第11話 俺がお前らを勝たせてやるよ!
俺は朝食を済ませると、再び大広間にくるようソフィアに促された。俺は、ソフィアのそばにいた家臣にとある命令をしてから大広間へ向かった。
大広間には昨日の騎士たちを含め、何十人もの家臣たちが集まっていた。鎧は一部しか身に着けておらず、この世界の礼服であろう装いだ。そして皆、焦燥感をまとっている。負け戦が続いて、あとがない連中はこういう感じになる。
俺はソフィアに連れられて、皆の前に立たされた。
「皆さん。これから勇者様より重大発表があります」
ソフィアの言葉に、騎士たちはざわめき、姿勢を正した。
「では勇者様、お願いします」
「おう」
一歩前へ出ると、俺は戦色の声と表情で顔を上げた。
俺の顔を目にして、騎士たちは息を吞む。
「俺が貴様らの勇者! 第六天魔王織田建勲信長である! このアガルタを救うべくガイア世界より降臨した!」
俺の雷声に、騎士たちが目を丸くして身を硬くするのがわかる。
きもちいねぇ。
続けて、俺は鬨の声を上げる。
「昨夜、俺を召喚したソフィア姫と語らい! この国の資料を読み! そして俺は確信した! 俺に従がえば貴様らは勝てる! 貴様らは枷をはめられた獅子だ! 俺がその枷をはずしてやる! 貴様らの背後にはこの勇者王がついていることを忘れるな!」
俺がひとこと浴びせるたび、騎士たちの顔つきが変わる。
いい感じだ。
ただ頑張れではなく『勝てる策がある』。
お前はやればできるではなく『俺が強くしてやる』。
そして『勇者王がついている』。
追い詰められた人間は、『秘策』『自信』『寄る辺』を与えられるとホイホイついてくる。そして負け犬が獅子になる。
これは人間の本能。世界が変わっても人間は変わらねぇ。
まっ、詐欺にも使われる手口だ。秀吉も得意だった。
俺は思い出す。秀吉が邪悪な笑みで『寝返り工作完了させましたぁ♪』とはしゃぐ姿を。
うん、あいつからは犯罪の匂いしかしなかった。
最後に、俺はトドメの激声をブチ込む。
「そして天下を統一し乱世を終わらせる! 世界を一つにした英雄として貴様らの名を歴史に千年刻めえ‼‼‼」
騎士たちが目を剥いて凍りついた。喉は息も飲めずに口は半開きだ。
幼子が生まれてはじめて虎を見たような、あるいは迫る土石流にいま気付いたような顔だ。理解の範疇を超えたものを目にした顔だ。
ガキはガキでもさすがは王族か。最初に動けたのはソフィアだった。
「あの……ゆうしゃさま? 天下のとういつとは……われわれはコボルトをどうにかしていただければ、それで……」
頬をひきつらせるソフィア嬢に、俺は教え諭す。
「その程度で済むかよ。世界中が戦国乱世なんだぜ? 人口爆発のせいで領土と食糧求めて世界中の国が戦争中だ。一国二国支配したって解決しねぇよ。なら全自国民を養えるだけの領土を手に入れた国から順に乱世から降りるか? 無理だな。その頃には軍事に傾倒した軍事国家だらけになる。巨大になり過ぎた軍組織の熱は収まらねぇ。国民も戦に勝つたびに暮らしが豊かになれば欲が膨らみもっともっとと戦争に熱を入れる。そうなりゃもう止まらねぇ。生きるための戦争が豊かになるための戦争になる。どこかの国が天下を取るか、全ての国が疲弊しきるまで終わらねぇ。俺らがコボルト国を撃退しても、いずれコボルト国を手に入れた国がまた攻めてくる。俺らがコボルト国を支配したら、今度はコボルト国の隣国が攻めてくる」
ソフィアの背筋が、恐怖で震える。
「な、ならどうすればよいのですか? 全ての国が疲弊するまで防衛し続けるのですか?」
「たわけてんじゃねぇよ。だから言ってんだろうが、天下を統一するってな」
俺はソフィアに向けて口元を歪めた。それから騎士たちへ向き直り、ひとりひとりの顔を眺めまわす。
「なーに呆けたバカづらしてんだてめぇら。全ての国を俺らで平定すれば他国という概念はなくなる。戦争はなくなる。単純な話だろ?」
返答できない騎士たちに代わり、ソフィアが意を決した声で反論する。
「それは、無理です。全ての国を植民地にするなんて。必ずどこかが反乱を起こします」
「植民地?」
俺は、単語の意味にピンとこない。だが、地球における大陸の歴史を思い出した。
そういや、大陸は平定した国から搾取するんだったな。
日本では戦で領土を手に入れると『自国が大きくなった』と考える。
だが、大陸では自国と分けて『本国』『植民地』という単語を使う。敗戦国の財産や地下資源は搾取され、民は奴隷に落とされる。
大陸では、植民地の民を自国民と同じに扱う王を優しき名君と呼ぶ。だが、日本ではそれが常識だ。元がどうであれ、自身の領地になれば土地は自国で人が自国民なのは当然。『本国』と『植民地』に分けて考えるほうがおかしい。
なるほど、この世界は地球の大陸的な考え方が一般的らしい。
「お前らは本当にたわけてんのな。なんでわざわざ反乱を起こされるようなことしてんだよ。そんなの、平定した国の連中も自国民と同等に扱えばいいだけだろ? ていうか俺は地球でずっとそうしていたぞ?」
「それこそできるわけがありません。だって、種族が違うんですよ!」
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