第14話 復活! 戦国最強コンビ
「みゃあ~、死んだらアガルタに召喚されるとは、信じられにゃい話ですみゃ」
俺がサルを撃沈させてからしばらくして、ようやくサルは冷静になった。今は召喚された石畳みの上で俺と一緒に胡坐をかき、俺と向かい合っている。
ちなみにソフィアは首を傾げながら『猫さん?』とか言っている。
「でもよハゲネズミ、お前だって勇者の力、使えんだろ?」
ソフィアは小声で『ねずみさん?』と呟く。
「はい。サルめもそれは理解しておりますのにゃ♪」
ソフィアが不思議そうに『お猿さん?』と頭を悩ます。そんな中、サルの両手に刀が現れた。一本は天下五剣の一つ、三日月宗近で、もう一本は同じく天下五剣の一つ、鬼丸国綱だ。加えて、胡坐をかいているサルの膝にも一振りの刀が現れる。
「お、いい刀だな。なんだそりゃ?」
俺に訊かれると、サルは笑顔で膝の刀をかかげる。
「さすがは信長様、お目が高い。こちらは名工粟田口吉光に作らせた一期一振にございますにゃ」
サルは刀を引き、鞘から刀身の一部を輝かせる。
「粟田口? あの短刀職人が太刀を打ったのか?」
粟田口吉光。それは俺らの時代を代表する、稀代の刀鍛冶だ。だが短刀専門の刀鍛冶で、普通の太刀や長刀は決して打たない野郎だった。
まぁ、俺は天下五剣とか長谷部国重とか、国宝級の刀をいくつも持っていた。だからわざわざ短刀職人の粟田口に太刀を打たせようとはしなかった。だが、サルの持つその刀は、天下五剣にも劣らない逸品だった。
こんなことなら俺も一振りぐらい打たせればよかったな。
俺がちょっと口惜しく思うと、サルは照れ笑いを浮かべる。
「いやぁ~、やはり天下人にもなりますとそれ相応のモノを持ちませんとダメかにゃ~と思いまして」
「天下人? お前がか?」
サルは三本の刀を消すと、手を頬に当てて身をくねらせる。
「そうなんですよ聞いてくださいよ信長様ぁ♪ 逆賊の光秀めはこのサルが討ち取ったんですよ♪ 織田家の時期当主は信長様の御嫡孫の三法師様にしてウチが後見人になりました。三法師様はまだ三歳でしたから。それから四国と九州と関東と東北も平定してウチ、天下人になって信長様と吉乃様の夢を叶えたんですから♪ 褒めてくださいぃぃ♪」
「おーそうか。よしよし」
俺が頭をなでてやると、サルは幸せそうに頬をゆるめる。
「えへへぇ~♪」
……やはり光秀はサルに討ち取られたか。きっとサルか家康のどちらかに討たれるとは思っていた。光秀は外交が上手いが、あくまで外交だ。対するサルは人たらしの天才だ。サルと光秀が戦えば、どちらに多くの味方が集まるかはすぐわかる。
「よくやったぞサル。よくぞ俺と吉乃の夢を叶えて日本を平和にしてくれたな」
「信長さまぁ~❤」
俺がサルの頭をなでつづけていると、サルは調子にのって自ら頭を動かし、俺の手にこすりつけてくる。そして……
「っで、俺の孫の三法師が元服したら、当然、天下人の座は三法師に譲ったんだよな?」
サルの体が凍りつく。
「えっと……それはぁ……」
サルの頭が、汗でしめる。俺の指がサルの頭に食い込む。
「お前は俺の家臣だものな? 三法師の後見人として天下を統一したら、政権は織田家に返したんだよな?」
俺は力づくでサルの顔を上げさせ、視線を合わせる。と、サルは視線を逸らす。
「てめぇハゲネズミ。まさか……」
俺はサルの頭をわしづかんだまま立ち上がり、彼女の体を吊り上げた。
「欲に目がくらんで織田家を乗っ取ったんじゃあねぇだろうなぁああああああ‼」
「ぎゃああああああああああ! 頭が割れるぅうううう!」
続けて俺は、サルに関節技をかける。信長式折檻奥義の一つ、蠱武羅槌凄斗(こぶらついすと)だ。背後からサルの足に俺の足をからめて自由を奪い、さらに両手でサルの胴体を抑え込みながらひん曲げ、アバラ骨の破壊にかかる。
「あぐぅうう! しょっ、しょうがないじゃないですかぁ! 信長様のお子も三法師様もみんな天下人の器じゃないし信長様と吉乃様の夢を叶えるにはウチが天下人になるしかなかったんですからぁ!」
「っで、本音は?」
「みゃは♪ 天下人の景色って最高なんだにゃあ♪」
「くたばれぇえええええええええええええええええええ!」
「いんぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ‼」
俺はサルを逆さまに担ぎあげる。サルのうなじを右肩で支えながら、俺はサルの両足をつかんでななめ下へと引っ張った。
これぞ信長式折檻術奥義、信長烈苦凄不裂怒(ノブナガ・レッグ・スプレッド)だ。またの名を、信長破凄大亜(ノブナガ・バスター)という。
俺の頭上で、一八〇度開脚しながら逆さまになっているサル。体勢的に、俺の耳元で悲鳴をあげつづけている。
「ひぎぃいいいい! だってだってウチが頑張って天下統一したんだもん! 四国と九州と関東と東北全部ウチが平定したんだもん! じぇんじぇん言うこと聞かない連中を束ねて家康も家臣にするのがどれだけ大変だと思っているんですかぁ! なのに信長様のお孫様っていうだけで何もしていない三法師様に天下を献上するなんていーやーだー!」
「ただ権力欲に目がくらんだだけじゃねぇか!」
「だってだって日本中の女の子を選び放題だったんだもん! 天下人の権力で日本中のバインバインな美女美少女に囲まれて毎日楽しかったんだもん! 何でやっと手に入れたウチの極楽浄土を手放さないといけないんですかぁ!」
「やっぱてめぇは死ねゴルァ!」
「アーッ!」
信長式折檻術奥義、武煉覇凄堕亜(ブレーンバスター)。俺は勢いよく真後ろへと倒れこむ。すると、サルの背中が石畳に強打された。俺らの全体重が重力加速度に乗せてサルの肺へと衝撃を送りこむ。サルの口から肺の空気がねこそぎ吐き出されて、サルは手足を痙攣させた。
「ったく、俺が死んだあとにとんでもねぇことしやがって」
俺が毒づきながら立ち上がると、サルは羽をもがれた虫のようにうごめく。
「うぅ、ひどい……信長様の折檻が酷過ぎてウチ、男性恐怖症になっておにゃの子しか愛せないカラダになっちゃったのに……よよよ」
わざとらしく泣き崩れるサルを、俺は侮蔑の視線で見下ろした。
「てめぇの女好きは俺に仕える前からだろ?」
「ちっ、バレたか」
サルは汚らしく顔をゆがめた。
額に青筋を浮かべながら俺が睨みなおすと、サルは土下座の姿勢で固まった。
「まぁいい。とにかくまたお前には俺のもとで働いてもらうからな」
怯えきった表情で体を震わせ、サルは尻餅をついた。
「ひぇええ。まさか馬車馬のごとくコキ使うおつもりですかぁ!?」
俺は笑顔で、
「いや、秀吉のごとくコキ使うつもりだ」
「ウチの本名を新しい日本語にしないでください!」
ここにきて、ようやくソフィアが、
「あの……勇者様。そちらのかたは……」
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