2-2.運動会のヒーロー


──冷え込んだ朝が嘘のように暑い日。


 雲一つない快晴。強い日差しは真夏のようだけど、やっぱり風は少し冷たく秋を感じさせられる。



…──次は、組別対抗リレーです──…



 アナウンスが流れると、リレーの選手達がゾロゾロと校庭に集まる。


「亜妃、次だね。超〜楽しみ!」

「平岡くーん!大〜好きな亜妃ちゃんが、応援してるからね〜!!」

「ちょっと……!やめてよ……笑」


 クラスメート達の冷やかしの声に恥ずかしいながらも、柊に視線を向ける。選手達が集まる校庭の真ん中から、右手を高く上げて手を振ってくれてる柊と、視線が合った。私も小さく手を振り返す。


「ひゅ〜っ!いいないいな〜!」

「THE青春だね〜!」


 なんて揶揄われて、また恥ずかしくなる。



「──位置についてー!よーい、」


…────パンッ…


 ピストルの渇いた爆音が空に響き渡ると同時に、第一走者が走り出す。



「いけー!!走れー!!」

「青〜!がんばれ〜っ!」


 あちこちから応援の声が飛び交う。

 組毎に色が割り当てられ、全4組で競い合う。

 私と柊は同じクラスで紅組。


 足の速い柊はアンカーを任されている。


「いいぞ〜!行け〜!」


 紅組は現在2位。順調な滑り出し。


 このまま行けば……

 柊が抜かして1位になってくれるかも……!



「天王寺〜!がんばれー!!」

「勇人くーん!きゃー!かっこい〜♡」


 青組の天王寺くんもリレーの選手。なかなか速くて、4位から3位に追い上げた。

 あと3人でアンカーだ……。しゃがんでスタンバイしてる柊を見つめながら、ドキドキと自分のことのように緊張が走る。



「……っあ!!」


 紅組の男子が転倒してしまった。


「あーぁ、まじか〜…」

「がんばれ〜!まだいけるよ〜!!」



 落胆と応援の声が入り乱れる中、急いで起き上がるも、紅組は2位から4位に転落。まだそんなに離れてはいないけど……これじゃ1位は無理かも。残念に思っているうちに、いよいよアンカーの出番。


「平岡く〜ん!頑張って〜!」

「柊くんファイトー!」


 いよいよスタートラインに立ち、バトンを受け取った柊……。



「柊〜!!!がんばれ〜!!!」



 ちゃんと届くように……自分の中で最大限に大きな声を出してみる。


 がんばれ、柊。……祈りながら見ていると……


「ぎゃ〜!!♡かっこい〜!!!♡」

「すげー!柊、そのまま突っ走れ〜!!」


 柊はものすごい勢いで加速して、次から次へと前の人を追い越して行く。まさにごぼう抜き。


「柊くんかっこい〜!!♡」

「平岡くーん!やばーい!!♡」


 先輩も同級生も、黄色い歓声をあげてざわめく。




…───パンッ…


 ピストル音と同時にゴールテープを切ったのは……





 最下位でスタートした紅組………柊だった。



…──ギャアァァ〜!!!


 校庭全体に地響きのような拍手と歓声が鳴り響く。



「亜妃〜、やばかったー、泣いたー…っ、」

「最っ高の彼氏だよー、かっこよすぎたー!」


 感動してウルウルする中、大興奮のクラスメート達に囲まれる。



「亜妃ー!」


 周りのどよめきには脇目も振らず、まだ息を切らしてる柊が私の方に駆け寄ってきた。



「………ちゃんと見ててくれた?」

「うん、すごいかっこよかったよ」


 へへ、と嬉しそうに笑う柊。


「お前の応援で一気に加速したわ。笑」


 ありがと、って言って私に一歩近づき……


──…チュッ…


 おでこに優しく触れる唇。


「ギューもしたいけど……俺いま汗くせーから。笑」


 後でご褒美ちょーだい、なんて言い残して、仲良しの男子達の輪に戻って行く。


 キャー♡って嬉しそうにはしゃぐ私の友人達。……と反対に、他の女子達からは鋭い視線。



 恥ずかしいし、嫉妬はちょっと怖いし……。

 でもやっぱり……嬉しくて。


 彼氏が運動会のヒーローになった日。

 また一つ、大好きが更新された───


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