1-5.ドキドキの初メイク
──翌年の春…
猛勉強の甲斐あって、私も柊も晴れて同じ高校に入学することができた。市内の高校だったけれど、歩いて通うには遠すぎるので、二人で自転車通学をすることに決めた。
──高校生活にもすっかり慣れてきたある日…
私は、仲良くなったクラスメート達との話の流れで学校に簡単なメイクをして行くことになった。
それほど校則が厳しくない高校だったので、先輩達も派手過ぎない程度にメイクを楽しんでいた。
中学時代は、眉を整えてビューラーで睫毛をあげ、リップグロスを塗るだけだった私。前日にドラッグストアへ行ってメイク道具を一式用意し、動画を見ながら夢中でメイクの練習をした。
──翌朝…
前日に練習した通りにナチュラルなメイクを施して、髪もゆるくアップにしてみた。柊の反応が気になって、少しドキドキしながら玄関に迎えに行く。
「柊、おはよー」
「……、……はよ」
その日は珍しく柊がもう靴を履いていて、ドアを開けた瞬間にバチっと目が合った。
「あら!やだぁ!亜妃ちゃん、メイクしたの〜?可愛い〜♡すごく似合ってる!」
柊の後ろに立っていたママが、すぐに気付いてくれる。
「ママありがと!……ねぇ、柊もなんかリアクションしてよ。無反応だと気まずい。笑 」
「……いやごめん……、良いと思うよ?………じゃあママ、いってきます」
なんか……、反応薄。
似合ってないのかな?好みじゃなかった?
柊に可愛いって思って欲しくて頑張ったのにな。
その日はなんとなく柊の様子がいつもと違って、毎日しているような他愛もない会話もあまり弾まないまま、学校に着いた。
高校一年生のクラスはたまたま柊と同じ1組なので、一緒に教室に入る。
「おっはー!相変わらずラブラブっすね〜、羨ましい〜」
中学が一緒だった岸くんも同じ高校に進学し、まさかの同じクラス。
「…………」
“らぶらぶじゃねーよ” “うるせーな”
とかなんとか、いつもは言い返す柊が……今日は何も言い返さない。
柊、どうしちゃったんだろ?具合でも悪いのかな?
「柊?大丈夫……?」
心配になって、私が聞くと……
「大丈夫じゃ……ねーよ……」
かろうじて聞こえるくらいの小さな声で呟き、柊は自分の席に着いてしまった。
大丈夫じゃないって……やっぱり何かあったんだ。帰りに詳しく話聞いてあげよう。心配は消えなかったけど、私もそのまま静かに席に着く。
すると、前日にメイクをして来ようと約束していたクラスメート達が周りに集まってきた。
「亜妃?!やっば!超可愛いんですけど♡」
「やっぱさ、元が良いからね〜」
「そのヘアアレンジ可愛い♡やり方教えて!」
柊のリアクションが薄すぎて不安だったけど、よかった……。メイク変じゃないんだね。
皆に褒めてもらえたことが、私はすごく嬉しかった。
──ふと、柊の席を見ると…
一瞬目が合ったのに、すぐに逸らされてしまった。
メイクをしているせいか、この日は1日中なんだかフワフワした気分で過ごせた。
自分が少し大人の女性になれた気がして、メイクのパワーってすごいんだなぁと実感した。
もっとメイクの勉強をして綺麗になりたい。
柊に可愛いって思ってもらいたい。
私の中で、そんな小さな目標が生まれていた──
──その日の放課後…
私はいつものように図書室で柊の部活が終わるのを待っていた。高校では私は部活に入らなかったけれど、柊は中学と同じサッカー部に入った。
柊は相変わらずの心配性で、私の予定がない日は、部活が終わるのを待っていてほしいと言われていた。
他の部員達は部活の後に誰かの家に集まって遅くまで遊んでいるらしかったので、“私は大丈夫”と何度も言ったけれど……それでも柊は「一緒に帰る」と言ってくれた。だから私はいつも放課後、図書室で宿題をしたり…本を読んだり…雑誌を見たりしながら、柊を待っていた。
この時間が、私はとても好きだった。
それに、ときどき校庭が見える廊下の窓から柊が楽しそうにサッカーをしてる姿をこっそり眺めるのも大好きだった。
「──成瀬さん……だよね?」
ぼーっと窓の外を眺めていると、後ろから声を掛けられる。
振り返ると……すらっと背が高く、爽やかオーラを全身に纏った男の子が、バスケ部のユニフォームを着て立っていた──
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