第21話 敵幹部が仲間になりました
半刻(一時間)後。清州城の謁見の間には、死に装束姿の勝家の姿があった。
その姿には、利家や慶次、秀吉などは面食らっているが、信長は眉一つ動かさない。
――この謝罪の仕方、五〇〇回以上見たなぁ……まっ、勝家にとっては一回目だけど。
「勝家、その恰好はどうした?」
「はい、本日は、切腹の許諾と、信長様自らの介錯をお願いしたくまかりこしました」
――うん。千度の人生でもだけど、こいつ真面目なんだよな。
勝家は信勝についたが、そのことで勝家を攻める気はない。千度の人生に加えて、今世では信長と年が近く、幼い頃から信勝の家臣として一緒にいたため、平成風にたとえると、弟の女友達、みたいな感覚で、彼女の性格はよく知っている。
彼女は決して悪意ある人間ではなく、ただどこまでも、主君に尽くすタイプなのだ。
彼女は信勝の重臣。だから主君信勝の望み通り、彼に協力していたに過ぎない。
「主君の器を見抜けず、諫めることもできず、信勝様の謀反も止めず、家中に不和を招いたのはひとえに私の責任。私には、織田の臣下たる資格がございません」
勝家が額を床につけ、深く土下座をすると、信長はやや気後れする。
「いや、そんな気にしなくても……それにお前が主に忠実なのも、凄ぇ強いのも知っているし、これからは俺に仕えて償ってくれればそれでいいよ。それにもうその堅苦しい喋り方やめろよ。俺ら幼馴染だし、昔みたいに気軽にしていいぞ、勝姉」
信長の提案に、勝家の背中が強張る。それから、ゆっくりと涙に濡れた顔を上げると、勝家は再び頭を下げた。
「ありがたき幸せ。この勝家、誠心誠意、お仕えします!」
勝家のことは、信長の舎弟たちも知っているので、長秀や信盛、恒興などの三馬鹿や、利家は『これで勝姉もようやく自分らの仲間だな』と平和そうな顔をしている。
ただ、信長としては違う想いもあった。
突然だが、武に生きた柴田勝家は生涯、事実上の未婚で、色恋には縁遠い人だった。
それは、つまり……。
――これ以上行き遅れさせるわけにはいかないからな……今世では結婚させてやりてぇ。
信長は思い出す。
若い頃は『私に男など不要。私は武に生きるのみ』とか余裕ぶっこいていた勝家が晩年、部下が結婚するたびにヤケ酒を煽り、むせび泣く姿を。
――虚空に向かって、空気夫と会話している姿を見たときは哀れすぎて涙が出たぜ。幸い勝家は黙っていれば美人だし、利家以上の爆乳爆尻だし探せばきっと――。
信長の思考を遮るように、勝家は立ち上がり叫んだ。
「信長様。信勝側の逃げた連中はみんな尾張最後の反抗勢力、織田信賢のところに逃げ込んだ。連中との戦では、あたしを最前線に配置してくれ!」
「おう、そのつもりだ」
勝家は握り拳を作りながら、大きな口を開けてがなりたてる。
「うっしゃああ! 見てろよ信賢! 家来共を全員くびり殺しててめぇらの首ももぎとってやんぜ! 今日からは日課の瓦割りを五〇枚から一〇〇枚に倍増だぁあああ!」
足を広げたがに股で、勝家は火を噴くようにして叫んでいた。
勝家の爆乳が、死に装束の下で激しく揺れ、上下左右に暴れまわり、前合わせが開いてしまい、深い谷間を見せる。
同じように、ダイナミックに弾みあがる安産型のお尻のせいで、帯がゆるんで、大惨事が起こりそうだ。
自動脱衣など、どれほどの振動があれば起こるのだろうか。ただ、その姿を前にした信長の舎弟たちは、一切の煩悩を感じさせない、仏像のような表情だった。
――ごめん勝家。やっぱ無理かもしんない……。
勝家の色気のなさに、信長はドン引きだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます