第18話 諦めるために

「もしかしたら惑衣まどいくんは傷心中かもしれなくて、そんなところにつけいるみたいで恐縮なんだけど............。しかも前の事もあるのに・・・・・・・・......。でも私、惑衣くんのこと、ずっと好きなの!もし......もしよかったら、私と付き合ってもらえませんか!?」







チャラ男先輩(仮)が癒乃ゆのねぇに告白して、癒乃ねぇがよくわからない質問を返したところまで見たあと、その先を聞きたくなくて逃げ帰ってしまった。


..................情けない......。


でもしょうがないよな。好きな人が別の男と付き合うかもしれない場面を見たい男なんて、いないだろう?

俺が逃げてきたのも、むりからぬことだと、許してもらえるよな。



そんな情けない俺なんかだけど、目の前で丁寧に腰を折って頭を下げているこの子のように、告白してくれる人がいるというのはシンプルにありがたい話だ。


この子は今のクラスメイトで、見た目も性格もかなりいい子だ。

みんなに優しいし、頭も運動神経もいい。


さらには、実はこの子、以前にも一度俺に告白をしてもらったこともあるんだよな。

そのときも断らせてもらったけど、それでも今回声をかけてくれた。


初めての告白以上に、勇気がいったんだろうな、ということは想像に難くない。




癒乃ねぇ以外の人を好きになってしまえさえすれば、癒乃ねぇのことを吹っ切れるだろうし、癒乃ねぇの魅力的な表情を見ても心臓が止まることもなくなるかもしれない。


そういう意味ではさっさと彼女を作るのがいいんだけど。




でも、付き合うっていうのは......ちょっと、むり、かな。


さすがにまだ、そういう気持ちにはなれない......。




「えっと、告白してくれてありがとうございます......」




と、そこまで口に出したところで視界の端、ならぬ、感覚の端に、癒乃ねぇの存在を感じ取る。


多分癒乃ねぇ的には隠れてるんだろうけど、俺の感覚だとわかってしまう。



そういえば癒乃ねぇはあの先輩と付き合うことにしたのかな......?


今になってあのとき、告白の現場を最後まで見届けずに逃げてしまったことの後悔が大きくなる。


まぁ、仮にそうだとしても、あのチャラ男先輩(仮)は結構いい人そうだったし、俺より癒乃ねぇを幸せにできそうなら、それもありか......。

そう思ったからこそ、あの場から逃げたんだしな。




っていうか、こういう動きするってことは、癒乃ねぇはやっぱり俺が視覚以外の感覚を研ぎ澄ましてるってことに気づいていない?

それはつまり、俺が目を開けずに生活してることにも気づいていないということだろうか。



まぁ......今となってはなにもかもどっちでもいいか......。



いずれにしても、視覚を封じて他の感覚を研ぎ澄ました効果というか、副作用というべきか。

人が隠したいことを察知してしまうのは必ずしもいいとは言えないな。


なんて癒乃ねぇに気を取られて、数瞬考えを巡らせてしまった。


意識を戻すと、目の前の女生徒が不思議そうな表情でこちらを見つめている。



しまった、告白に対してお礼を言ったまま終わってしまってる!?

告白を受けるみたいになってる!?



「あ、えっと、それで......以前、すげなくお断りして傷つけてしまったのに、また告白してくださったこと、素直に嬉しく思います......」


「え!?」


「え、ってなんですか、えって」


「い、いやぁ。第一声で断られると思ってたから......」


「............」




テンパって先が紡げないでいると、女生徒が俺の言葉を遮って口を開く。



「......嬉しいってことは......も、もしかして、私とお付き合いしてもらえたり......するんですか?」




や、やっぱり誤解されてる!?





「そ......それは......っ。その......」






....................................それも、いい、かな。


もし癒乃ねぇがあの先輩と付き合うことになったっていうなら、俺の方もどっかでちょっとした荒療治でもして別の人に意識を向けたほうがいいのかも......。


けど......それもこれも、こういう不誠実な気持ちを相手が受け入れてくれたらって前提だよな......。



だからこそ、俺の考えはちゃんと伝えてみよう。



「えっと、ごめんなさい。君の気持ちは心から嬉しいんだけど、素直にその告白を受けるには、俺はいますごく打算的なことを考えてるんです」


「......打算的なこと?」


「はい。なんていうか......率直に言ってしまえば、俺は君と恋人になったりすれば、好きな人への想いを断ち切ることができるかもしれないって考えています。そのためにあなたを利用しようとしているんです」


「えっと......それで......?」



目の前の女生徒は、なにが言いたいのかわからない、とばかりに、顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべる。



「それでって......。いや、君のことを好きじゃないのに付き合って、他の人への気持ちを整理するための道具・・にしようとしてるって言ってるんですよ!?怒るべきところですよ!?」


「いや、そんなの、付き合ってもらえるなら全然どうでもいいよ!これまではアピールするチャンスも全然なかったのに、そのチャンスがもらえるんでしょ!?じゃあ便利に扱ってもらう方が私にとって得じゃん!」


「いや、得って......」



そこまで言ってもらえるのは嬉しいけど......、でも、やっぱり............。



「やっぱり、いざな先輩のことが忘れられないんだね?」



迷っていることが表情に出ていたのだろうか。言い当てられてしまう。



「そう......ですね......。これまで全部をかけてきたくらいには、好き......だったんだと思うので......。なかなかうまく切り替えられないとは思います」



そう、これが偽らざる俺の今の気持ち。



「それでもいいの。もし私が惑衣まどいくんの心をいざな先輩から奪えなかったら、それはそれで仕方ないから......。ちょっとでもいいから惑衣くんとお付き合いさせてもらえませんか!?」






........................そこまで言って、くれるなら......。


俺が告白に応えようとした、そのとき。









「まっ、待って!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


さっきまで隠れていた癒乃ねぇが、大きな声で割り込んできた。

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