第21話 凶行の強行

「私は、ずっといざな先輩に尽くすためにキラキラ頑張ってる惑衣まどいくんが好きだったの......。本当はそのキラキラを私に向けてもらいたいって思ってたけど......。でも、そんな辛そうな顔させるためにお付き合いしたいと思ったんじゃ、ないから。だから、そんな、自分が傷つくためだけに諦める惑衣くんのことは、好きじゃないよ!」



告白してきた彼女の言葉とは真逆の、俺を拒絶するようなセリフ。

だけど、その言葉を発した理由は、尋ねるまでもなく、痛いくらい伝わってきて。





けど、やっぱ俺は癒乃ねぇと一緒には......。



「ねぇ、もう一回、誘先輩に一生懸命な惑衣くんを見せてほしい。それで、それでもし、すっきりできるまで誘先輩に尽くせたら、私のところに来てくれたら、嬉しいな......」



俺の思考が鈍って何も言わないでいるのをいいことに、女生徒が追撃をかけてくる。



「言いたいのは......それだけ............。それじゃあ、ちゃんと・・・・してね?」



彼女はそれだけ言い残して、呆然とする俺と癒乃ねぇをおいて立ち去ってしまった。


俺は自分が癒乃ねぇから逃げるために、いや、自分を傷つけて自己満足に浸るために、この子の心も傷つけて、その上俺のためにこんなことまで言わせてしまった......。


傷つけた上に気を遣わせて、何も答えないまま返してしまった。あんまりにも男らしくない......。






だけど、ここまで言われてもなお、俺の口は素直な言葉を吐いてはくれない。


未だ地面に膝をつけたまま見上げるような姿勢のままの癒乃ねぇに向き直る。




「......俺に、また命を賭けろっていうんですか......?」


「そ、そんなこと......っ」






さすがにもう自分でも気づいてる。


単に言い訳を並べて時間稼ぎしてるだけ、未熟な自分の無力さに拗ねて、認めずに駄々をこねているだけだって。



別に「命を賭けるのがイヤだ」だなんて思ったことはない。

むしろ癒乃ねぇのためなら、そんなものいくらでも張る準備はできてる。


だからこれは、単なる当て擦り。






だって、もともと「癒乃ねぇを傷つけないため」にやろうとしていた「離れる」ってことを、さっきの癒乃ねぇが地面に頭をつけて土下座までして拒絶するほどに嫌がったんだ。


俺自身としては長期的に見れば俺よりも誰かが癒乃ねぇを幸せにしてくれるだろうと考えてした行動だったけど、どうやら癒乃ねぇにとってはこんなこと土下座をしてでも回避したいことだった。


その必死さには、俺のその行動はそれほどまでに癒乃ねぇを「傷つけていた」し、これからも・・・・・傷つけることになるんだということを、どうしようもないくらいに分からせるものだったわけで。


しかも、さっきまでは逃げ道として残っていた、別の方と交際させてもらう決意をしたっていう話も、こんな・・・俺では嫌だと、断たれてしまった。





つまりは、敢えて癒乃ねぇを遠ざける理由が、ほとんどなくなってしまっているのに、だ。


これだけでも矛盾していて、2人の女性から発破をかけられていてもなお、俺が素直に癒乃ねぇの元に戻ると言えないのは、やっぱり自信のなさから。




「さっきも言いましたけど、俺は俺にできそうなことはやれるだけやってきました......。これ以上、俺に何ができるっていうんですか......」





俺の口をついてでてくる言葉がどんどん情けない、ダサいものになっていく。


わかっていても止まってはくれない。






なのに......。そんな情けない俺なのに、癒乃ねぇは、地面に座り込んでいた姿勢から立ち上がって、土のついた膝を払いながら、穏やかな表情で俺に近づいてくる。


そして、優しくも泣きそうな声で語りかける。



「ねぇ、私、やっぱりやだよ。無理だよ。我慢できないよ?かがりの隣にいるのが私じゃないとか、篝とおしゃべりできないとか、一緒に居られないとか、私には我慢できない。篝は平気なの?私が他の人のものになっても」


「............平気なわけないでしょ......」



平気なわけがない。

そんな光景を見ることは何年も前から覚悟もしていたつもりだったけど、実際その光景を見せられて正気を保てる自信はない。




煮え切らない態度の俺に、癒乃ねぇは優しい表情を崩して、再び瞳に涙をいっぱいに浮かべて叫ぶ。


「それならこれからも私の側で頑張ってよ!」


「......無理だよ......」


「......私が悪いの?私がだめだから篝の側に居られないの?原因は私の体質なのかもしれないけどさ。私は......私はなんにもしてないじゃん!なのに、なのになんで。なんで大好きな・・・・篝と離れ離れにならないといけないの!?こんなのっておかしいよ!」




その表情は涙やら鼻水やらでくしゃくしゃになっていて、魅力的ではあるけど、さすがに心臓を止めるような美しさ・・・と形容するのは難しいだろう。


こんな状況で考えるべきことじゃないかもしれないけど、今なら目を開けても大丈夫かもしれない。......開けないけど。





それよりも、自分が好きな人が自分のことを好きだと言ってくれた。

こんなに嬉しいことはない。


正直、普段の状態だったら、今すぐにでも癒乃ねぇを抱き締めてよろしくお願いしてしまっていたと思う。





でもやっぱり、根本的な問題が・・・・・・・解決していない・・・・・・・から。




「............ごめんなさい」



















ドガッ!バギッ!!ドゴッ!!!



「......え!?」



あまりにいきなりのできごとに、一瞬何が起きたのか分からず、止めるのが遅れてしまった。


「や、やめてください!何してるんですか!?」

















癒乃ねぇは、俺の目の前で、虚ろな瞳で、自分の顔面をグーで殴っていた。




「......私の見た目が醜くなれば、篝が私の側から離れる意味は、なくなるよね?顔が変形しちゃうくらい私が自分をボコボコにしたら、責任とって、一生一緒にいてくれる、よね?」

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