1-9.ファーストキス



──しばらく心地良い沈黙が続いた後…



「キス………してい?」


 柊が私を覗き込むようにそう聞いた。

 私は恥ずかしくて俯いたまま……小さく頷く。


 柊は私の頬に触れていた手を顎に移動させ、顔をくっと上へ向かせる。


 毎日当たり前のように見てきた柊の顔。

 改めてこんなに近くでじっくり見ると……あまりにも綺麗な顔をしていて、ドキドキした。



「目、閉じて?」


 言われるがまま静かに目を閉じる。

 私の両肩に置かれた柊の手にギュッと力が入り、顔が近づいてくる気配がした。




「──っ、」



 優しく唇に柔らかいものが触れて、そっと離れていくのを感じる。


 ゆっくりと目を開けると、すぐ近くに少し潤んだ綺麗な瞳。


 柊はその太い腕で私をまたギュッと強く抱き締めた。私もギュッと抱き締め返す。




「俺いま……幸せすぎてやばい。笑」



──…ドッ…ドッ…ドッ…


 触れ合ってる胸元から直接感じる柊の鼓動。

 そのスピードから、彼の高揚感が伝わる。


「ふふっ、柊の心臓ドキドキいってる」

「お前、言うなよそれ……。恥ずいから」


 ふぅ…と一息吐いてから、柊は私を抱き締める腕の力を弱めた。

 私の顔を優しく覗き込み、すっと右手で私のまぶたに触れる。


「メイク……めちゃくちゃ可愛いよ?つーか、可愛すぎて不安になるわ。笑」

「………もしかして……反応薄かったのって?」

「いや、もう可愛すぎてさ。他の奴に亜妃のこと取られたらどうしよとか、最近そんなんばっか考えてた」


 そんな風に思ってくれてたなんて。

 恥ずかしそうに話す柊が……なんだか可愛い。


「えー、なにそれ、かわいい♡」


 ふざけて柊の肩を人差し指でつつく。


「るせー、茶化すなよ」

「ふふっ、ごめんごめん。嬉しいよ?」


 不貞腐れて横を向く柊の顔を覗くと目が合って……再び分厚い胸の中に引き寄せられた。


「頼むから……もうこれ以上可愛くなんなよ。心配でたまんねーからさ、まじで」


 耳元で恥ずかしそうに伝えてくれた。


「……ありがと」


 嬉しい気持ちがちゃんと伝わるように、私も柊の背中に回した手に強く力を込めた。


「なぁ、亜妃……?」

「なぁに?」


 耳元で遠慮がちに声を発する柊。静かに次の言葉を待っていると、ふわっと身体を離されて、再び見つめ合う。




「もっかい……いい?」



 恥ずかしそうに聞く柊に、いいよって……目で合図をする。





「───っ、」



 今度は私の後ろ髪に片手が添えられて、さっきより長めに唇が触れ合った。



「よーし、じゃ……帰るか」


 ゆっくり顔を離すと、照れ隠しなのかすぐにベンチから立ち上がる柊。


「……ん、亜妃?」


 私に手を差し出して立たせてくれた。そのままそっと指を絡めてくれる。


「これからは手、毎日繋ごうな?」

「……うん」


 こうして私達は…10年以上の幼馴染期間を経て、

 晴れて恋人同士になった───



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