1-10.好きは隠して~柊side~


──俺の側には、いつも亜妃がいた。



 亜妃は子供の頃から近所でも評判の綺麗な女の子だった。


 白く透き通る肌。

 艶々の茶色がかった髪。

 色素の薄い澄んだ大きな瞳。


 笑顔がキラキラしていてどこか品があり、惹き込まれるような魅力を幼い頃から持っていた。


 幼稚園の頃からいつも俺らは一緒に遊んでいた。


 今思い返せば、俺はもうその頃から亜妃に恋をしていたんだと思う。



 亜妃と手を繋ぐとなぜか心臓がドキドキしたり…

 亜妃が男子に揶揄われていると、そいつらから守りたいと思ったり…

 亜妃が笑う度すごく嬉しくなったのを、今でも薄っすらと覚えている。




──小学3年の時、俺は亜妃が好きなんだとはっきり自覚した。


 それまでは手を繋いだりハグをしたり、男女を意識せずに出来ていたことも、それ以来ひどく意識してしまって、亜妃に簡単に触れることが出来なくなった。


 小学校・中学校と一緒に時を重ねるにつれて、亜妃への気持ちはどんどん大きくなっていった。


 だんだんと女らしい身体つきに変わっていく亜妃にドキドキしてる自分が恥ずかしくて、そんな自分の気持ちに気付かれないように幼馴染のポジションを全うしていた。



──中学1年のある日…


 クラスの男子達が何やら騒いでいて、その会話の中に入ると、皆で亜妃の話をしていた。


 皆、亜妃は学校内で一番可愛いだとか、男はみんな好きなタイプだとか言っていた。


 その中の一人が、亜妃のことが好きかもしれないと言い始めた。

 俺はその瞬間……今まで感じたことのない焦りを覚えた。


 亜妃が他の男のものになってしまうかもしれない。


 これまで誰よりも側にいて、誰よりも亜妃を知ってるのは……俺のはずなのに。


 そう考えると居ても立ってもいられなくなり、俺はそいつにやたらと話しかけるようになった。


 亜妃についての話を聞きながらも、自分がこれまでどれだけ亜妃と過ごして来たかをひたすらアピールした。



 すると、そいつはある日──



「柊が成瀬のことそんな好きなら……俺は諦めるよ」


 そう言ってきた。


 俺は内心ほっとして、その日から事あるごとに、この牽制方法を使うようになった。


 本人はまったく気付いていなかったけど、亜妃の男子人気は相当なもので、学年や部活に関係なくいろんな男子達に狙われていた。


 俺は毎日そいつらを牽制するのに忙しかった。




──中学3年のある日…


 俺はまた昼休みに他のクラスの女子に呼び出された。



「……好きなの。だから……私と付き合って」


 ……また、告白された。


 俺はなぜだか女の子からやたらとモテた。


 自分では理由が分からなかったけど、小学校・中学校と同級生に限らずいろんな女の子から告白された。



「ごめん、俺付き合えない」


 亜妃以外の女の子にはこれっぽっちも興味がなかった俺は、毎回はっきりと断っていた。


 女の子が去って行ったので俺も教室へ戻ろうと振り返ると、亜妃が気まずそうな表情で立っていた。


「ごめん……今さっきの聞いちゃった…笑」


 俺は何と応えたら良いのか分からず、亜妃の頭にポンポンと触れて教室へと戻った。


 亜妃の髪の感触が…しばらく手の中に残っていた。


 小3で亜妃を好きだと自覚し始めて以来、亜妃の手や身体に簡単に触れることができなくなった俺にとって、頭をポンポンすることだけが亜妃に触れてできる唯一の愛情表現だった。


 “俺が付き合いたいのは、亜妃だけなんだよ……”


 そう心の中で呟きながら、俺は授業へと意識を移して行った───



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