第24話 姫香とレティーシャの共闘

   ◇◇◇ 「レティーシャ・パーネル」視点


 ハガネたちにランクCダンジョンについての授業をした後、レティーシャは新城姫香の自宅を訪れていた。

 今はレティーシャと姫香の2人きりだ。


「本当にハガネと同じマンションに住んでいるのね」

「はい!」


 姫香は屈託のない笑顔で応えてくる。

 どう話を切り出そうかレティーシャは悩んでいたが、ごちゃごちゃと考えるのはレティーシャは苦手なほうだ。

 思っていることを直球でぶつけることにした。


「ハガネと付き合うのはやめたほうが良いわよ!」

「元カノからの牽制ですか?」

「全然違うわよ!」


 姫香を心配しての発言だったが、全く伝わらなかった。

 仕方なくレティーシャは、考えながら1つずつ言語化していくことにする。


「確かにハガネは良いところはあるわ。私の動画配信を全部観て感想をくれるし、誕生日とか視聴者数が増えた時とかは一緒に祝ってくれるし、自分でも良くできたなってところはハガネも気が付いて褒めてくれるし、この前なんか、ちょっと寂しいなって思って電話したら、夜中なのに駆けつけてくれたし、」

「元カノの惚気話ですか?」

「全然違うわよ!」


 いや、これは惚気話だったかもしれない。

 コホン、とレティーシャは咳をして、話を戻した。


「でも、ハガネと距離を縮めた人は、いずれ、みんなハガネから離れていく。どうしてか分かるかしら?」

「ハガネさんが、自分自身のことはどうでもよいと思っているからですよね?」

「……分かっているのね」


 あの妹への執着がどこから来ているのか分からないが、上杉ハガネは、自分自身の価値を1番下に置いて、上杉スチルの価値を1番上に置いているのは確かだ。


「ハンターになってからハガネさんのステータスを知って驚きました。あの人、ゴブリン1匹と同じぐらいのステータスしか無いのに、スチルさんを助けるためにゴブリンの巣のダンジョンに飛び込んだんです。次に同じ状況になった時、私が泣いて止めてくれって頼んでも、きっと同じように飛び込むんだろうなって思います」


 そう、死を恐れないハガネの価値観はどこか歪んでいるのだ。

 レティーシャと一時期付き合ってくれたのも、レティーシャが求めたから応じてくれただけなのだろうと思う。自身の命の価値を認めていないからこそ、皆に平等に優しい。


「それが分かっていて一緒にいるのね。辛いわよ。ハガネは、きっと何でもない顔して身の丈に合わない何かに挑んで、何でもない顔しながら死んでいくんだわ」


 そしてきっと、上杉スチルのことを想って死んでいくのだ。私たちのことは欠片も思い出さずに。


「でも、そういうハガネさんだからこそ私はハガネさんと出会えたんです。そういうハガネさんだからこそ、あの薄暗いダンジョンの奥深くで私を救ってくれたんです。だったら、最期まで寄り添わないとって思うんです」


 そこで姫香は笑顔で両手のひらを合わせて言った。


「だから、共同戦線を張りませんか?」

「共同戦線?」


 何のことだろう。


「レティーシャさんも、あの命知らずなハガネさんに死んでほしくないんですよね? 私たち1人1人ではハガネさんは止まらないかもしれないですけど、ハガネさんに大事な人が沢山いて、皆で止めたら、言うことを聞いてくれるかもしれないと思うんです」

「私は別にハガネに未練はないわよ! まあ、ハガネがどうしてもと言うのならよりを戻してあげても良いけどね!」

「それは未練たらたらだなって思います」

「ぐっ」


 姫香の中ではもう共同戦線は決定事項のようだった。意気込んで提案をしてくる。


「それじゃあ、作戦会議をしましょう! 今日はお泊り会です!」


 レティーシャはため息をついた。まあ、あの自分の命を軽く見ている男が、少しでもまっとうに生きてくれるのなら、それはそう悪い未来では無い。


「分かったわよ! やるとなったらとことん攻めるわよ! 姫香!」

「はい、レティーシャさん! 早速2人でえっちな自撮りをハガネさんに送っちゃいましょう! ハガネさん、今夜は興奮して寝られませんよ!」



   ◇◇◇



 その夜、姫香から「今夜はお泊り会です」というメッセージと共に、姫香とレティーシャが写った写真が送られてきた。

 二人ともセクシーなネグリジェを着て胸の谷間を強調しているが、顔を真っ赤にしていて、明らかに無理をしているのが分かる。

 僕は「夏風邪に気を付けてください」というメッセージを返すと、いつものように寝床に潜り込んできたシュクモを抱き枕代わりに熟睡したのだった。

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