1-8.溢れ出す気持ち
「え………うそでしょ?」
「ふはっ、こんなつまんねー嘘つくと思うか?笑」
柊は決まり悪そうに笑って、チラッと私を見ると…そのまま話を続けた。
「まじでさ、すげー良い女だと思う。亜妃は」
「え……?」
何が何だかよく分からなくて、柊の顔を覗き込む。
「なんつーかさ。見た目は女子って感じだし……守ってあげたくなる感じでさ?」
「可愛くて、やさしくて、純粋で。
いっつもすげーキラキラした顔で笑ってて」
あまりにもストレートな褒め言葉の数々に恥ずかしくなって、顔も耳もどんどん赤くなるのを自覚する。
「でもさ、そんな感じなのにいざって時はたくましいっつーか。ちゃんと自分の意思持ってて、決めたらブレないしさ。
なんかかっけーんだよ、お前って」
柊は、はにかみながら優しい眼差しを私に向ける。
「そう……かな?」
小さな声で私が聞くと、柊は静かに頷く。
「亜妃ってさ、綺麗なんだよな。見た目だけじゃなくて、中身も。まっすぐであったかくて……めちゃくちゃ透明って感じ?」
「一緒にいると俺まで心が浄化される感じがすんだよな」
柊がそんな風に思ってくれてたなんて、胸がいっばいで顔がちっとも見られない。
「だから俺……お前に惚れてんの。お前の全部に」
柊の大きな手が私の両肩に触れる。クイッとその手に力が込められて、二人向き合う体制になった。
心臓がバクバクと音を立て、壊れてしまうんじゃないかと思うほど熱く高鳴っている。
柊の視線と私の視線が……
ぴったり重なった瞬間──
「亜妃のことが好きです。俺と付き合って下さい」
初めて見る真剣な柊の顔。
力のある眼差しの奥で、不安そうに揺れる瞳……。
もうこれ以上ないくらい胸がいっぱいで、涙がじんわりと込み上げてくる。
なにも言葉が出てこない私に、柊は慌てたように言葉を繋いだ。
「……ごめん、困るよな?ただの幼馴染って思われてんの知ってんだけどさ……」
柊は私の両肩から手を降ろし、ベンチの正面に視線を逸らしながら言った。
「俺もうどーすりゃ良いか分かんなくて……。最近お前のこと意識しすぎて前みたいなノリで話せなくなってさ、なんか…心配かけちゃってたし……」
そっか。最近の微妙な空気はそうゆうことだったのか。
「いつかは伝えなきゃと思ってたんだけど……。
幼馴染の関係が俺すげー心地良くて……この空気感失うの恐かったんだよね、ずっと」
柊はベンチから立ち上がって、私に背を向ける。
「でもさ、今日俺が部活やってる時に……天王寺?あいつと楽しそうに話してるのが見えて。なんか俺、すげー焦ってきて……」
「この前も告白っぽいことされてたし。あいつにお前のこと取られたらどーしよーって。もう取られるならいっそのこと、その前に当たって砕けるか!って思ってさ。笑」
柊は昔のことを思い出しているのか、遠い目をして夜の空を見上げている。
「お前に気持ち伝える覚悟が出来たら、絶対ここ連れてきて伝えようって決めてたんだよね」
柊が振り返った瞬間……
私の頬を、一筋の涙が伝った──
「え……泣いてる?」
柊は慌てて私の隣に再び座り、私の頬に伝った涙を親指でぶっきらぼうに拭う。
「いやごめん、泣くなって。あー……もう、こうなんのが嫌だったから…今までずっと言わずにきたのに……」
次から次へと瞳から溢れてくる涙を、柊は何度も拭ってくれる。
「亜妃、困らせてごめん。ほんとごめんな?…ぜんぶ忘れて!今の話は全部なかったことで!明日からまた今まで通り。何も変わらず、幼馴染な!だからもう……泣くなよ……」
柊が無理に笑顔を作ってくれてるのが分かった。
私は涙でボヤける視界の中、柊の瞳を……まっすぐに見つめる。
「………いやだよ…」
「……………え?」
柊は驚いた顔をして、私の心情を必死で読もうとしてる。
「今の話…全部なかったことにするなんて……私……いやだよ…っ…」
泣きながら柊の方を向いて、その見慣れた大きくて綺麗な瞳を……じっと見つめた。
「……わたしも好き」
「え?」
「私もずっと好きだったの。柊のこと」
柊は目を見開いて私をじっと見つめ返す。
その瞳の奥に、不安の色はもうなかった。
次の瞬間──私の身体は、柊の厚い胸の中にすっぽりと収められていた。
「私も柊とおんなじ……言えなかった……。幼馴染の関係が心地良くて、変わっちゃうの怖かったの」
胸の中からくぐもった声でそう言うと、柊はぐっと腕の力を強め、私をきつく抱き締めた。
「さっきの話……なかったことにしなきゃ、ダメ?」
私のその言葉に柊は腕の力を弱め、ゆっくりと視線を合わせると……首を横に振りながら穏やかに笑う。
「なかったことにすんな。笑
でも……もう一回ちゃんと言わせて?」
不安の色が消えた澄んだ瞳で、まっすぐに私を見つめる柊。
私も同じように……まっすぐ見つめ返す。
「亜妃のことが好きです。俺と付き合って下さい」
「……はい」
答えると、柊は心底安心したように顔の緊張を緩め……私の両手をそっと包み込んだ。
「一生大切にする」
揺れる瞳で私を見つめ、右手でやさしく私の頬に触れてくれる柊。
「………」「………」
二人の間にこれまでとは違う、ほのかに甘い風が吹いたような……そんな気がした──
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