1-11.通じ合う気持ち~柊side~
──無事に同じ高校に入学し、少し経ったある日。
朝うちの玄関まで迎えに来てくれた亜妃を見ると、いつもは胸まで下ろしている髪を1つに束ねて、薄っすらと化粧をしてきていた。
その姿があまりにも可愛くて綺麗で、俺は亜妃を直視できなかった。
登校中もうまく喋れず、亜妃に大丈夫かと聞かれたけれど……
「大丈夫じゃ……ねーよ……」
可愛すぎて、全然大丈夫じゃなかった。
その日は一日中、彼女の方をちゃんと見ることができず、会話もぎこちなくなり、亜妃を心配させてしまってるのが分かった。
帰宅してから声が聴きたくなったけど……
今日電話したら、どうにも気持ちを隠しきれない気がした。
俺は全然眠くないまま部屋の電気を早々と消し、ベッドの上に寝転んで、眠気が来るまでずっと亜妃のことを考えていた。
それから毎日、亜妃は化粧をしてくるようになった。
「メイクって楽しい」
「もっといろいろ試したい」
登下校時に嬉しそうに楽しそうに話す彼女はとても生き生きしていて、輝いていた。でも俺は内心、これ以上、亜妃が可愛くなってしまうのが怖かった。
他の誰かに取られてしまうんじゃないか?
自分と距離ができてしまうんじゃないか?
毎日どうしようもなく不安だった。
──それから1週間が経った日…
俺の部活中、ときどき亜妃が廊下の窓に来て校庭を眺めていることを知っていた俺は、サッカーゴールの前からチラチラその方向を見ていた。
少し経つと亜妃が歩いて来て、窓から少しだけ顔を出し、校庭を眺め始めた。
そこへ、颯爽と走って来た男。
爽やかな笑顔で何やら話をしている。
たしか先週、校門の前で話し掛けてきてた奴……。
天王寺とかいう、いかにも少女漫画に出てきそうな名前の、長身で爽やかなそのイケメン。いつの間にか亜妃とLINEを交換していた。
そしてどうやら亜妃に“一目惚れした”と伝えたらしい。
俺は平然とサッカーボールを蹴るフリをしながらも、過去の奴らは非じゃないくらいに焦っていた。
これまでは俺がこっそり牽制し続けてきた効果で、誰も亜妃に連絡先を聞くところまで近寄るやつはいなかったけど……あの爽やか野郎は俺の知らぬ間に、簡単に彼女との距離を詰めていた。
このままだと本当に亜妃があいつと付き合ってしまうかもしれない……。
これまでも何度か気持ちを伝えようと思った瞬間はあったけど。
いつも近くにいられる、この“幼馴染”という距離感が心地良くて、俺はなかなか伝える覚悟が出来ずにいた。
いつもやたらと“幼馴染”を強調してくる亜妃だから、恋愛対象として見られてないのなんて分かってる。
でもこのまま何も行動せず、亜妃が他の誰かと付き合ってしまうのを見るのは……
あまりにも長い期間、亜妃だけを見続けてきた俺には、どうしても耐えられなかった。
俺は前々から決めていた通り、あの場所に彼女を連れていく覚悟を決めた──
──帰り道、思い出の神社に亜妃を連れて行く。
一度、自分の想いを口に出したら、堰を切ったように次から次へと気持ちが溢れてきて。俺は10年以上溜め込んできた想いを、ただただ夢中で亜妃に伝えた。
ふと振り返ると……亜妃の頬を涙が伝うのが見えた。
困らせてしまった。
泣かせてしまった。
やっぱり幼馴染のままでいよう。
これまで通りそばにいさせて……?
そう願いながら亜妃の涙を拭っていると……彼女も気持ちを伝えてくれた。
俺は自然と身体が動き、亜妃を強く抱き締めていた。
勝手に俺が困らせたと勘違いしてしまったせいで、中途半端になってしまったのが嫌で……俺はもう一度、亜妃に告白した。
「亜妃のことが好きです。俺と付き合って下さい」
「……はい」
こんな奇跡があって良いものなのか……?
こんなに魅力的な女性が、俺なんかのこと好きでいてくれたなんて。
俺はずっとずっと触れたかった彼女の両手に触れ、そっと包み込んだ。
一生大切にしよう。
一生亜妃を守る。
そう、心に決めた。
気がつくとまた自然に身体が動いていて、亜妃の頬に手を触れていた。
……やばい。
……キスしたい。
付き合ってすぐなんて引かれるかな?
そう思ったものの、もう俺には本能を抑え込む余裕はなかった。
キスしていいか尋ねると、亜妃は恥ずかしそうに俯きながら頷いてくれた。
俺はそっと手を、彼女の顎に添える。
これまでずっと近くで見てきた亜妃の顔……。
それでもこんなに至近距離で見るのは、もちろん初めてだった。
透き通った白い肌。
閉じた瞼から伸びる長いまつ毛。
形の良いピンク色の唇。
そのどれもが綺麗すぎて、俺の心臓はバクバクと波打っていた。
顎に添えた方の手を彼女の肩に戻す。
やり方なんて全然分からなかったけど、そっと顔を近づけて、自分の唇をやさしく亜妃の唇に押し当てた。
その柔らかい感触に触れた瞬間、俺の身体はカーッと熱くなり、正直な俺の下半身は少し反応してしまった。
興奮を抑えるようにゆっくりと唇を離すと……目を閉じたままの、綺麗な顔がまだそこにあった。
いま、俺は亜妃とキスしたのか。
亜妃が俺の彼女になったんだ。
そう思うととてつもない幸せを感じて。
亜妃がゆっくり目を開けた瞬間、俺は再び彼女を強く抱き締めていた──
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