第23話 レティーシャ・パーネルのダンジョン講座

「ハローシャ! レティーシャよ! 今日はランクCダンジョンの攻略講座をするわ!」

「おおおお~、ハガネ様、ハガネ様、見てくださいまし、本物のレティーシャ様です!」

「良かったね、シュクモちゃん」


 今日は自宅に友人のレティーシャ・パーネルを招いていた。ランクCダンジョンについて教えてもらうためだ。

 僕、姫香、シュクモは各々自由に座り、レティーシャを囲んでいる。


 シュクモはレティーシャが来てテンションが上がっている様子だった。

 僕は普段からレティーシャの動画配信を観ているのだが、最近はシュクモを手元に抱き込みながら一緒に観ることが多い。そうしているうちにシュクモはレティーシャのファンになってしまったらしい。


「あの、レティーシャ様、サインを頂けませんか?」

「いいわよ!」


 レティーシャは快く応じると、渡された色紙にさらさらとサインを書く。

 良かったねえ、と思いながら僕はニコニコと色紙を覗き込むと、そこには意外にも達筆な文字でこう書かれていた。


 ”上杉シュクモちゃんへ”


「僕の隠し子じゃないんだよ!」



   ◇◇◇



 シュクモを預かっている事情をレティーシャに話し終えてから、レティーシャのランクCダンジョン講座が始まる。


「ランクDダンジョンとランクCダンジョンの大きな差は2つあるわ! 1つ目はダンジョンにトラップが存在することね!」


 レティーシャが軽く手をふると、空中に映像が浮かび上がった。

 スキルカードによってイメージを映像化しているのだ。


 次々とトラップの映像が流れ、レティーシャによる各トラップの説明が滔々と続く。

 落とし穴、特定の地面を踏んでしまうと飛来する弓矢、落石。

 この辺りはレティーシャの動画の”ランクCダンジョンのトラップ回避方法”シリーズでも学んでいることだ。


「まあ、この辺の説明は全部忘れてくれて構わないわ!」

「ええ!?」


 トラップの説明を真剣に聞いていると、締めの言葉としてレティーシャはとんでもないことを口にした。


「何故か分かるかしら? 姫香?」

「ええと、ランクCダンジョンのトラップは、全てダメージ・トラップだからでしょうか?」

「優秀ね!」


 レティーシャは満足そうに頷いた。


「例えば、ランクCダンジョンでトラップを踏んでしまって攻撃力1000相当の弓矢が飛んでくるとするわね。それで、ハガネは何か困るかしら?」

「ああ、なるほど。僕たちのステータスだと、もうランクCダンジョンのトラップダメージは入らないのか」

「そうよ! それに何より、トラップダンジョンの数自体が少ないわ。ダンジョンの探索では、最初に調査系のハンターが入って情報が共有されることがほとんどね。つまり、」

「トラップダンジョンはトラップダンジョンが得意なハンターに任せれば良いのか」


 君子危うきに近寄らず。

 なんとも味気ない話だが、それぞれのハンターが適材適所で頑張ることで世の中は回っているのだ。


「だから2つ目のほうが本題ね。おそらくカード・プロフェッサーの狙いもこちらでしょうね。ランクC以降に極稀に発生する、制限ダンジョン! 制限ダンジョンでは、ダンジョンに入った瞬間に複数枚のテンポラリーカードが与えられるわ」

「テンポラリーカードが与えられる……?」


 トラップダンジョンに比べてなんだかややこしそうだ。

 再びレティーシャが手をふり、映像が切り替わると3枚のカードが表示された。


「実例を交えて説明するわね! これはランクAダンジョンボス、風邪龍グラステスの制限ダンジョンに侵入した際に、パーティメンバー全員に与えられたと言われている3枚のテンポラリーカードよ。1枚目はダンジョン脱出を制限するデバフ・テンポラリーカード」


 【名前】脱出不可

 【ランク】C

 【カテゴリ】パッシブスキル・テンポラリー・制限

 【効果】

 ダンジョンゲートを通ることが出来なくなる。

 このカードを所持している人間が死亡した時、その人間のパーティメンバーはダンジョン外に転移される。

 ダンジョンの崩壊条件を満たした時にこのカードは消失する。


 パーティメンバーが死亡するか、ダンジョンの崩壊条件を満たさない限り、ダンジョンが脱出できなくなるテンポラリーカード。

 ダンジョンの崩壊条件には、ボスの討伐が含まれている。今回の例で言うと、風邪龍を討伐しない限りはダンジョンの外に出れないということだ。


「2枚目は、風邪龍が得意とする風属性カテゴリのダメージが増加するデバフ・テンポラリーカード」


 【名前】風邪龍の憤怒

 【ランク】A

 【カテゴリ】パッシブスキル・テンポラリー

 【効果】

 風属性カテゴリの攻撃を受けた時、ダメージが10000%増加する。


 ダンジョンボスを利するデバフ・テンポラリーカード。

 短いテキストながら最悪の文言だった。


「そして3枚目が最も重要よ。ダンジョンに侵入したハンターを強烈に強化するバフ・テンポラリーカード」


 【名前】永劫に巣を紡ぐ者の祝福

 【ランク】A

 【カテゴリ】パッシブスキル・テンポラリー

 【効果】

 トリガースキルのダメージは1000%増加する。


「まとめると、制限ダンジョンに侵入した瞬間に、脱出不可、デバフ・テンポラリーカード、バフ・テンポラリーカードが与えられるわ! これらは破棄することが出来ず、当然テンポラリーカードなのでダンジョン脱出時に消失するわ」


 ようやく話が掴めてきた。

 つまり、制限ダンジョンでは攻略手順がテンポラリーカードによって制限されているのだ。

 風邪龍の例では、風属性攻撃は回避する必要があり、攻撃手段はトリガーカードを使用することが、何者かの意思によって推奨されている。


 そして、プロフェッサーが狙っていることも明白だ。


 ”吾輩が貴様のユニークカードの真価を発揮させてやる”


 バフ・テンポラリーカードのみの永続化だ。

 僕のユニークカード「一瞬の保存」は、本来消失するテンポラリーカードを永続化することが出来る。

 ランクCの制限ダンジョンのバフ・テンポラリーカードがどれほどの効果になるのかは分からないが、脱出不可のリスクを負ってでも入手する価値はありそうに思えた。

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