第17話 諦めようとして想いが募る

「あなたは、私のこと、幸せにできる?」





告白を受けた。


今回の相手は、チャラチャラとした私がちょっと苦手な見た目に反して、意外と真摯な言葉で真っ直ぐに思いを伝えてきてくれた。




全く嬉しくないと言えば嘘にはなる。

人に好意を向けてもらえることはシンプルに光栄なことだ。


だけど、いい加減めんどくさい気持ちになるっていうのも、察してほしい。


私は昔からかがりのことだけが好きで、他の人なんて眼中に入ることもない。

だから他の人からの告白なんて断るっていう選択肢しかない。



篝が私の側にいてくれたときには、みんな敵わないとか私たちの仲をぶち壊さないようにとか気を遣ってくれていたのか、告白を受けることはほとんどなかった。


私も篝も「付き合ってない」って否定してきたけど、篝があれだけ私に献身的にしてくれてたし、私が積極的に仲良く話す男の子なんて篝しかいなかったから、みんな私達が深い仲だって勘違いしてたみたい。


まぁ、私にとっては都合のいい誤解だったから、できるだけほったらかしにはしてたんだけど......。


断らなきゃいけなくて心苦しい告白も減るし、篝と深い仲って噂からまことがでたりしたら、嬉しいからね。




だけど、1週間前に篝を病院送りにしちゃった次の日以降、篝が私を避けるようになってから、私達が別れたって噂が流れた。


それからというもの、私への告白の件数が急に増えちゃった。


聞いたところによると篝のところにも結構女の子が集まってるという話。

正直、おもしろくはない。篝は私のだと思ってたのに......。


でも、彼を傷つけないためには離れたほうがいいって決めたんだ。

篝がそれを望むなら、私はそれに......従おうって決めたんだ。



篝は私から離れることで私が幸せになる道を作ろうとしてくれているんだと思う。



だから、私自身が幸せにならないなんてことになったら、篝に合わせる顔がなくなってしまう。


そう考えて、「私にとっての幸せってなんだろう?」ってことを、今週はずっと考えてきた。




そんな中受けた今回の告白。


私自身は呼び出されたときから断ることは決めていた。

見た目の苦手そうな相手だったしね。



お断りしようと前を向いた時、視界の端、私が告白を受けている場所から見える校舎の角から、チラッとだけ手が見えた。

あの手は間違いなく篝のだ。


私をずっと避けてたのに、こういうときに見守ってくれてたんだ。



そのことに、嬉しくなる自分と、いつまでも彼に心配をかけていることへの申し訳無さが湧き上がる。

同時に、彼を安心させてあげたいって気持ちが高まってきた。






目の前の彼の告白を受けたら、篝が安心してくれるかはわからない。


チャラいみたい目の男の人と一緒にいたら余計に心配するかな?

でも、意外と紳士的だったしなぁ。


もしこの人とかが私を幸せにしてくれそうなら、篝も安心するかもなぁ。




私が他の人と付き合ったら、篝はなんて言うかな。

嫉妬とまではいかなくても、ちょっとくらいは寂しそうな表情をしてくれるかな?


......そうだと、いいな。




頭の中にそんな妄想が刹那の間に駆け巡って、ふっと笑みが漏れた。



それから、私に告白してきて目の前で頭を下げたままの彼の心臓を万が一にでも止めてしまったりしないよう、表情を引き締めて一呼吸おいてから尋ねたのが冒頭の一言。



「あなたは、私のこと、幸せにできる?」



彼がもしも。億が一にもないと思うけど、篝よりも私を幸せにしてくれそうな答えをくれるなら、篝を安心させられるかもしれない。



正直、篝を諦めるために他の男の子を利用するみたいな形になってしまっていて罪悪感を感じる部分はあるし、「私のことを幸せにできるか?」なんて、ナルシスト全開のセリフも恥ずかしいけど、無性に聞いてみたいと思った。







目の前の彼は顔を上げたかと思うと、不思議そうな表情でこちらを見返したかと思うと、考えるような仕草をして黙り込んだ。


それから数秒して彼から返ってきた言葉は、やはり彼の見た目とギャップがあるものだった。



「えっと............。幸せに......できるかはわからないですが、そうできるよう全力を尽くす覚悟はあります」



うん、やっぱり、案外紳士的だ。

でも、言うだけなら誰でもできるんだ。


篝はこれまで何年もの間、口ではなにも言わないまま、私のために文字通り身を粉にして努力をしてきてくれた。


そんな篝が、私の幸せを思って離れていったんだから、篝よりも頑張ってくれる人じゃないと、無理に決まってる。


篝も、こんな言葉だけじゃ、なんにも安心できないだろうしね。



「覚悟......か......。具体的には、どんなことなら、してもらえるのかな?」


「具体的に......?」


「そう、具体的に。あなたは、篝のこと、知ってる?」


「もちろん。惑衣まどいくん、だよね?いつもいざなさんの側にいて尽くしてた彼でしょ。凄い男だと思うけど」


「そうなの!!!!!篝は凄い子なの!!!!!」




..................。




沈黙が痛い......。



篝を褒められたことが嬉しくて、つい声を荒げてしまった。

表情が緩んでしまわなかったことを、誰か褒めてほしい。


この流れは何回も経験した、男の子の心臓を止めてしまう流れだから、ぎりぎり表情に出すのは止めることができた。




とはいえ、告白されているところで別の男の子をべた褒めするなんて酷いことをしてしまった......。



「あ、ごめんなさい......。............えっと、それで、比べちゃうようで申し訳ないんだけど......あなたが篝よりも私のためにしてくれることとかって、なにかある、かな?」



私としては純粋な質問だったんだけど、目の前の彼の表情は暗くなってしまった。




っていうか、今日の私いつも以上に失礼なこと言ってるな?


客観的に聞いたら、「昔の男と比べてあなたは劣ってますよ?」って言ってるようにも聞こえてしまうようなことを口走ってしまった......。


こんな嫌な女じゃ、篝にも嫌われちゃうかもしれないっ。



不安になってさっきまで篝が居た校舎の角に目をやると、その姿はなくなっていた。


......帰ってしまったのだろうか。

彼の告白の結末を聞かなくてもいいと思った?断る流れだと悟った?興味がなかった?




見守ってくれているという安心感で目の前の彼と話をしていたのに、いつの間にかその柱がなくなっていて少し混乱する私。

それとは対象的に、なにか決意したような眼の前の彼が口を開く。



「ここはかっこよく答えたいところだったんだけど......。ごめん、惑衣くんはあんまりにも凄すぎた......。彼よりもできることは、俺にはない......気がする......」


「そっか......。ごめんね、失礼なこと聞いちゃって......」


「い、いや、大丈夫。それはいざなさんにとって、告白の返事をもらうために聞かなきゃいけないことだったんだろう?」


「えぇ、そうね......。それで、お返事なんだけど......」


「あぁ、もうわかってる......」


「そう......。じゃあ。申し訳ないけど、あなたの告白には応えられません。ごめんね」


「っ!そう、か......。ちゃんと振ってくれてありがとう。告白させてくれてありがとう。時間をとらせて悪かったね。それじゃあ」



そう短くやり取りしたあと、彼は帰っていった。


最後まで見た目にそぐわず......とか言ったら失礼か......、意外と紳士的な対応で去っていった。





やっぱり、篝より私のために何かしてくれる人なんて......いないよ............。

篝じゃなきゃ、だめだよ..................。




告白してくれた彼には申し訳ないけど、今回の件は改めて私の篝への想いを募らせることになるだけだった。

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