第8話 篝の内省と決意
今回もまた、両親にも
なんなら原因になった
最近の癒乃ねぇは特に、他の男子とは距離を取りつつも、俺に対してはあたかも安全地帯かのように油断して振る舞ってきていた。
それはきっと、信頼と安心から来ていたんじゃないだろうか。
長年一緒に居て、今でも毎朝起こしに行って、それでも普段は普通に生活できてる俺なら、癒乃ねぇの美しさを受け入れて愛し合えるかもしれない、なんて思っていたんじゃないだろうか。
なのに、その期待を、信頼を俺は裏切ったんだ。
きっと今頃罪悪感で、さぞ落ち込んでいることだろう。
いつもの、他の男子生徒の心臓を止めて落ち込んでいるときなら俺が側にいて支えてあげられたけど、今回はその俺が被害者。
癒乃ねぇを慰められる人はご両親しかいない。
おそらく加害者、というか心肺停止の原因となった癒乃ねぇは病院にはこないように言いつかっているのだろう。
きっと彼女がお見舞いに来ることはないのだろう。
携帯端末も、今の俺の手元にはない。
倒れた時に癒乃ねぇの家に置いてきたかばんの中に入ったままなのだろう。
冶綸さんか母さんに持ってきてもらえばよかった......。
もう時間も時間だから、これ以上迷惑はかけられない。
でもそうしたら今晩中に彼女とコンタクトをとって慰めることはできない。
無力感が凄い。
何のためにこれまで走り込みをしたり、妄想で癒乃ねぇと結ばれることで慣れていくようにすることで、心臓のトレーニングをしてきたのか。
その効果も虚しく、好きな気持ちばかりが大きくなって、むしろ癒乃ねぇの微笑みの爆弾の威力は増すばかり。
人生計画なんて称して、癒乃ねぇとは決別する道を想定しているなどと宣ってみたものの、心の片隅では癒乃ねぇの爆弾も解除して一緒になる道も妄想している自分も、当然、いた。
だけど今回のことで、自分の中でその希望がかなり潰えた。
何年も続けて鍛えても無駄だった。
その実感は得も言われない喪失感を俺に植え付けた。
だからこそ、覚悟をしないといけないのだと悟った。
癒乃ねぇのことを諦めて、決別するタイミングなのだと。
すごく嫌だけど、癒乃ねぇのためには、離れたほうが良いんだ。
........................よし、頑張ろう。
さて、それじゃあ、これからどうしましょうかね。
どうやって癒乃ねぇと離れるか......。
距離を置くためのアプローチを考えるために、まずは俺と癒乃ねぇの関係を見つめ直してみようか。
今の俺と癒乃ねぇの関係......。
1番密接なのは、毎朝起こしに行ってること、かな。
それから、高校への登下校を一緒にしていること。
他には、休日は大体一緒に過ごしたりすること。
癒乃ねぇが落ち込んだりしたときには、いてもたってもいられずに彼女の元へと駆けつけてしまうことも関係といえば関係だよね。
あとは癒乃ねぇが誰かの心臓を止めてしまったときにできるだけ迅速にフォローに向かうこと、とかかな。
ふむ........................こう考えると結構俺たちって距離近いな。
っていうか俺が癒乃ねぇのところに押しかけてるから続いてる距離の近さって感じか。
俺が朝に
帰りも癒乃ねぇをほっといて勝手に1人で帰ればいいだけ。
休日も自分の用事を作って癒乃ねぇのところにいかなければいいだけ。
癒乃ねぇの周りで何かが起きて、落ち込んでたりやばい状況でも、敢えて側に行かなければいいだけ。
......そうだ。
癒乃ねぇが俺を他の男子と比べて特別扱いしてくれることが嬉しくて、好きな人に頼られているってのがたまらなく嬉しくて、距離を近づけ過ぎちゃってたんだろうな。
うん、まずは手始めにシンプルに接触機会を減らしていこう。
それくらいなら、俺が意識的に近づかないようにするだけで実現できるはずだ。
うぅ......身を切るような思いってのはこういうことを言うんだな。
癒乃ねぇが悲しそうな表情をするだろうことを想像するだけで心が痛い......。
でも
あぁ、それにしても俺は癒乃ねぇとの接触をいつまでも我慢できるんだろうか。
全然自信持てないな......。
ならいっそのこと、癒乃ねぇに俺のこと嫌いになってもらうってのが手っ取り早いんじゃないか?
俺が癒乃ねぇのことを嫌いになるのは無理そうだしな。
嫌われてさえしまえば、向こうから勝手に距離をとってくれるかもしれない。
うん、それがいいんじゃないか。そうしよう。
いきなり嫌われるのは俺の心の安寧的に難しいだろう。
だから、最初はさっき考えていた通り俺から距離を取っていこう。
それから段々癒乃ねぇに嫌われる行動を取っていくことにしよう。
よし、それじゃあ、何よりもまず今は身体を休めて、明日ちゃんと退院できるようにしよう。
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