第16話 癒乃への告白を覗き見
「
結論から言えば、チャラ男先輩と癒乃ねぇのあとを尾行、もとい見守りについていった先で行われたことは、やっぱり告白だった。
若干予想外だったのは、ド偏見だけど、金髪にピアスバチバチでガタイも割といいっていう、見た目どう見てもチャラ男の先輩の告白の言葉が、めちゃくちゃ律儀で真面目な感じだったことだろうか。
意外とチャラ男先輩はチャラ男ではなく、硬派な人間のようだった。
こうなってくると、逆に心配になるのはチャラ男(仮)先輩の方だ。
本物のチャラ男で、何股もしているような人、つまり、癒乃ねぇの美貌を目の当たりにしても本気で心を撃たれることのないような適当な人であれば、生命の心配をすることはないんだけど。
少なくとも今聞いた感じの真剣さで癒乃ねぇのことが好きなのであれば、万が一癒乃ねぇの感情の籠もった表情でも拝んでしまった日には、癒乃ねぇとの恋愛に脈があろうとも、彼の脈は止まってしまうこと請け合いだから。
......まぁ、今、俺が校舎の影から見守っている限りでは、癒乃ねぇの表情には感情は微塵も宿っておらず、むしろめんどくさそうな、申し訳無さそうな、そんな微妙な表情をたたえている。
俺は相変わらず目を開けては居ないから、直接見たわけじゃないけど、匂いとか諸々の感覚で、それくらいの表情の変化は読み取れる。
その表情から、おそらく彼の告白は断られて終わることになるのだろうと予測ができた。
............彼には申し訳ないですが、ほっとしている自分がいる......。
くそっ......。諦めなきゃいけないのに、なに嬉しくなってんだ、俺は......。
と、目の前の出来事に喜びと悔しさが綯い交ぜになって呆けていると、ふと癒乃ねぇの視線が動くのを感じた。
校舎の角の壁に背を預けていてる俺の方を癒乃ねぇがチラッと一瞥した。ように感じた。
やばっ、ばれた、かな?
自分から距離取っておいて、こんなシーンを覗き見してたなんてバレたら普通に恥ずかしすぎる。
こちらを見られている内に下手に身じろぎでもしたら確実にバレてしまうと思って、全身を硬直させた。
数秒して、癒乃ねぇがフッと小さく笑った気がした。
それから癒乃ねぇはすぐに表情を元の無に戻して、癒乃ねぇの目の前で頭を下げたままのチャラ男先輩(仮)の方を向き直り、すぅはぁと、息を小さく吸って吐いた。
あぁ、かわいそうに......。告白なんてめちゃくちゃ勇気がいるだろうに、振られちゃうんだなんて、辛いだろうな......。
開かれた癒乃ねぇの口からでてきた言葉は、俺の予想とは異なるものだった。
「あなたは、私のこと、幸せにできる?」
普段はにべもなく断るのに、目の前の癒乃ねぇから紡がれたのは、「自分のことを幸せにできるか?」という問い。
問いを与えるということはすなわち、答えを期待しているということ。
つまり、少なくとも1往復分の対話をする猶予を、彼に与えたということ。
......まさか............彼の答えによっては、断らない、のか..................?
その癒乃ねぇの言葉に、チャラ男先輩(仮)が俺と同じような驚いた表情になり顔を上げる。
告白したは良いけど、まさか断り以外の言葉が返ってくるなんて思ってもみなかったんだろう。
これまでの癒乃ねぇの言動を見てれば、そういう驚きの反応をするのも了解できるというものだ。
もしも彼が癒乃ねぇの気に入る答えを返せでもしたら......。いや、仮にそうでないとしても、癒乃ねぇがいつもと違う返事をしたってことは答え如何に関わらず、OKを出すつもりがあったりするのかもしれない。
......だめだ、これ以上聞いているのは耐えられない......。
それ以上その話を聞き続ける勇気が出ず、俺は耳をふさいで、そっとその場から去った。
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