第34話 戦国お風呂事情
それから、信長たちはヒノキ造りの浴場で、互いの体を洗い合う。浴場は蒸し風呂でも、五右衛門風呂でもない。ヒノキ作りの湯船に水を張った、平成に近いものだ。
当時の風呂はサウナのような蒸し風呂で、汗と一緒に汚れを流すだけで、湯船は京都の一部にしかなかった。けれど、前世の記憶がある信長は、京都や温泉のように、お湯のなかに浸かる形式に慣れ親しんでいるため、清州城にも湯船を作らせた。
涼むために今日は水風呂だが、普段はお湯を入れるし、追い炊きもできる。
それはさておき、いまは利家が慶次の頭を洗い、信長が利家の背中を洗っていた。
髪用石鹸(シャンプー)をつけた手で頭皮を揉まれながら、慶次は恥ずかしそうに身を縮め『見られちゃった、見られちゃった、ノブ兄に見られちゃった』と呪文のように呟き続けている。
利家はと言うと、この前の一件もあり、早くも慣れはじめていた。それでも、肩越しに恥ずかしそうな表情でチラチラとこちらの様子をうかがい、ときおり、はにかんだ笑みを我慢するような、複雑な表情になる。
――やべぇ、やっぱり何度見てもワンコかわいぃ……それに……。
こんな可愛い娘と一緒にお風呂に入っているという、世の中の全男子へ対する優越感を得ながら、信長は視線を落とした。
利家の両手は慶次の頭を揉むために上げられているので、脇の下からは、豊満な横乳がたぷたぷと揺れる様が拝めた。
――おっぱい、背中越しでも見えるんだな……。
さっきから、利家のおっぱいに感動させられっぱなしの自分に驚きつつ、信長は石鹸をつけた手拭で利家の背中をこすり続けた。
ちなみに戦国時代、すでに石鹸はあった。
戦場では泥、汗、返り血による汚れで皮膚病が横行していたが、宣教師が持ってきた石鹸を、健康マニアの家康が家臣たちに配り、これで体を洗うようにと指示。以降、皮膚病患者は激減した。以来、一部の戦国大名のあいだでは、石鹸は必需品となっている。
ただ、前世の知識がある上に、見ての通り女好きな信長としては、戦とは関係なく、女の子を綺麗にする道具として愛用させているのだ。
でも、石鹸で髪を洗うとギシギシするので、今世で石鹸を作るさいに色々とためし、卵や牛乳、植物油から、シャンプーとリンスの製造に成功した。
甘いお菓子に湯船、石鹸、シャンプー、リンスと、本人は気づいていないが、おそらく、この戦国時代で一番女子力が高いのは彼女、前田利家だろう。
「はい終わり、頭流すから目ぇつむってなさい」
言って、利家は手桶に用意しておいた水を慶次に被せた。顔にぺったりとはりついた髪をかきあげて、慶次は椅子代わりの桶から立ち上がる。
「あ、ありがと……じゃあ今度は、魔王様の背中を流しますね」
まだ少し頬の赤い慶次は信長の背中に回り込むと、手拭に石鹸を塗り付けはじめた。それに合わせて、信長はシャンプーを手に取り、利家の長い黒髪を洗う。
元から利家の髪は艶やかで、泡立てながら優しくなでると、指に絡まる感触が気持ち良い。いつまでもこうしていたくなる美麗な髪を楽しみながら、信長は心を弾ませる。
――ふふ、ワンコ、俺の手でもっともっと可愛く綺麗にしてあげるからな♪
そうして、しばらくのあいだ上機嫌に利家の髪と頭皮を揉み洗いしていると、うしろから慶次の声がかかる。
「……あのう魔王様ぁ。そろそろはっきりさせたいんですけどぉ」
「ん? なんだ?」
「魔王様とお姉ちゃんて、付き合っているんですよね?」
利家の全身がビクリと跳ね上がり、豊乳が上下に躍動したのが背中越しでもわかる。
耳が真っ赤に染まり、頭から水蒸気が噴きあがっている、ような気がする。
「あっ、あんたは何言ってんのよバカ! あたしとノブが付き合ってるとか……」
肩越しに振り返った利家の顔は、羞恥と嬉しさと戸惑いがないまぜになって、なんだかよくわからないことになっている。ただ、信長としては見ごたえ抜群の可愛い反応だ。
「あれ? 違うの? じゃああたしがこうしてもいいよね?」
慶次はいつものように、信長の背中に抱きついた。もっとも、いまは裸なので、ナマ乳と、ツンとした先端が信長の背中を刺激してしまう。
慶次としては、いつも通り利家への当てこすりなのかもしれないが、信長はいつも以上にいい気分だ。
「ちょっと慶次、あんた離れなさいよ!」
利家が振り向き、信長の正面から抱きついて慶次を引きはがそうとする。剥がされてなるものかと、慶次は腕に力をこめて、ますます巨乳を信長に押し付ける。
そんなことをするものだから、慶次の巨乳と利家の豊乳、四つのスイカおっぱいに挟まれて、信長はもう極楽気分だった。
――すげぇッ。十数年ぶりの挟み撃ち攻めだ!
「やぁだ! 魔王様成分もっと補給するの!」
「あんたいま裸でしょ!」
利家の指摘に、一瞬慶次はうろたえ腕を緩めるが、またすぐに抱きつきなおす。
「い、いいもん。どうせ全部見られちゃったんだから、もう遠慮しないもん! それより、お姉ちゃんこそ、裸で前から抱きついていいの?」
「え? !?」
キョトンとしてから、利家は体を離し、視線を落とす。すると、利家の視線は信長の邪神龍とかちあい、利家から火薬の炸裂音が聞こえた、ような気がする。
「はわ、はわわわわわっ!」
利家は体を隠すのも忘れて、猛然と手桶で湯船の水をすくい、頭から被りまくって泡を流すと、脱衣所へと走ってしまう。
「あたし、先に上がるから!」
戸を開けて、利家は逃げてしまった。
あとに残された信長は、肩にあごを乗せてくる慶次のほっぺを、ぷにぷにふにふにと突っつく。
「こら慶次、あんまりお姉ちゃんをいじめたら駄目だぞ。えいえい」
「むぅ~、だってぇ~……ねぇ、ノブ兄」
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