第7話 ハンター系ユーチューバー
僕は自室のベッドでごろごろしながら今後の活動方針を考えていた。
静子の話によると、同ランクかつ同名のカードの効果は累積しないとのことだった。逆に言うと、ランクEの攻撃力アップとランクDの攻撃力アップのように、ランクの違う同名カードなら累積するのである。
選べる選択肢は二つある。
一つ目。ランクEダンジョンに潜り続けて、高ランクのテンポラリーカードがドロップするのを待つ。
ランクEダンジョンでドロップするテンポラリーカードのほとんどはランクEカードだ。
同ランク同名カード累積不可の法則がある以上、ランクEテンポラリーカードを集めてもこれ以上強くなることはほぼ無いだろう。
しかし、僕は使用回数回復のカードを指先に浮かべてじっと眺めた。
【名前】使用回数回復
【ランク】A
【カテゴリ】パッシブスキル・永続
【効果】
1時間毎にデッキ内のランダムな消費カード1枚の使用回数を1回復する。
新城姫香をゴブリンから助けた時に手に入れた、ランクAの使用回数回復カード。
ランクEダンジョンでドロップしたテンポラリーカードを、僕のユニークスキルで永続化したカードだ。
つまり、極低確率ではあるが、ランクEダンジョンでも高ランクのテンポラリーカードはドロップするのだ。
もう一度、高ランクカードが出るまでランクEダンジョンに潜るのは安全な選択肢に思えた。
既にいくつかのテンポラリーカードを永続化したことで、僕のステータスは強化されている。
ランクEダンジョン攻略は以前よりも遥かに楽になっているだろう。
そして二つ目の選択肢。ランクDダンジョンに潜って、ランクDテンポラリーカードを集める。
これは一つ目の選択肢と比較してかなり危険な選択肢といえた。
ランクDダンジョンの安全攻略基準は、全てのステータスが100以上のハンターが二人以上いることだ。僕はこの基準ステータスの半分も満たしていないうえ、組んでくれそうなパーティやクランの当てもない。
以前、古林静子がランクCダンジョンの攻略に向かう時、幼馴染のよしみで一緒に連れて行ってくれないかと頼んだことがある。
静子は僕の大半の頼みをホイホイ聞いてくれるのだが、その時ばかりは真剣な顔をしてこう言った。
「ハンターが無理をして高ランクのダンジョンに挑むということは、死んじゃうってことなんだよ。私は一人のハンターとして、ランクEハンターをランクCダンジョンに連れて行くことは出来ないし、何より幼馴染として、ハガネくんが死んじゃうかもしれないところに連れて行くことは出来ないよ」
100%正論によるガチ説教であった。恥じ入るばかりである。
無理に高ランクダンジョンに挑まない、挑ませないという考えは、別に静子に限ったことではなく、ハンター全体に浸透した考えだった。
僕だって全ステータス50以下のハンターがランクDダンジョンに挑もうとしていたら全力で止めるだろう。
ランクDダンジョンに行くのに同行してくれるハンターはいないと思ったほうが良い。
――となると、ランクDダンジョンに行くのなら、一人で、こっそりとだ。
安全攻略基準の話をするのなら、そもそもランクEダンジョンの安全攻略基準すら僕は満たしていないのだ。
自分自身が命を賭けるだけなら今更の話である。
ランクEダンジョンに潜り続けるか、更に上を目指してランクDダンジョンに潜るか。
僕はじっくり考えることにした。
◇◇◇
考えているうちに、レティーシャ・パーネルのライブ配信が始まる時間になってしまった。
レティーシャは僕の後輩のランクCハンターだ。僕が姫香をゴブリンから助けた時、僕が姫香を襲ったのだと勘違いして静子と一緒に尋問してきた金髪ロングの美女である。めちゃくちゃに疑われた件は正直まだ許してないからな……。
そんなレティーシャだが、ハンター系(?)ユーチューバーとして熱心に動画配信をしている。
これがけっこう面白い動画が多く、特に「ランクCダンジョンのトラップ回避方法」シリーズなどはかなり勉強になるのだ。
今日はレティーシャから直々に、
「ハガネ! 今日のライブ配信は面白いわよ! 絶対観なさいよね!」
というメッセージが来ていたので、リアルタイムで配信を観る予定だった。
パソコンを起動してユーチューブを開く。しばらく待つと、レティーシャが画面に映った。
「ハローシャ! レティーシャよ! 今日は期待の新人ハンターを紹介するわ!」
おお、ハンター紹介系の配信か。
僕はこの手のやつがかなり好きだった。一緒にダンジョンを攻略していく仲間たちの人柄を知れるのだ。僕も頑張っていこうという気持ちになる。
それにしてもレティーシャ、今日も、その、体の一部が大きくて大変よろしい。でっか……。
本人の前だと胸元への視線が一秒でバレて殺されるので、こういった機会にこっそり見ることしか出来ない。
「なんとこの新人ハンターさん、アイドルを休業してハンターに転身するんですって! インスタフォロワー数300万人の大人気アイドルが、どうしてハンターになろうと思ったのか、今日はその辺りも詳しく聞きたいわね!」
すごい経歴だ。これは画面から目を離せないな。
コーヒーを啜りながら凝視していると、レティーシャのアップから徐々にカメラが引いていき、黒髪ロングの女の子の姿が映った。おお、こちらも中々でかい。
「紹介するわ! 新城姫香さんよ!」
「皆さんこんにちは、新城姫香です。本日はよろしくお願い致します」
「ぶうううううううううううううっっ」
先日キスを迫ってきた色情魔が画面に現れてコーヒーを吹き出してしまった。
どこかで聞いたことのある名前だと思っていたが、アイドルだったとは……。
僕が狼狽しているうちにもどんどん会話は進んでいく。
「それじゃあ早速だけど、どうしてアイドルを休業してハンターになろうと思ったの? なにかきっかけがあったのかしら?」
「はい。先日ダンジョンに迷い込んでしまったところを、とあるハンターさんに助けて頂いたんです。そのハンターさんがすごく格好良く見えて。私も一緒に人を助けるお仕事ができたら嬉しいなって。横に並ぶことが出来たらなって思ったんです」
「すごく素敵な理由だわ! そのハンターさんのお名前を伺っても良いかしら?」
おいおいおいおい。
僕はレティーシャの「今日のライブ配信は面白いわよ!」というメッセージを思い出していた。
まさかとは思うが僕の名前を出すつもりじゃあるまいな?
姫香の人気によるものだろう、いつものレティーシャの配信よりも視聴者数が二桁ほど多い。迂闊な発言だけは勘弁して欲しい。
姫香は恋する乙女のような顔でのたまった。
「はい。ランクEハンターの上杉ハガネさんです。一生一緒のパーティで働いていきたいです」
ライブ配信のコメント欄が「誰だ上杉ハガネって」「俺らの姫香ちゃんに手を出しやがって許せねえ」「ぶち殺してやる」などのコメントで荒れまくる。
怨嗟渦巻くコメント欄に僕は青ざめて、そこから先の姫香とレティーシャの会話はよく頭に入らなかった。
僕のような実力の無いランクEハンターにとって、人から恨まれないようにする立ち回りは極めて重要だ。
早急に事態を収束させなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます