと綺麗になった気がしていた。


 まさか……そうゆうことだったなんて。


「もしかしてさ……あの夜も……?」


 柊が言う“あの夜”というのは、半年前──私と柊が初めて身体を重ねたあの夜を指しているのだと、すぐに分かった。


「そうゆう……こと……だよね、」


 たしかにあの夜、母は友達の家に泊まると言い、柊の父も仕事で都内に泊まると言っていた。


「………だな、」


 二人の間に再び沈黙が流れる。


「大丈夫だって!俺らには関係ないっしょ」

 柊は私の不安を拭うように、明るく振る舞ってくれたけれど。


 きっとお互いに……これから訪れるかもしれない何かを予感していた。

 私は不安と恐怖に押し潰されそうで……


「柊……」


 ただただ分厚い身体に抱きついて、震える心を押さえ込もうとしていた。


「……大丈夫。俺がお前のこと守るから」


 力強く言ってくれる柊の声からも、不安と戸惑いが色濃く伝わってきた。

 二人の関係が誰にもバレませんように。このまま何事も起きませんように。どうか、神様……───

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