第14話 篝のいない日常
「
篝が、明日から起こしにきてくれないって言った。
篝が、明日から登下校を一緒にしないって言った。
タイミング的に、どう考えたって昨日の件が原因だろう。
すごく久しぶりだったけど、篝の心臓を止めてしまった。
篝たちはまだ病院から帰ってきたばっかりなんだろう。
さっきまで1階のリビングで、パパやママと話してたみたい。
話の内容は聞こえなかったけど、多分今篝が私に伝えてきたことと、同じようなことを話したんだろうな。
嫌いになった?なんて聞いてみたけど、篝が今回の件で私に悪感情を持つような男の子じゃないことくらいはわかってる、つもりだ。
だけど聞かずにはいられなかった。
もし......。もしも篝が私のことを「嫌い」なんて言ってくれたら。
そうしたら、私のこの篝への想いにも、折り合いをつけられるんじゃないか。
篝への恋心を、諦められるんじゃないかって思ったから。
そんな私の考えを知ってか知らずか。
「................................................体調には、気をつけてくださいね。それじゃあ」
篝は答えをはぐらかして、帰ってしまった。
階段を降りていく篝を、追いかけることなんてできなかった。
なんでそんなことをしたのか、わかってしまったから。
きっと、私と会わないなんて言い出したのは、今回の件で「篝が私を傷つけたから側にいる資格はない」みたいなことを考えてのことなんじゃないかと思う。
だから、質問の答えをはぐらかしたのも、私のことは嫌いになんてなってないし「嫌い」なんて嘘でも言えなかったんじゃないかな。
だけど、私と距離を置くために敢えて「嫌いじゃないって言わなかった」、ってことなんじゃないかな。
そうだったらいいな、っていう希望的観測も入ってるんだけどね。
だって、もしそうなら、そうやってはぐらかさなきゃいけないくらい、私のこと好きでいてくれたってことじゃない?
私の想いが、実は片思いじゃなかった、ってことかもしれないじゃない?
うん、きっとそうだ。
だから............頬を伝うこの熱いのも、嬉し涙、なんだよ。絶対............そうだよ。
*****
ピピピピピピピピピピピ「バシッ」。
「うーん、
毎朝起きたとき、というか起きる前に呼んでいた名前を、つい呼んでしまって。
でも今日から彼はここには来ないんだって気づいて。
それで急に目が覚めた。
目覚まし時計をかけるなんて、いつ以来だろうか。
いつも篝が起こしにきてくれていて、目覚まし時計なんて必要なかったから。
でも今日からは違う。
昨晩流した涙の跡が、頬に違和感を感じさせて、それが私に思い知らせる。
篝は起こしに来てくれないんだって。
私の大好きな朝のひとときは、味わえないんだって。
普段と違う起床プロセスを経て、シャワーを浴びて、朝ごはんを食べて、誰も隣に居ない通学路を1人寂しく歩く。
授業の間もまさしく右から左。
先生の声が遠く、どこか別の世界の音みたいにぼんやりと響くだけ。
中身なんて何も覚えてられない。
ママに持たせてもらってるお弁当も、もともとみんなのに比べて大きくはないけど、半分も食べられない。
男の子はともかく、女の子のお友達はちょっとはいるから、休み時間やお昼ごはんの時間はいつもその子達とおしゃべりして過ごすんだけど、今日は彼女たちの話も全然入ってこない。
彼女たちに、何回も「癒乃ちゃん聞いてる!?」って聞き直されちゃった。
その都度、あははって笑って誤魔化しちゃったけど、ずっとボーッとしてたから、同じ失敗を繰り返してしまった。
でも、ちゃんとなんて、できそうにもない。
まだ、普段と違うことなんて、朝起きるときと登校のときだけなはず。
だけど、私にとっては、朝に篝と会えない、夕方にも一緒に帰れないってわかっている、それだけでこんなにもなんにもできなくなってる。
そんな感じで午後の授業も午前中同様、何も頭の中には入ってこないまま放課後になった。
私は力なくトボトボと階段を下って下駄箱に向かう。
そこで。
「あっ......篝......」
彼がいた。
一目見られただけで、こんなにも嬉しくなっちゃう。
でも......。
篝はいつも通り、開いているのかもわからない糸目のまま、ニコッと笑って去っていってしまった。
あぁ......やっぱり送り迎えだけじゃなく、学校でもこんな感じになっていくんだ......。
しょうがない、よね。
というか、私もそうしなきゃって思ってたんだし、いずれにしてもこうなってたんだよね。
篝への想いを諦めなきゃって、思ってたんだし。
それでも、やっぱり......きっついなぁ。
それから1週間。
同じような日々が流れていった。
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