第11話 癒乃の回想3

かがりのお嫁さんにしてもらいたい。

ずっとそう思ってきた。


だから過度にならない程度に、他の男の子にはしないような、みんなが言う「普通のコミュニケーション」をしていた。

もちろん、私があんまり調子に乗って、また篝を危険な目に合わせるわけにはいかないので、できるだけ自重するよう意識して。



篝と2人きりでいると、嬉しくて楽しくて、普段なら出さないようにしている笑顔とかも自然と溢れてしまう。

でも、いまや篝は私と面と向かって・・・・・・視線を合わせて・・・・・・・いても、他の男の子が倒れちゃうような私の表情を見ても、平気な顔をして接してくれるようになった。


篝はいつも変わらず、開いているのかも・・・・・・・・わからない糸目・・・・・・・だけど、優しく微笑んでいてくれている。

その優しくて温かい笑顔を見るたびに、逆に私の心臓がドキドキしちゃったり、なんて。


私と向き合って話してくれる人は多くないから、そんな篝との何気ない日常の1コマだけでも、余計に篝への気持ちが高まってしまう。


私と対面しても心臓が止まらないのは、あくまでトレーニングをしてくれた成果だと思うんだけど。






まさか、篝に好きな人は......居ないと、思うんだけど。

もしもそんな人がいたら、ヤだな......。



篝はすごくモテる。


元々整った顔をしているし、優しい笑顔を際立たせるその糸目も、実際常にニコニコと穏やかで、男女みんなに分け隔てなく手を差し伸べる性格も。

今回助けてくれたときみたいに緊急のときはテキパキと動けるところも。

心臓を鍛えるためにしているのであろうトレーニングの成果もあって身体能力の高さも。


どれも篝がモテる要素だと思う。


そのうえ、頭も良くて、テストでもいつも学年で上から数えて数番目には入っている。


さらには、これはみんなは知っているのかはわからないけど、家事もばっちりこなせちゃう。





......つまり篝は、いつも私がそばにいること以外、優良物件と形容するしかない素敵な男の子。


私の方は、見た目を褒められることはあっても、最近では男の子が近づいてくることはほとんどなくなった。

みんな命は大事だからかな。



それに対して篝の周りには女の子がうろついてることが少なくない。

いつその子たちの誰かが篝に手を出してもおかしくないし、篝がその子たちの誰かに気を向けてもおかしくない。





できるだけそうなってしまわないよう牽制の意味も込めて、ときどきママと一緒に、篝に「お嫁さんにしてよ」って言ってみたり。

寝ぼけて頭がまわらないのを良いことにセクハラじみた恥ずかしいことも言ってみたり。


ちょっとボディタッチとかしてみちゃったり。



でも、どれだけアピールしても、篝は照れているのか本当に嫌なのかわからないけど、「ありえない」とやんわりと拒否するばかり。



そのアピール1つ1つを実行するだけでも、私はかなりドキドキしてるのに〜、なんて、我儘にも拗ねてしまったりする。


けど、それくらいのスキンシップなら許されるんだ、篝の身体は私を受け入れてくれるんだ、とも思って安心していた。


そう思うだけで好きな気持ちが日々大きくなるのを感じるくらいだった。






そんなところにあの日がきた。

久しぶりに男子生徒の心臓を止めてしまったあの日。


目の前の彼の惨状に、私はただただ恐怖して竦むしかなかった。



そこに颯爽と現れた私の王子様


学年が違うから教室も別の階で離れていたはずなのに、すぐに駆けつけてくれて。

茫然自失だった私にひと声かけて、意識を引き戻してくれて。


誰も動けないでいた教室内のクラスメイトたちに的確に指示を出して、見事な救命処置を披露してクラスメイトを助けてくれた。

私を助けてくれた。



あまりにも、あんまりにもカッコよすぎたよ。あんなの犯罪級だよ。



恥ずかしながら、もう、その晩の私のおまたの濡れ方は過去最大。洪水レベルだった。

好きの気持ちが昂りすぎた。


いつも以上に最高の自慰ができた。










次の朝、いつものように篝が私の部屋に来てくれた時、部屋の入り口とは逆方向、壁の方に身体を向けて、起きてるのがばれないように寝たふりをして篝を待ち伏せてみた。


昨日の余韻が残っていて、ちょっと好きが高ぶりすぎて、いらずらしてみようと思ったの。



いつものように不用心に近づいてきた篝の手を握って、捕まえてみた。


なんだかちょっと苦しそうにして胸を殴ってたり変なことをしてたけど、朝から肌を触れあえたことの喜びで私の心臓が高鳴っちゃう。

まぁ、高鳴るだけで止まることはないから、いいんだけどね。


篝はもっと動揺してくれるかと思ったけど、思っていたより反応が薄い気がした。



私の顔見ても、手を繋いでいても、いつも平然としてるのはもしかしたら、私には全く女としての興味がないからなのかもしれない。

単なる手のかかりすぎる幼馴染でしかないのかもしれない。

私は全然脈のない相手に、恋してしまってるのかもしれない。


いや、ここでいう脈のないっていうのは、心臓が止まってるって意味じゃなくて、恋愛の可能性がないって意味ね?わかってくれてるとは思うけど。


ともかく最近はそういう、「篝から女の子として見られていないかもしれない問題」に頭を悩ませていたところでもあった。



私の恋愛の心臓を動かして、脈アリにするために、ちょっとは動揺させたいと思って「私のことおトイレだと思ってるの?」とかちょっとえっちなことも聞いて誘ってみた。


それでも期待したような反応は得られなくて。


私は篝のことこんなに好きなのに......。それなのに篝は「バカなことも休みやすい言え」とか「癒乃ゆのねぇでそんなこと考えるわけない」とか言うし。


ただ、「私のことトイレだと思う?」って質問に対して「そんな自殺行為しない」と言ってくれていた。

それはつまり、そういうことを考えるのは篝にとって自殺行為にも等しい、ドキドキするようなことだってと。


よかった。篝は私にちゃんと女性としての魅力を感じてくれるんだ!


そう思うと、雑に拒否されたのもどうでも良くなるくらいには嬉しさでいっぱいになった。



ここでも高まった気持ちと、昨晩からの未ださめやらぬ興奮が、私の中の恋の着火剤に火を灯した。







もっと篝といちゃいちゃしたい!!!!!






そう欲が出た。

これがいけなかった。




篝に服を着替えさせてってお願いしてみたら、朝ごはんも食べてない私を置いて先に学校に行こうとしたりするから。


欲が爆発してしまい、もうちょっといじわるしたくなっちゃった。

これが致命的だった。










急いで準備する代わりに、いってきますのチューをせがんでみた。

目を閉じて。せがんでしまった。その瞬間。


篝は全身からいろんな汁を垂れ流して気絶。心臓も止まっていた。







結果的にはパパとママが急いで対応してくれてなんとかなったけど。


恐怖した。また篝を失っていたかもしれないということに。

私は、篝はもう私と普通に接してても大丈夫なんだと、誤解してしまってたことに。



だけど、私の魅力に打たれてくれている、女性として見てくれているという証でもあることに、ちょっと嬉しさを感じてしまった自分もいることに気づいた。


次の瞬間にはそんな自分が嫌になった。





これ以上篝の側にいたら、意地悪したくなるたびに篝を苦しませてしまうかもしれない。


だったら、私のこの恋心は、捨ててしまったほうが良いのかもしれない。

篝に長生きしてもらうために、大好きな人のために。






私は身を引いたほうが良いのかもしれない......。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る