第8話 デートに行かないか?


 次の日の朝。信長は利家にプレゼントした部屋の前で、慶次と一緒に声をかける。


「なぁワンコ。そろそろ出てこいよぉ。お詫びに知多半島に連れてってやるからさ」

「そうだよお姉ちゃん。別に気にすることないよぉ」


 だがその誘いを、利家はけんもほろろに切って捨てる。


「うるさいうるさい! 気にしないわけないじゃない! だって、だってノブに見られちゃったのよ! あたしの全部、お尻も、胸も、それにッッ、とにかくあんたのせいでお姉ちゃんの秘密が全部晒されちゃったのよ‼」


 羞恥と絶望の混じった涙声に、信長は腰がゾクリとするほど興奮した。戦場ではあんなにも凛々しくてカッコ良い利家がこんなに弱々しく恥じらっている。その事実が、どうしようもなく信長の情欲をかきたてた。


「お姉ちゃんの秘密? そんなのあったっけ?」


 慶次が猫のような仕草で小首を傾げると、障子がわずかに開く。野イチゴのように赤くて、涙を流す利家の顔が、ちょっとだけ見える。


 障子の向こうから手招きをされて、慶次は耳を隙間に当てた。それから利家は、慶次の耳元で囁いているつもりなのだろうが、耳の良い信長に丸聞こえだった。


「だからね、あたしの……アレの色とか、大きさとか、それに、あんたもわかるでしょ?」


 すると慶次は手を叩いてコロコロ笑った。


「あー大丈夫だよ♪ お姉ちゃんが生えていないのは魔王様知ってるから♪」

「~~~~~~ッッッ!?」


 目を剥いたまま利家が硬直。声にならない悲鳴、もとい絶叫が聞こえてきそうだ。


「そのことなら慶次から聞いているぞ。あと何か色々気にしているみたいだけど、ワンコのは綺麗な桜色で俺好きだぞ♪」


 デリカシーの欠片もない感想に、利家の羞恥が限界を突破。障子の向こうから倒れる音と、畳の上をのたうち回る音が連打で聞こえてくる。


 障子の隙間から覗き見ると、利家は自分の豊乳の先端を手で押さえながら、ぎゅーっとうずくまり震えていた。


 その姿が殺人的に可愛くて愛しくて、信長は辛抱たまらなくなる。


 ――ワンコ。お前どんだけ可愛くなれば気が済むんだ。それ以上可愛くなられると、俺の理性が持ちませんよコンチクショウ。


 冗談ではなく、本当に理性が持ちそうにないので、信長はもうトドメを刺すことにする。


「まぁワンコが嫌なら仕方ないな。慶次、知多半島には俺とふたりで行こうか」

「おぉ! 魔王様と逢引きですね! 行きましょう行きましょう♪」


 部屋のなかからガタリと一発。それから勢いよく障子が開いて、利家が飛び出してくる。


「それはダメぇ!」


 そのとき、もう信長は踵を返していたから、利家は信長の背中にぶつかってしまった。


 激突の衝撃は、すべてクッション性抜群の豊乳が吸収し、そこから発生した弾力は、すべて信長の背中が受け止めた。利家のおっぱいで増幅したエネルギーは背中を貫通し、脊髄から脳髄を駆けあがり、一撃のもとに信長の理性を焼き切りそうになる。


 ――ふぉおおおおおおおおおおおおおおお‼‼ きんもちぃいいいいいいいいいいい‼


 着物越しだからこの程度で済んだが、ナマならいまの一発で信長は理性を失い、利家の貞操を守るべく自身の頸動脈を打って気絶したことだろう。


 ――ワンコの‼ ワンコのたわわなお胸様がッ! 駄目だ、十何年も女抱いていないから敏感にッ、いますぐ俺の下半身事情を隠蔽しなくては‼ ぐっ、なんっ、だとぉ!?


 前かがみになりたいのに、利家の両腕に上半身をパックされてしまいそれは叶わない。


 信長を抱き寄せる腕に、ぎゅっと力がこめられて、利家の豊乳が押し潰れて、甘い低反発力が背中いっぱいに広がる。その快楽に抗えず、信長は欲望のままに棒立つ。


 背後から耳元で、利家がためらいがちに、不器用なくちびるを動かす。


「あの、さ……ノブは、胸の大きすぎる娘(こ)は、いや?」

 ――~~ッッッ‼‼


 邪悪な魔王にふさわしい妄想を噛み殺し、利家の貞操を守るべく、声を張り上げた。


「サル! 出かけるぞ! 草履を持て!」

「はい! ここに!」


 縁側に向かって叫ぶと、どこからともなく草履を手にした秀吉が現れ、草履を置いた。


 出かけるとあって、利家は腕を離してくれる。信長は逃げるように草履を履いて庭先に出るが、そこでハタと気づいた。


「ん? この草履、なんかいつもと違うな」


 信長の感想に、秀吉は得意げに胸を張った。


「よくぞ気づいてくれましたにゃ信長様。実は主の草履が外にふきっ晒しで土埃や虫がついてはいけにゃいと思い」


 着物の合わせに手をかけ、思い切り左右に開いた。


「ふところにて保管していましたのみゃ♪」


 草履痕のついた胸元に、信長、慶次、利家は息を呑んだ。


 だってそこには、若くみずみずしい肌と、申し訳程度に発育したふくらみに淡く色づいた桜色があったから。


 信長は反応に困り、慶次は慌てふためき、利家は顔を真っ赤にして口を開けて固まった。


「おや? お三方どうしたのみゃ?」


 三者三様の顔色に、秀吉は小首を傾げるが、一陣の春風に平らな胸をなでられると、おそるおそる視線を落とした。そして……。


「みゃっ!?」


 電光石火の勢いで胸を抱き隠しながら、秀吉はその場でうずくまり、慌てすぎたせいで地面におでこをぶつけてしまう。


「にゃ~、サラシを、巻き忘れたのにゃ……」


 真っ赤なおでこと朱色に染まった顔を震わせて、秀吉はその場から動けずにいた。

 一方信長は、


 ――バカワイイなおい。


 と、和んでしまう。

 そうして信長がほっこりしていると、利家がちょっとスネた顔になる。


「やっぱり小さくて可愛いのが好きなのかなぁ……」


 そんな姉の悩みに、慶次も和んだ。そして転んでもただでは起きない秀吉は、


「はっ、そうだみゃ。ウチの胸を見たということは、つまり利家と慶次もウチにおっぱいを見せる義務が! よしふたりともいますぐ――」


 地面から飛び上がるのと同時に信長の鉄拳を顔面に食らい、秀吉は気絶した。

  

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