第25話 松本呪蜘蛛のおねだり

 犬の顔をした人型のランクCモンスター、グールの群れが殺到する。


 グールの大群が僕たちに到達する前に、シュクモのアクティブスキル「レンの蜘蛛の糸」が発動した。

 蜘蛛の糸に絡め取られ、動きが封じされるグールたち。


 グールが拘束されて手間取っている間に、僕の拳と姫香の「二天王刃」がグールたちを薙ぎ払っていく。

 シュクモの拘束スキルと、僕と姫香の近接ビルドは相性が抜群だった。

 あっという間にグールたちが駆逐される。


 戦闘が終わったのを確認すると、僕はシュクモのほうを振り返った。


「シュクモちゃん、怪我は無い?」

「……はい。問題ありません、ハガネ様」


 僕、姫香、シュクモによる3人パーティは、ランクCダンジョンに潜っていた。

 プロフェッサーは制限ダンジョンにシュクモも連れて行くつもりらしく、こうして事前にパーティの連携の確認をしている。

 星辰天せいしんてんが召喚したランクCモンスターに苦戦しなかったことからも予期していたことだが、このパーティならランクCダンジョンも問題なく探索できそうだ。


 グールたちからドロップした通常カード、テンポラリーカード、魔石を拾っていく。

 ランクCダンジョンからはランクCのステータスアップカードがドロップするため、収穫が大きい。


 【名前】攻撃力アップ

 【ランク】C

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・ステータスアップ

 【効果】

 攻撃力が100アップする。


 「累積する百歩」によってステータスアップカードは100枚まで効果が累積するので、これらを集めるだけでステータスが1万上がることになる。

 やる気も出ようというものだ。プロフェッサーが制限ダンジョンの攻略許可手続きを済ませてくれるまでに、なるべくステータスを上げておきたい。


 珍しいところでは、モンスター討伐時に消費カードの使用回数を回復するテンポラリーカードも手に入れた。トントン拍子というやつだ。


 【名前】討伐時使用回数回復

 【ランク】B

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続

 【効果】

 モンスターを討伐した時に、5%の確率でデッキ内のランダムな消費カード1枚の使用回数を1回復する。


 僕のユニークカード「一瞬の保存」は消費カードだ。「使用回数回復」によって1時間に1ずつ使用回数が増えているため、さほど使用回数に困ってはいないが、あるにこしたことはない。


「シュクモちゃん、転ばないように手を繋ごうか」

「……はい。ありがとうございます、ハガネ様」


 僕はとにかくシュクモのことが心配で仕方がなく、ダンジョンに入ってから甲斐甲斐しくシュクモの世話をしていた。何かあるたびに都度シュクモに声をかけて無事を確かめる。


 ダンジョン内のモンスターはあらかた片付けた。

 今日のところはこれぐらいで帰るとしよう。


 薄暗いダンジョンの中、シュクモをエスコートしながら歩く僕は、最後まで気付いていなかった。シュクモが不満げにプクーと頬を膨らませていることに。



   ◇◇◇



 シュクモが作る夕飯は今日も美味しかった。

 なんだか今日は唐揚げが食べたいなという気分の日に、ドンピシャで唐揚げが出たのだ。

 僕とシュクモの気持ちが通じ合っているのかもしれない。


 いつものように寝床に入った僕とシュクモだが、今日はなんだかシュクモの様子がおかしい。

 僕の上に乗っかって、ジーっとこちらを見つめてくる。もう夏だが、寝床は冷房が効いているので暑苦しくはない。むしろ少し肌寒い温度に設定されていて、シュクモの体温が心地良いくらいだ。


「ハガネ様は以前、何か困ったことがあったら頼ってくれ、とおっしゃっていました」

「言ったね」


 シュクモと最初に入浴した日のことだ。それは僕なりの覚悟を込めた言葉だった。

 ユニークカードの呪いによって縛られているこの子を支えてあげたいと、強く思う。


「ハガネ様。早速で申し訳ないのですが、1つお願い事があります」

「なにかな? 遠慮なく言ってくれ」


 シュクモはこちらにピタリと体重を預けながら囁いた。


「抱いていただけませんか?」

「良いわけないよ! そういうの流行ってるの!?」


 シュクモはまだ小学生だ。意味が分かって言ってるのだろうか。

 シュクモはシュンと落ち込んだ様子を見せる。


「やはりこの醜い身体では駄目でしょうか……」

「いや、そういうわけじゃなくて、シュクモちゃんはまだ子供だから、」

「あ、ハガネ様に殴られたお腹が痛くなってきました……。スンスン」

「ごめんなさいごめんなさい!」

「ハガネ様に拒絶されたので、わたくしめは一生、誰とも肌を重ねることなく生きていくのですね……」

「脅しの手口にプロフェッサーの血を感じる!」


 僕が返答に困っていると、シュクモはクスリと笑って、からかうのを止めてくれた。


「冗談はここまでにしましょう。ハガネ様は、お父様が模擬戦の時におっしゃっていたことを覚えていますか?」

「心臓に悪い冗談は止めてね」


 プロフェッサーから模擬戦の時に受けた説教を思い出し、徐々にシュクモが言わんとすることが分かってきた。


 ”貴様が心のどこかで差別しているからである。男と女、大人と子供、このカード社会において全く意味の無い属性を根拠に、仲間のハンターを平等に扱っていないのである”


「ハガネ様は今、わたくしめが子供だという理由で抱くことを拒絶しました。それは仕方ないかもしれません。しかし、同じ理由でダンジョンで私めを平等に扱わないのは、ハンターとして正しい行いでしょうか?」

「……もしかして僕、過保護だった?」

「はい」


 こちらにも言い分はあるのだ。

 毎日一緒に過ごして、ハガネ様ー、ハガネ様ー、と後ろをトテトテとついてくるシュクモが可愛くて仕方がない。

 しかし、ダンジョンにシュクモを連れて行った以上、彼女を一人前のランクBハンターとして扱わなかったのは僕の過失だろう。


わたくしめは、私めのユニークカードは神様が与えられた試練だと思っています。私めのユニークカードの居場所を見つけるために、こうして1人のハンターとして、望んでダンジョンに潜っているのです」

「ごめんよ、シュクモちゃん。これからは君をちゃんと一人前として接するよ」

「はい」


 満足したようにシュクモは笑うと、こちらにピタリと体重を預けながら囁いた。


「では一人前のシュクモを抱いていただけませんか?」

「それは君が大人になってから一緒に考えようね!」

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