1-6.爽やか少年現る
「……はい。ごめんなさい、何組の人ですか?」
自分のクラスの人以外まだちゃんと認識できていなかった私は、彼の存在を知らなかった。
「あ、ごめん!俺は3組の天王寺勇人。よろしく!」
「天王寺くん……よろしくね」
こんな爽やかな男の子、この学校にいたんだ……。
「ラッキーだったわぁ!教室に着替え忘れちゃって取りに来たんだけどさ、まさか成瀬さんと話せるとは!」
「え……?どうして私のこと知ってるの?」
不思議に思って聞く。
「どうしてって……?いや、俺だけじゃなくてさ、たぶんこの学校の男子ほとんどが成瀬さんのこと知ってるよ〜!」
「……え…?」
「いや、まぁさすがに学校の男子ほとんどってのは……ちょっと大袈裟かもしんないけどさ。笑
でも俺の周りの男子みんな、成瀬さんが学校内で一番可愛いって言ってるよ?」
……いやいやいや。
私はこれまでの人生で、モテた経験が一度もなかった。
女友達は、
「亜妃がモテないのが信じらんないよね〜」
「ほんと、顔は抜群に可愛いし性格も良いし、私が男だったら間違いなく狙ってる!」
「……まぁでも、あんな最強のイケメンボディーガードが四六時中周りウロウロしてたらさ?そりゃ男どもは立ち向かう勇気出ないわな~笑」
と……要は柊の存在があるから男子達は私に近寄って来られないのだと。
いつもそんなことを言ってくれていた。
「俺さ……、成瀬さんに一目惚れしちゃったんだよね。だからこうやって話せてマジで嬉しい!よかったら、連絡先教えてくれない?友達からで良いからさ!」
「……え……?……あ、うん、良いよ!」
私はスマホを取り出して、天王寺くんと連絡先を交換した。
考えてみれば……私の電話帳のお友達の中に、男子は父と柊しかいなかった。
そこへ今日、新たに天王寺くんが加わった。
「……やっべ。休憩終わる!じゃ俺行くわ。連絡するね!」
「うん、部活がんばってね」
彼は爽やかな笑顔で、風のように体育館へと戻って行った。
“成瀬さんに一目惚れしちゃったんだよね”
人生で初めて男の子から告白のようなことをされて、私は胸のドキドキが止まらなかった。
はっとして窓の外に目をやると……
サッカーゴール前で話していた柊がちょうど私の方を見て気づいてくれて。
軽く手を振ると、柊も手を上げて応えてくれた──
──サッカー部の練習が終わる頃…
校門の前で自転車に跨って、柊を待っていると
「おー、マジか!また会えた〜!笑」
後ろから天王寺くんに声を掛けられた。
「先程はどーも。今日俺、ツイてんな〜!どうしたの?誰か待ってんの?」
「あ……うん、1組のひら……「亜妃?」
天王寺くんとの会話を遮るように、柊が後ろから、自転車に乗って現れた。
「あ、柊……お疲れさま」
天王寺くんは、私と柊を交互に見て……
「……そっか、平岡くん待ってたのか!
あ……え、そうゆうこと?ふたり付き合ってんの?!うーわ、俺ちょー恥ずいじゃん。ごめん!成瀬さん、さっきの忘れて!笑」
……どうやら勘違いをしているようで、急に慌て始める天王寺くん。
「え、天王寺くん?ちょっと待って、ちがうよ?
付き合ってないよ、ただの幼馴染!」
「………」
私が否定すると、柊は何も言わずに黙って、天王寺くんと私のやり取りを見ていた。
「え、そうなの?!そっか、ならよかった〜。じゃ、今夜連絡する!またね!」
天王寺くんはそう言って、また爽やかな笑顔で、バスケ部の仲間たちと一緒に帰って行った。
“ただの幼馴染”
自分で言ったくせに、胸がチクンと痛む。
なんだか恐くて……柊の顔は見られなかった。
「柊……ごめんね、行こっか」
「……おう」
二人並んで自転車を漕ぐ。
何となく、二人の間に微妙な空気が流れてる。
そっか……そういえば今朝、“大丈夫じゃない”って言ってたもんね。
何かあったんだよね、きっと……。
「柊、なにかあった?
今日ずっとそんな感じだけど……どしたの?」
「ん?いや、別にどーもしてねーけどさ……」
何か言いづらい話なのかな?
「もー、ほんとどうしちゃったの?……なんか調子狂う。笑」
「……だよな、わりー」
「話ならいつでも聞くからね?幼馴染の亜妃ちゃんが受け止めてあげますから!笑」
「………」
……だめだ。やっぱり今日の柊はおかしい。
まぁでも、人に話したくない時ってあるしね。
とりあえず様子を見よう。
そう独りで結論付けていると……
「連絡先……交換したの?」
柊がゆっくりと、口を開いた。
「あいつ、お前のこと好きなの?」
「……え?んー、分からないけど……。今日ね、放課後たまたま会って話し掛けてくれて……」
………言うべきかな?
柊はどう感じるんだろう……?
「それでね……、なんか…“一目惚れしちゃった”って…言われた……」
私は柊にヤキモチを妬いてほしかったのかもしれない。天王寺くんに言われた言葉を、柊に伝えてしまった。
隣で自転車を漕ぐ柊の反応を横目で見たけれど、ぼーっとした様子で心情が全然読み取れなかった。
「……でね、友達からで良いからって言われて……LINE交換した感じ……かな」
「……そっか」
「こうゆうの私、初めてだから……。柊と違って全然モテないからさ。笑
どうしたら良いのか……分からないや……」
「……うん」
結局、その日は微妙な空気のまま帰宅した。
もしかしたら電話が来るかな?と少し期待していたけれど、お風呂から出て窓の外を見ると……
柊の部屋の灯りは既に暗くなっていた。
柊大丈夫かな……と、ぼんやり考えながらスマホを見ると──
新着メッセージが入っていた。
『天王寺だよー!今日はいろいろとごめん。まずは友達から、よろしくねー!』
『成瀬です。今日はありがとう。話し掛けてくれて嬉しかった!こちらこそよろしくね』
柊以外の男の子への、初めてのメッセージ。こんな感じで良いのかな?男の子への連絡って絵文字とか付けるべき?分からない……。
今日はもう、頭がパンクしそうだったので、寝る前にメイク動画を見て気持ちを落ち着かせた。
“明日は少しハイライトも入れてみよう”
なんて考えながら、私はようやく眠りについた──
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