2.幼馴染が好きな俺


──俺は……幼馴染が好きだ。小3で自覚して以来、ずっと片想い中。



──中2の秋


「彼女できたって聞いたから……」


 訳の分かんねーことを言う亜妃に驚いたものの、思い当たる節があった俺。放課後、思い当たるそいつのいるであろう場所へと向かった。

 とある教室の前に着くと……


「てかさ、成瀬さんって何なの?!」

「柊くんの周りいっつもウロウロしてさ〜」

「毎日一緒に登下校とかウザいんだけど」

「ほんっっと目障り。ね、彩奈?」



 3年の女子達が話す声が聞こえてくる。


「あの女、純粋ぶって実は超〜腹黒そう」

「ね、わかる!柊くんの前だけキャラ変えてそう」

「あー…まじで嫌いだわー、消えてほしー」


 短すぎるスカートから伸びる脚をおっ広げて、傷んだ長い茶髪をかき上げながら、そんな会話をする彩奈先輩とその友人達。


 頭にカッカと血が昇るのを自分で感じる。


「ま、もう柊くんには近寄らないっしょ」

「うちらが彩奈と付き合い始めたって噂流したから」

「噂知ったら柊くんも彩奈のこと意識するって〜」

「も〜まじ感謝!やっぱ持つべきもんは友だわ。笑」



 俺はピシャンッ、と勢いよく教室のドアを開けた。


「先輩、ちょっといっすか?」

「……えっ?!柊くん?!どーしたの?♡」


 明らかにテンション上がって、ニコニコしながら付いてくる先輩。拳を握りしめ、怒りの感情を手から何とか分散させる。

 廊下に連れ出すと、苛立ちを必死で抑えながら聞いた。


「俺、あんたと付き合うって言いましたっけ?」

「……え?」

「噂になってるって聞いたんすけど」


 戸惑ってる彩奈先輩。



「俺こないだ言いましたよね?付き合えないって。

好きな人いるから無理ですって」

「………」


 さっきまでの笑顔は消え、ブスっとした顔で唇を噛み締めてる。


「あと、亜妃の悪口言うのやめてもらっていっすか?俺あいつを悪く言われんのが一番腹立つんすよ」


 亜妃の名前を出した途端、敵意を剥き出しにしたような顔をする先輩。苛立ちと哀しみの混じったような表情で聞いてくる。


「──柊くんの好きな人って、成瀬さんなの?」



 俺は先輩の目を見て、ハッキリと答えた。


「そうです」

「…………」

「でも俺がガキの頃からずっと片想いしてるだけで、あいつは俺のこと幼馴染としか思ってないんで」

「……え…」

「勝手に誤解されて亜妃のこと悪く言われんのとかさ……。まじで俺今、あんた殴りたい衝動抑えんの必死なんだよ……」


 さっきの先輩達の会話を思い出すと、再び怒りが湧いてきて拳をグッとまた握り締める。


「俺が亜妃以外と付き合うなんて、有り得ないんで」


「ゲスいことするお友達にも伝えといて下さい」


 先輩を睨み付けながら、キツめに言うと……




「──…は?……まじキモいんだけど」

 いよいよ本性を現して、俺を睨み返してきた。


「あき、あきってなんなの?!幼馴染の絆みたいな?……そうゆうのクッソうぜぇわ」


 女とは思えないような暴言を吐いてくる。


「別に俺はどう言われようとなんも思わねーけど。もし亜妃に何かしたら……ただじゃおかねーから」


 俺は強い口調でそう言い捨て、部活へと向かった。






───部活が終わり、校門へと急ぐ。

 門の横でいつものように俺を待っててくれる亜妃の後ろ姿を見つけ、ホッとする。


「おつ」

「おつかれさまー」


 並んで歩く帰り道。いつも通りの二人。



「───…あ。」


 突然足を止め、

 すうぅっと大きく鼻で空気を吸い込む亜妃。


「──…金木犀だ……」



 俺もすうっと息を吸ってみる。………ほんとだ。


「お前この匂い好きな?昔から」

「うん、大好き」


 ほんと良い香りなんだもん、ってキラキラ笑いながら、嬉しそうに何度も空気を吸う亜妃。


「……俺も好き。金木犀」


 亜妃が好きなものは何だって、俺も自然と好きになってるから。


 心地良い沈黙の中、ゆっくり足を進める二人。



───ふと、亜妃が口を開く。


「ねぇ……前から思ってたんだけどさ、柊って何で誰からの告白もOKしないの?」


 彼女できたって全然おかしくないのに……って、心底不思議そうな顔してる。

 そんなん……理由なんて一個に決まってんだろ?



「……俺、女に興味ないから」


『……俺、亜妃が好きだから』


 本当に言いたい言葉は……今はまだ、言えない。



 でもいつか、覚悟が出来たその時は。

 俺が恋を知ったあの場所で、必ずキミに伝えるから──

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