第31話 ホワイトブラック企業?


 四半刻(三〇分)後。信長と秀吉は、清州城の城壁修復現場の視察に来ていた。


 三か月前、清州城を手に入れた信長はまず、城下町の拡張と整備、開発に全力を注いだ。結果、人手と資材が足りず、清州城そのものの修繕と改築は遅れ気味だった。


 それでも、内装はもう完了していて、残るは崩れた城壁だけなのだが、それがいつまで経っても、遅々として進まない。


 その様子に、信長は眉間にしわを寄せて、声を濁らせる。


「修理をはじめて一か月も経つのに、まだ全然直っていないな。サル、これをどう思う?」

「もう尾張国内に敵はいにゃいけど、今川が攻めてきたら大変ですみゃ」

「だろ、つうわけでサル、お前これ、三日でなんとかしろ」


 沈黙が流れること五秒。秀吉は、ぽかんと口を開けた。


「みゃ?」

「いや、だから、敵が攻めてきたら大変だと思うんだろ? じゃあなんとかしろよ」

「そそ、そんな急になんの脈絡もなく、草履取りで足軽のウチにそんなことができるはずがないのみゃ!」


 慌てふためく秀吉に、信長は力強く指をさす。


「じゃあいま、この瞬間をもってお前を普請奉行に出世させる。これで草履取りじゃなくなったぞ。ほらやれ」

「なにがどうしてそうなるのみゃああああああ!?」


 秀吉は悲鳴を上げるが、信長は気にした様子もない。


 ――だって、お前前世でなんとかしてたもん。


 そうなのだ。史実において、秀吉は、一か月かけても直せない城壁を、三日で直すという人使いの上手さを発揮している。


 それを知っているのなら、信長が秀吉の真似をすれば良いのだが……。


 ――俺が前世の知識を使って、家臣の偉業を横取りするのは簡単だ。でもそれじゃあ駄目だ。天下取りは独りじゃできない。英雄の素質を持った家臣を英雄にするためには、本人に偉業を成し遂げさせて成長させる必要がある。サルの考案したやり方は、サルに考案させて、それから俺が使わなきゃ駄目だ。


「大丈夫だって、お前ならできるって」

「何と言われても不可能ですのみゃ!」


 すると信長は秀吉の両肩をつかみ、笑顔で、


「できるできる絶対できる。できるから。お前ならできるよ」

「にゃ~、でもぉ……」

「俺にはわかる! お前は天才だ! 才能がある! 一目見たときからこいつはやると確信していたんだぜ! だからっ、なっ?」

「できる、かにゃあ?」


 信長は笑顔で、大きく頷く。すると、秀吉もその気になり、背筋を伸ばす。


「わかったのみゃ、じゃあやってみるのみゃ」


 その場で腕を組み、秀吉はさっそく方策を練る。


 ――よしよし。じゃあちょっと、兵器工房の様子を見てくるか。対今川の戦略は、工房の職人たちの手にかかっているからな。


 秀吉を残し、信長は兵器工房へと向かった。


   

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