第19話 限界突破
どうするのか見守ろうと思って、身を隠しながら聞いていた。
私が篝に距離を置かれるようになって1週間ちょっとが経って、私も篝のことを諦めないといけないと思い出していたところで起こったこのイベント。
この1週間、私もそれなりに告白されたけど、篝も結構たくさんの女の子に告白されたと聞いている。
それでも今の所、全員断っていると聞いてる。
だからこの子の告白も断るものだと思っていた。
だけど、それにしては篝の反応がちょっと変だ。
「あ、えっと、それで......以前、すげなくお断りして傷つけてしまったのに、また告白してくださったこと、素直に嬉しく思います......」
「え!?」
「え、ってなんですか、えって」
「い、いやぁ。第一声で断られると思ってたから......。......嬉しいってことは......も、もしかして、私とお付き合いしてもらえたり......するんですか?」
「そ......それは......っ。その......」
なぜか篝がすごく動揺してるように見える。
なんですぐにお断りしないの!?
まさか............。
この子とお付き合いする可能性があるの!?満更でもないの?
話を聞く限り、前にも告白されて断ったことあるのに、また告白してきたって......。
そんな一途な思いに、グラっときちゃったの!?
私が篝の不審な挙動にヤキモキしていると、篝は申し訳無さそうな表情をして口を開く。
「......えっと、ごめんなさい。君の気持ちは心から嬉しいんだけど、素直にその告白を受けるには、俺は今、凄く打算的なことを考えています」
「......打算的なこと?」
......なんだろう、打算的なことって?
「はい。なんていうか......率直に言ってしまえば、俺は君と恋人になったりすれば、好きな人への想いを断ち切ることができるかもしれないって考えています。そのためにあなたを利用しようとしているんです」
す、好きな人への想いを断ち切るためって......!?
そ、それって、タイミング的に、私のこと......だよね!?
篝、やっぱり私のこと、好きでいてくれてたんだ!!!
やばい、めちゃくちゃ嬉しい!!!!
けど......。それなら......それならこれからも私の側にいてよ......。
簡単に諦めて私の側から離れようとしないでよ......っ!
篝のこの返事......。
すっごく篝らしいセリフだ。
良くも悪くも、紳士的であろうとするがために、あんまりデリカシーないことも素直に口にしちゃうところ。
こういうところも、篝の素敵なところなんだよね。
このままじゃ篝がこの子と恋人になっちゃう......。
「......ふふっ。そういう言いにくいことをそのまま口にするところとか、とっても
うんうん!なんなのこの子、すっごくよくわかってるじゃない!
「それでもいいの。もし私が
んちょっ......!?
そんな押せ押せで行っちゃったら、今の篝は完全に私を諦めて、お付き合い始めちゃうよ!
......................................................やめて............やめてよ。
やめて!いやだ!
篝が他の子のもとに行くなんていやだ!
耐えられないよ!
この現場を見せられて、篝がいなくなるって本気で実感して、ようやく明確にわかった。
私が幸せになるためには篝がいなきゃだめだ!
篝が私以外の女の子と一緒に楽しそうにしてるところを想像しただけで、生きていけないと思うくらい苦しい............。
そんな私の想いとは裏腹に、相手の女の子の決意の籠もった告白に、篝の表情は何かを決めたような凛々しくてかっこいいものに変わった。
だめだ......篝が告白に応えちゃう......!
このままじゃ篝がとられちゃう!
そんな気持ちが昂ぶってしまって、頭で考えるより先に、身体が勝手に動いていた。
「まっ、待って!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
*****
「まっ、待って!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「い、
「ゆ、
陰に隠れて見てたのは気づいてたけど、この場面で出てくるの!?
ってか、告白に決意が乗りすぎていて、癒乃ねぇがそこにいるの忘れてた!
え、というか、「好きな人を忘れるため」みたいな、告白みたいなことを言ってなかったか俺!?
さすがの癒乃ねぇも俺の気持ち気づいちゃったか!?
自分の失言にドギマギとしながら癒乃ねぇの方を見ると、癒乃ねぇも俺の方を一瞬ちらっと見返す。
でも何も言わないまま、俺から目線を外して、告白してくれた子の方に向き直って話し出した。
「後輩ちゃん......かな......?まずは謝罪させてください。大事なところでお邪魔してしまったこと......ごめんなさい............」
癒乃ねぇの突然の乱入に俺同様、驚きを隠せない女生徒。
「え、っと。誘先輩......。どういうご用件でしょうか......。できればここはもう少し空気を読んでいてほしかったところなんですが......」
彼女の言葉には、戸惑いだけじゃなく、若干の怒りも含まれているように感じる。
まぁ、当然だろう。
告白の場面に乱入されて怒らない方がおかしい。
流れ的に、今にも俺が折れてOKしそうな雰囲気だったってのもあるよな......。
そんな不機嫌な女生徒の声に、癒乃ねぇは小さく肩を跳ねさせるも、すぐに持ち直して辿々しく言葉を綴る。
「ごめんなさい。勇気を出して告白したんだと思うけど......もしかしたらいい雰囲気だったのかもしれないけど............。篝とお付き合いを始めちゃいそうなところだったのかもしれないけど......」
「..................」
やっぱりバッチリ聞かれてたみたいだし、俺の答えも想像ついてるみたいだ。
それでもこのタイミングで乱入してきたのって......。
途中まで話して口ごもる癒乃ねぇが次に何を言うのか、俺も女生徒も黙って待つ。
癒乃ねぇがそれに続けた言動に、俺たちは改めて驚かされた。
「だけど、どうか......どうか、お願いします............。それ以上は、やめてほしいんです。私から篝を奪わないで......ください」
ここは学校の裏庭。つまり地面は土だ。
なのに、癒乃ねぇは地面に膝と手と頭をきれいに接地させながら、弱々しく、そう言った。
告白してくれた女生徒に、土下座をして、頼み込んでいた。
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