女子寮

euReka

女子寮

 道で声をかけられたので振り返ったら、見覚えのある女性が立っていた。

「悪い夢でも見たようなひどい顔をしてるけど、あなた大丈夫?」

 そう彼女は言うが、私にはいったい誰なのか思い出せない。

 でもこういうときは、相手に失礼がないよう適当に話を合わせておくのが無難だ。

「すぐ近くにわたしの住んでる寮があるから、ちょっと休んでいかない?」

 彼女に手を引かれて三十秒も歩くと、確かに、学生寮らしき鉄筋コンクリート造の建物に着いた。

 女子寮みたいなので、私のような男性が入っていいものかと焦った。

 でも、寮の中で何人かの女性とすれ違っても、特に私にことを気にしている様子はなかった。

「ここがわたしの部屋よ」

 そう言って彼女は部屋のドアを開け、私の背中を軽く押した。

 部屋は六畳ほどの広さで、ベッドと勉強机と、小さなテーブルが置いてあるだけ。

 彼女は、私を小さなテーブルの前に座らせると、ちょっと待っててと言ったあと、湯気の立つココアを持ってきた。

 私は、舌をやけどしながらココアを飲んだが、胃が温かくなって気持ちが少し落ち着いた。

「男の人を部屋に入れたのは初めてだけど、あなたなら別に構わないわ」

 私は、彼女にありがとうとお礼を言うだけで精一杯で、それ以上何を話したらいいのか分からなかった。

「わたしは、あなたの心の中に棲む女性で、たまたま近くにいるのを見かけたから声をかけたの」

 え?

「あなたが、何となくわたしに見覚えがあったのはそのせいで、わたしは、あなたの心です」

 私は、ただフリーズするだけで何も言葉を返せない。

「昨日の夜、あなたは学校に遅刻する夢を見て、その前の夜は、地下の洞窟をさまよう夢を見た」

 確かに私は、そんな夢を見たと思う。

「わたしもたまに、あなたの夢に登場するのだけど、あなたはいろんな問題を解決するのに必死で、わたしに構ってくれることがあまりないのよね」

 君の話は何となく本当だと思うけれど、なぜ君は現実の世界にいるんだい?

「わたしにも人間としての人生があってね、今は大学生で、いろんなことを勉強してるの」


 お互いの会話が煮詰まったところで、彼女が、ちょっと散歩でもしましょうと言った。

「いきなりこんな話をして、あなたを混乱させてしまったかもしれないけれど」

 私たちは、寮の裏手にある川沿いの道を二人で歩いた。

「あなたが背中を丸めて青い顔をしていたから、思わずわたし、声をかけてしまったの」

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女子寮 euReka @akerue

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