第10話 癒乃の回想2

なぜか気まずそうな顔で、私に気を遣うような表情で、頑なに理由を話そうとしない篝を問い詰めて、ようやくその理由をはいてもらった。


かがりは、私のあまりの可愛さに見蕩れて心臓が止まったと供述した。


もし私がそれが原因だと知ったら、責任を感じるんじゃないかと思って黙っていようとしたんだとか。



確かに篝の言う通り、私は責任を感じた。当たり前だよね。

不可抗力だったとはいえ私のせいなのは事実なんだもん。


それにめちゃくちゃ怖かった。篝を失うんじゃないかって。



でも、それと同時に、私のせいで生命の危機に瀕しても私をかばおうとしてくれる篝の王子様っぷりに、さらに惚れ込んでしまった。


結果的に、この出来事を境に、私の篝への片思い・・・が始まることになった。









篝への好意を自覚した私は多分、恋する少女として何か目覚めてしまったんだと思う。


その頃はまだ、自分の容姿が人の心臓を止めうるということへの自覚は薄かったんだと思う。

だから、むしろどうやったら今より可愛くなれるかをたくさん研究したし、篝に向ける表情も、柔らかくなっていったみらいだ。



その影響か、他のご学友にも、少しだけ当たりが優しくなっていったんだろうな。


本当に、それもいけなかった。


ふとしたときに親切にしてくれた男の子に嬉しさを感じて、お礼を言って微笑みかけてしまった。

彼が篝に続く2人目の犠牲者。


でも彼の場合は篝とは違った。

止まった心臓を再生できる心肺蘇生法を実践できる人がそばに居なかった。


救急車を呼んだりする適切な処置ができる人が周りに居なかった。


結果、私はその子を葬ってしまうことになった。








私は小学生の内に他に2人、中学生のときに1人、同じような流れでクラスメイトを葬ってしまった。


1人目が還ってこないとわかった時点で、篝に好かれるために始めた可愛くなる研究もやめたし、表情もできるだけ減らすようにした。

人と関わるのも極力避けるようになった。


だけど、いかんせん、社会的な生活をする上で人と関わらないのは難しく、ふとした瞬間に親切にされ、油断してしまうことがあった。

その結果が、高校生に入るまでに4人の生命を摘み取ってしまうにいたったわけだ。



小学校のときはともかく、中学校の時は篝が救急救命の訓練をしていたからなんとか頑張ってくれたのに。

それでも足りなかった。彼らは戻ってこない。私のせいで。


いつでも周りのみんなは誰も私を責めなかったけど、逆にそれが辛かった。

それに責めはしないけど、私から距離を取るようになった。


当然だと思う。私もこんな爆弾女が側にいたら絶対距離をとるもん。






私の方からも、それまで以上に周りの男の子と距離を取るようになった。


自分が美しすぎるから男の子の心臓を止めないように避けてあげる、なんて、どれだけ自意識過剰なら気が済むんだって話だけど、実際私にとっては死活問題だった。


あ、死活問題なのは、私にとって、というより相手の心臓にとって、っていうほうが正しいんだけど。


文字通り死なすか生かすか。


ともかく相手を殺さないように、特に男の子には冷たく接する、むしろ接さないように注意した。


彼女がいたり、どうしようもないくらい好きな子がいる男の子とは、ある程度普通に話せたけど、その子達は基本的にみんな自分のパートナーと四六時中一緒にいるから私と接触することは稀だった。






だから必然的に、いつも私の側にいてくれる男の子は篝だけだった。

篝だけが違った。


たぶんパートナーも好きな子もいないのに、なにがあっても私から離れていかなかったし、むしろ私といつも一緒にいるようにしてくれていた。



初めて心臓が止まったころから、篝は走り込んだりトレーニングを始めるようになった。


明確に私のために始めたとは言われたことはないけど、きっとそうなんだと思う。

私と一緒に居ても問題ないように、心臓を鍛えてくれているんだと。


小学校中学年のころ、トレーニングのしすぎなのかはわからないけど、篝はしばらく、あたかも目が見えていないかのように足取りが覚束ないことがあったりした。

もともと糸目だったから、目をつぶっているのかな?なんて思ったこともあるけど、流石にそんなわけないよね。目を閉じて生活するなんてできるはずないもんね。


そんな変わった様子も小学校の高学年になるころにはなくなっていた。


やっぱり、フラフラしてたのはトレーニングのし過ぎだったんだ。


篝自身がもともと持っていた体力以上に頑張りすぎていたのが原因で、身体ができてきたおかげで安定するようになったんだろう。







そんな彼に、思春期真っ只中の私の恋心は膨れ上がる一方で。

中学に上がる頃には完全に篝のことを愛していた。


いつか篝のお嫁さんにしてもらいたい。


当時は、というか昨日までの何年もの間、揺るぎなく、そう思っていた。

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