第6話
*
表参道をすぎたところで、黄色の車体を見つけた。
相変わらずよたよた走る前には、充分な車間。そこへ、すべり込んだ。
ハザードボタンを押す。
インパネの点滅が、一つ、二つ、そして三つ。
きみのよりも大きな―――「ありがとう」のサイン。
信号が、俺たちをとめた。
パッシングにバックミラーが光った。覗き込むと、フロントウィンドー越しの彼女の指が、つんつんと、この車の尻を指していた。
すぐに理解した頭は、今度は苦笑ではなく、目頭を熱くさせた。
深緑地に白く浮き出たこの営業車のナンバーは、
[1188]―――いいパパ。
ミラーの中の笑みは、すると、その指を斜め前方に向けた。
つられて移した目に、あがる手が映った。まわりには俺以外、タクシーの姿は見えない。
まだ一緒に走っていたかった。―――しかし。
「回送」表示を「空車」に変えると同時に、シグナルも変化した。
ゆっくりと車線を外れていった。
営業時間外だが、担当編集者のいうことは聞かなければ。そしてそうすれば、きっといい“欠片”が拾えるに違いない。
ただ、今日ほどのドラマは、おそらくつくりだすことはできないだろうが―――。
「ご利用ありがとうございます。どちらまで参りましょう」
半身ごとふり返った俺は、つくりものではない笑顔でいえた。
〈了〉
ダメ父 tonop @tonop
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