第12話 襲来する悪意

   ◇◇◇ 「四季寺しきでら秋三しゅうぞう」視点


「畜生! 畜生! クソ腹立つぜ!」


 赤髪のランクCハンター、四季寺しきでら秋三しゅうぞうは酒場で荒れていた。

 女にちやほやされて調子に乗っている上杉ハガネに軽く水をかけてやったところ、たったそれだけでダンジョンへの二ヶ月出入り禁止措置を受けたのだ。

 普段からの素行の悪さが考慮されての処分だったが、もちろん四季寺は自分が悪いとは思っていない。


「そんなにムカつくならさー、皆でボコっちまうか?」

「場所が分かるんならとっくにそうしてるっつの」


 四季寺の仲間達からの、からかうような提案に答える。

 上杉ハガネの女、アイドルの新城しんじょう姫香ひめかとか言ったか。あれは良い体をしていた。

 上杉をぶっ潰したうえであの女をヤっちまえば、少しはこの怒りも収まるかもしれない。


 しかし、居場所が分からないのだ。分かったとしても、都合よくあいつら二人だけの状況が作れるだろうか。


「お困りのようッスね。ボクならその二人の場所、分かるッスよ」


 酒場の一角に、軽薄な声が響いた。

 声のほうを見ると、白い仮面を被ったスーツ姿の男がくつろいでいる。


 ――こんなヤツいたか?


 四季寺はトリガーカード使いとしてランクCに上り詰めたハンターだ。

 デッキのカードはランクCカードで埋まっており、感覚値はゆうに1000を超えている。いつの間にか知らない人間が混じってきたなら気付くはずだった。


 【名前】四季寺秋三

 【ランク】C

 【攻撃力】1410

 【防御力】1200

 【速度】1340

 【感覚】1100

 【魔力】1060

 【幸運】400

 【デッキ】30/30


 ――まあ、今日はだいぶ飲んでるからな。誰かが連れてきたのを忘れただけだろう。


「それで。上杉ハガネと新城姫香、二人の居場所が分かるって?」

「ええ。彼らは週末はいつもランクDダンジョンに潜っているみたいッスね。どのダンジョンに潜るのかも分かるので、待ち伏せできるッス」


 使えるヤツじゃねえか。

 四季寺は下卑た笑みを浮かべた。

 ダンジョンの中で奇襲をすれば、助けを呼ぶことは出来ない。新城姫香を楽しむ時間もたっぷり取れるだろう。


「お前、気に入ったぜ。名前は?」


 見知らぬ白い仮面の男に名を尋ねる。


「ボクっすか? ボクらはクラン”レゾンデートル”。以後お見知りおきを」


 そう挨拶を残すと、白い仮面の男の姿は、いつの間にか消えていた。



   ◇◇◇



 ここ最近は毎日のようにランクDダンジョンに潜っていた。

 ランクDなら何かしら珍しいテンポラリーカードが落ちないか期待していたが、今のところの進捗は微妙だ。


 攻撃力アップを筆頭とした、各ステータスアップカードはぼろぼろドロップするのでとりあえず拾っている。

 もちろん、同ランクかつ同名のカードは効果が重複しないため、各ステータスが50ずつ上がる程度に留まっている。


 【名前】上杉ハガネ

 【ランク】E

 【攻撃力】80

 【防御力】80

 【速度】80

 【感覚】80

 【魔力】65

 【幸運】60

 【デッキ】1/1


 ランクEダンジョンでは拾えなかったテンポラリーカードを拾う機会も増えた。

 ランクDダンジョンからはデバフに対する耐性を持つテンポラリーカードもドロップするのだが、これはまあ、今のところは全く役に立ちそうにない。


 【名前】麻痺耐性

 【ランク】D

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・耐性

 【効果】

 麻痺の効果時間を5%減少する。


 麻痺耐性や呪い耐性などのテンポラリーカードをちょくちょく拾ってはいたが、5%減少程度では焼け石に水である。そもそも他のハンターの情報が共有される現代ダンジョン攻略においては、苦手なモンスターが出るダンジョンには行かなければいいだけなのだ。

 ヒーラービルドがいないアタッカービルド二人パーティでは麻痺モンスターが出るダンジョンに行くのは自殺行為なので、この手のデバフ耐性を活かす機会はまだ来そうになかった。


 しばらくはランクDダンジョンに潜り、ランクC以上のテンポラリーカードが落ちる機会をじっと待つことになるだろう。

 という訳で、本日も僕と姫香はランクDダンジョンの探索に来ていた。


「ハガネさん! そっち! そっち行きました!」

「うおおおおおおお! ああ、また逃した……」


 僕たちが今追いかけているモンスターは、サトリモグラと呼ばれている。

 文字通りモグラの姿をしたモンスターなのだが、これがなかなか厄介な能力を持っていて、こちらの攻撃の意思を悟るとすぐに潜って隠れてしまうのである。そのくせ、こちらが休んでいると後ろから奇襲をかけてくるのでたちが悪い。


 このサトリモグラを追いかける戦闘はなかなか面白く、僕と姫香は夢中になってダンジョンの奥深くまで進んでいった。


 慣れがあり、油断もあった。

 だから声をかけられるまで気付かなかったのだ。


「よー、上杉。楽しそうじゃねぇか」


 悪意を持った、二十人のハンターに囲まれていることに。

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