第7話 勇者召喚されたけど勇者になるかは俺が決める
この国を品定めすると、俺は心の中で含み笑いを浮かべた。
「ほほう、それは立派だ。つっても、俺も親父が早くに亡くなって早々に家督を継いだんだけどな。悪いが同情はしねぇぞ」
そうだ、ソフィアに同情はしない。でも、俺は先代の王を憎く思う。
俺の親父が死んで、俺が織田家当主になったのは、俺が一七の時だ。一七のガキに当主の威厳があるわけもない。織田家の親戚連中は独立割拠。故郷の尾張はバラバラになった。尾張を統一するのには骨が折れたよ。
見たところ、ソフィアの年は一〇かそこら。こんな小せぇガキを残して死ぬなどたわけが過ぎる。
きっとソフィアはこれから、国内をまとめるためにイバラの道を歩むのだろう。
『まぁせいぜいがんばれや』と思うのと同時に『今ならこの国を乗っ取るのはたやすい』とも思う。
俺は自省した。
他国の事情を知ると、すぐに国盗りが頭をよぎるのは俺の悪い癖だ。俺はもう死んだ身だ。もう戦国乱世とは関係ないんだ。
いやでもだぞ。でもだぞ。でもでもだぞ。
今の話を聞く限り、たぶんこいつが王位継承権一位なんじゃねぇの?
兄ちゃんがいてそいつが新王として都でがんばっている感じじゃねぇぞ。
しかも俺は救世主様なわけよ。
コボルト軍に追い詰められているところを俺が救えば、なし崩し的に俺が全権を握れるんじゃねぇの?
やべぇなぁ。国盗りが日常の一部になっているとこの状況……すげぇウズウズする。
まったく、手段と目的の区別がつかなくなるってのはこういうことを言うんだな。
俺は吉乃に平和な世界を見せてやるために天下統一目指してんだぞ。でも吉乃も俺ももう死んだしここは日本じゃねぇ。ここには俺が守る国も家臣も民もいねぇ。
だから国盗りをする理由は……
俺の頭が急激に冷える。笑いをこらえるような感覚が沈下して、
……じゃあ俺、なんで吉乃が死んだあとも国盗りしていたんだ?
理由を聞かれれば、天下を統一すればあの世にいる吉乃からでも見えると思ったとか、吉乃の夢を受け継ぎたかったとか、そういうことになるんだろう。
もしもそうなら、この世界を平和にすれば、吉乃は喜ぶのだろうか?
俺が黙っていると、うつむいていたソフィアは不思議そうに顔をあげた。そして、ソフィアは不安をたたえた表情で俺の顔を覗き込んでくる。
「あのう、勇者様?」
「ん? おう。そもそもだソフィア。お前、俺に大した説明もなく勇者やれとかぶしつけだろ。勇者やれってんなら最低限の説明がねぇとな。検討以前の問題だ。こっちからすりゃあいきなり呼び出されて一方的に勇者やれだぜ?」
ソフィアは慌てて頭を下げ、
「すす、すいませんでした! どうぞお許しを!」
「あー気にすんな。ガキのやることにいちいち目くじら立てるほど小さくねぇよ。こりゃあ家臣の失態だな。おい、お前らあとでソフィアに謝っとけよ」
家臣達は表情を硬くして、一瞬、その場でソフィアに謝ろうとしておしとどまる。
俺が『あとで』って言ったからか? バカ正直だねぇ。
俺は、思わず失笑を漏らしそうになる。
「ソフィア。お前にはいくつか質問がある。俺がこのアガルタ世界に召喚されるとき、頭に流れ込んできた知識がある。このアガルタ世界にはレムリア大陸、アトランティス大陸、ムー大陸、パシフィス大陸、メガラニカ大陸の五大陸があるってのは本当か?」
「はい、本当です」
「お前、確かここはレムリア大陸とか言っていたよな? この大陸の状況とこの国の状況をかいつまんで説明しろ」
「わ、わかりました」
それからソフィアは、俺にこの世界のことを説明しはじめる。
「他の大陸も同じですが、このレムリア大陸には多くの種族が住んでいます。今日、我々人間と戦ったコボルト。他にもケンタウロスや人魚など種族は様々です。どこも各種族ごとに集まり、独自の国家を築いています。各種族は全て違う姿をしていて、得意なことも違います。そして各種族の人口は年々増え続け、やがて国民を養う新たな領土が必要になりました。十年ほど前からどこの国も領土を求めて隣国へ攻め込み、世界中が乱世になりました。我が国も、三年前から東隣のコボルト国に攻め込まれ、戦争中です」
「人口が増え過ぎて戦争になったのか。この国の人口は?」
「五〇〇〇万人、コボルトの倍近い人口です。しかし国民性や体制の違いで、兵の数はコボルト国の半分程度です」
五〇〇〇万人!? 日本の全人口の倍かよ。マジで多いな……
俺は、冷静なフリをしながら質問を続けた。
「お前、姫様と呼ばれているみたいだが、王が死ねばお前が女王になるんじゃないのか?」
「違います。確かに王位継承権第一位は私です。しかし今は戴冠式をしている余裕はありません。現在は王不在のまま、私が代理を務めております」
戴冠式。おそらく、天皇の譲位のようなものだろう。
日本の天皇は存命中に位を譲る『譲位』をすると上皇になる。だが、譲位の儀式を開くには莫大な費用がかかる為、そう簡単に譲位は叶わない。
ソフィアの口ぶりを聞く限り、この国は『戴冠式』というものをしないと王になれないようだ。そして、戦乱中の今、その余裕はない、と。
「俺を召喚したのはどういう妖術だ?」
「妖術? いえ、勇者様を召喚したのは魔術です」
「魔術?」
と、俺はソフィアに聞き返した。
「はい。魂から生じる力、魔力を消費することで使える術で、えーっと、誰か」
ソフィアの呼びかけに応じて、家臣達の中から一人の女が進み出た。
黒い衣をまとった、若い女だった。
「勇者様に魔術を見せてあげてください」
「御意」
黒衣の女は、ソフィアに一度頭を下げてから、天井に手をかざした。
女は小声で何かを唱え始める。すると、急に女の体から目に見えない力が溢れた。
「お?」
女の手の平から火種が生まれ、一気に蹴鞠大の火球にまで成長する。火球は生き物のようにゆらゆらと蠢き、空気越しにも俺の顔を熱する。
女は火球を消し、続けて手の平から水、土、雷を生み出したり、宙に浮いたりする。
陰陽師とは少し違う。まるで天狗や、宣教師の言う魔女のようだな。と俺は思う。
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