第11話 ランクDダンジョン

 新城しんじょう姫香ひめかとパーティを結成してから三週間ほど経過していた。

 姫香は高校生だ。平日に活動できる時間は少ないので、活動は必然的に休日が中心になる。

 平日は一人でランクEダンジョン、休日は二人でランクEダンジョンに潜るのがここ三週間のルーチンになっている。


 ――うーん。


 僕は自室のベッドに座って自分のステータスを眺める。


 【名前】上杉ハガネ

 【ランク】E

 【攻撃力】80

 【防御力】80

 【速度】30

 【感覚】30

 【魔力】15

 【幸運】10

 【デッキ】1/1


 姫香と組んでから百枚以上のテンポラリーカードを入手していたが、それでも僕のステータス上昇は停滞気味だった。

 同ランク同名カードが累積不可であることがステータスアップを阻んでいるのである。

 攻撃力と防御力が30から80に上昇しているのは、それぞれランクDカードをドロップしたからだ。


 【名前】攻撃力アップ

 【ランク】D

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・ステータスアップ

 【効果】

 攻撃力が50アップする。


 ランクDカードがドロップしたのは両方とも姫香が一緒にいる時だった。

 姫香の幸運値は僕よりも遥かに高く、ドロップするテンポラリーカードの枚数やレアリティに影響を与えている。


 ステータスを眺めながら今後の方針を練っていると、コンコンとドアがノックする音が聞こえた。


「ハガネさん、今お時間よろしいですか?」

「どうぞ」


 返事をすると、だぼだぼのスウェットの上だけを着た姫香が入ってきた。僕の服を着ているので丈が大きく余っている。

 そのままトテトテと僕が座っているベッドまで歩いてくると、自然な動作で隣に座ってコテンと寄りかかってくる。

 姫香は興味津々な表情で、僕のステータスウィンドウを覗き込んできた。


「なかなかステータス上がりませんね」

「そうなんだよねえ」


 姫香は週末は僕の家に泊まるのが日常になっていた。「週末はハガネさんの家に泊まって作戦を立ててからダンジョンに潜るのが効率的だと思います!」という姫香の意見に押し切られたのだ。


 ちなみに姫香は入院中で不在のスチルの部屋を使っている。スチルに部屋の使用許可を聞いたところ、「姫香ちゃん!? わたし大ファン! 兄さん、あとで絶対会わせてね!」とのことだった。


 可愛い可愛い妹の頼みだが、絶対に姫香とは会わせたくない……。

 肉親に会わせたが最後、いつの間にか姫香が婚約者になってるぐらいの外堀を埋められてもおかしくない。とにかく恐ろしい女なのだ。


「スーハー、スーハー、それにしても同じシャンプーを使ってるのに何でハガネさんってこんな良い匂いするんでしょうね。ギャー、痛い、痛いです! アイアンクローはやめてください! ハガネさん、だんだん私の扱いが雑になってるって思います!」


 いつの間にかこちらの匂いを嗅ぐのに夢中になっていた姫香を引き剥がす。

 扱いが雑になっているのは、出会った頃はただの女子高生だったが、今は立派なハンターだからだ。互いのステータス差を考えると、はっきり言って全力で殴っても傷一つつかないゴリラである。


 【名前】新城姫香

 【ランク】D

 【攻撃力】165

 【防御力】285

 【速度】215

 【感覚】190

 【魔力】220

 【幸運】410

 【デッキ】44/400


 この三週間で姫香のステータスも上がっていた。

 ランクDダンジョンの安全攻略基準を大きく上回っている。

 となると、そろそろ、


「行きますか? ランクDダンジョン」


 ……。

 だんだん、考えていることがバレることが増えてきた気がする。



   ◇◇◇



 オークが巨大な棍棒を振り下ろした。

 僕は魔力を込めた両腕でガードを固め、オークの重撃を受け止める。

 轟音と衝撃。両腕がミシリと悲鳴を上げ、骨にヒビが入ったのを感じる。しかし、これは『HP常時回復』で回復可能な範囲だ。問題はない。


 【名前】HP常時回復

 【ランク】D

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・HP回復

 【効果】

 1秒毎にHPが2回復する。


 オークの一撃を僕が受け止めた隙に、姫香が駆けた。


「アクティベート。来てください! 二天王刃!」


 【名前】二天王刃

 【ランク】-

 【カテゴリ】装備・ユニーク

 【効果】

 双剣・二天王刃を具現化する。

 二天王刃のランクは使用者のデッキ構成によって変動する。

 使用者のアクティブスキルの効果は二天王刃を強化する効果に変換される。


 姫香の両手にユニークカードの双剣が顕現する。

 そのままオークの腹部を斬りつけるが、オークの防御力を抜けず、ダメージが浅い。

 姫香の攻撃が通らなかったのを見て、オークがニヤリと笑った。姫香のユニークカードの恐ろしさはここからだと言うことを知らないのだ。


「アクティベート、ファイアボール! 火炎・二天王刃!」


 【名前】ファイアボール

 【ランク】E

 【カテゴリ】アクティブスキル・火炎

 【効果】

 対象を火球で攻撃する。


 姫香が握った双剣の刀身が炎のように赤く染まり、纏った魔力が急激に上昇する。

 本来であれば『ファイアボール』は火球で攻撃するだけのランクEアクティブスキルだ。オークを傷つけることは不可能だろう。

 しかし、姫香のユニークカード『二天王刃』は、全てのアクティブスキルを二天王刃を強化する効果に変換する。

 ランクEカードのアクティブスキルですら、ランクD以上の強化効果をもたらすのは既に検証済みである。


 決着は一瞬だった。

 火炎・二天王刃による次撃が、オークの体をバターのように引き裂いたのだ。

 オークの体が光の粒となって霧散する。


 モンスターの弱点に合わせて千変万化する豪剣。これが姫香のユニークカードの真価なのである。


「ハガネさん、ナイスタンクです」

「姫香ちゃん、ナイスアタック」


 いえーい、とハイタッチする。それにしても、だ。


「いけますね、ランクDダンジョン」

「いけるね」


 油断するわけではないが、オークはランクDモンスターの中でも1、2番を争う強力モンスターだ。

 攻撃力不足を懸念していたが、姫香のユニークカードなら問題なく通ることも判明した。

 これならランクDダンジョンを狩り場にするのは問題ないだろう。


 ランクDのテンポラリーカードを集めれば、僕のステータス上昇も見込める。運が良ければ、ランクC以上のテンポラリーカードもドロップするかもしれない。

 今後はさらに楽になっていくはずだ。

 少しずつだが上がっていくステータスに、僕は高揚していた。

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