第6話 vsタックルラビット

 姫香を助けたダンジョンで、『使用回数回復』のカードを手に入れてから二日後。

 僕はランクEダンジョンの探索に来ていた。


 本当は昨日も探索に出ようと思っていた。

 しかし、午前中にスチルのお見舞いに行ったら、想像以上に元気の無い様子だったので心配になってしまい、面会時間終了まで傍にいることにしたのだった。体調は悪くなかったみたいだが、デートの予定が無くなってしまったのが堪えたらしい。

 

 スチルの病気は魔力の欠乏によるもので、治療法が確立されていない。

 新しい治療法や新薬は年々出てきてはいるのだが、それらを受けさせるには高額の医療費が必要だ。


 ――金がいる。


 僕は決意を新たにした。

 高ランクハンターは稼ぎが良いと聞く。

 今までは上のランクに上がることを半ば諦めていたが、今はこの2枚のカードがあるのだ。


 【名前】使用回数回復

 【ランク】A

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続

 【効果】

 1時間毎にデッキ内のランダムな消費カード1枚の使用回数を1回復する。


 【名前】一瞬の保存

 【ランク】S

 【カテゴリ】アクティブスキル・ユニーク・消費

 【残り使用回数】45

 【効果】

 対象のテンポラリーカードの消失を無効化する。

 ※消費カードは残り使用回数が0になると消失する。


 僕のモンスター討伐速度では一日にテンポラリーカードを24枚以上獲得することは絶対にあり得ない。

 残り使用回数が一日に24回復するのに対して、それ以上消費することは難しいのだ。

 ドロップした全てのテンポラリーカードを永続化できると思って良いだろう。


 すごい。すごすぎる。

 テンポラリーカードは一枚一枚の効果は微量だけど、塵も積もれば山となるという。

 少しずつ集めていけばランクDハンターへの昇格も夢ではない。



   ◇◇◇



 石壁に囲まれた迷宮じみた通路を進んでいると、ウサギのような見た目のモンスターに遭遇した。


「きゅきゅっ」


 タックルラビットだ。

 愛らしい見た目だが突進攻撃が強烈で、僕程度の防御力ではまともに受けると一撃で戦闘不能も有り得る。

 とはいえ適切な対応をすれば討伐は簡単だ。


 僕は石壁を背にして構えた。

 タックルラビットがこちらに向かって突進してくる。20mほどの距離を一瞬で詰めてくるほどの高速突撃。

 僕はそれをギリギリまで引きつけたあと、スッと横にずれた。

 タックルラビットはそのまま石壁に激突し、「きゅっ」と鳴いて目をくるくると回して倒れた。

 僕はその隙を逃さず、蹴り飛ばし、踏みつけ、踏み潰した。

 ドスッ、ゴキッ、バキッ。


 余談だが、タックルラビットは形状もサイズも動物のウサギに近いため、傍から見ると相当にヤバい絵面になっている。

 以前、新人ハンターの参考になるかと思ってツイッターに「タックルラビットの討伐方法」という二分程度の討伐動画をアップロードしたのだが、「動物虐待」「弱いものいじめしか出来ないランクEハンター」「サイコパス」「ハガネくんはそういうところあるよねえ」などの大量のリプライが飛んできて炎上したのは記憶に新しい。インターネットはダンジョンよりも恐ろしい場所なのだ。


 タックルラビットのHPが尽き、光の粒子となって拡散する。

 すると光の拡散の中心で、カードが宙に浮いているのが見えた。幸先がいい。テンポラリーカードだ。

 テンポラリーカードの入手方法はいくつかあるが、代表的なのが討伐したモンスターからのドロップだ。

 モンスターからはテンポラリーカードの他に通常カードも落ちるが、僕のデッキ枚数上限は完全に埋まっているため、そちらを有効活用することは出来ない。全日本ハンター連盟経由で売却はできるので貴重な収入源ではあるのだが。


 早速手に入れた攻撃力アップのテンポラリーカードを永続化した。


 【名前】攻撃力アップ

 【ランク】E

 【カテゴリ】パッシブスキル・永続・ステータスアップ

 【効果】

 攻撃力が10アップする。


 ステータスカードが手に入ったことによって僕の攻撃力が20から30にアップする。


 【名前】上杉ハガネ

 【ランク】E

 【攻撃力】30

 【防御力】20

 【速度】20

 【感覚】20

 【魔力】5

 【幸運】0

 【デッキ】1/1


「おお……」


 感動に打ち震える。

 ステータスが成長しない期間があまりにも長かったため、今この瞬間まで半信半疑だったが、確かにステータスが上がっている。

 しかもこのステータスは一時的なものテンポラリーではなく、永続強化なのだ。

 これは本当にランクDハンターになれるのではないか?

 俄然やる気が出てきた。勝ったな、ガハハ。



   ◇◇◇



「全然ダメじゃん!」


 一ヶ月後、僕は自室で頭を抱えていた。

 この一ヶ月でかなりの数のモンスターを討伐し、60枚ほどの永続カードを入手した。

 そのほとんどがステータスカードであり、内訳はこんな感じだ。


 【ステータスカード】

 攻撃力アップ×14枚

 防御力アップ×8枚

 速度アップ×11枚

 感覚アップ×8枚

 魔力アップ×2枚

 幸運アップ×10枚


 【装備カード】

 短剣×2枚


 【パッシブスキル】

 HP常時回復×3枚

 MP常時回復×2枚


 攻撃力が10上昇する攻撃力アップが14枚もドロップした。

 初期攻撃力は20なので、現在の攻撃力は140アップして、160である……はずだったのだが、全くそうはならなかった。


 【名前】上杉ハガネ

 【ランク】E

 【攻撃力】30

 【防御力】30

 【速度】30

 【感覚】30

 【魔力】15

 【幸運】10

 【デッキ】1/1


 僕の攻撃力は30のままだった。

 そう、同名カードは効果が累積しないのである。

 これは大発見だと思い、静子に興奮気味に報告したところ、「デッキ枚数上限が二枚以上のハンターなら誰でも知ってるよ」とのことだった。僕は泣いた。

 同ランク同名カード累積不可の法則というらしい。


 つまり、ランクEの攻撃力アップカードを10枚集めようが100枚集めようが僕の攻撃力はビタイチ変わらないのである。

 通常カードよりもテンポラリーカードは圧倒的に種類が少ない。ランクEダンジョンで僕が見かけたことがあるのは、


・攻撃力アップなどの各ステータスのステータスカード

・短剣などの数種類の装備カード

・HP常時回復などの数種類のパッシブスキルカード


 ぐらいだった。

 全部合わせても20種類程度しかなく、これら全てのテンポラリーカードが効果累積不可となると、全て集めたとしてもランクDハンターの基準からはほど遠い。


 僕の出世街道は早くも暗雲が立ち込めたのだった。

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