第51話 約束して

 政宗が目を覚ますとベッドの中で眠っていた。鎧は脱がされ手当てもされている。

 ベッドの横にはイスに座ったまま眠る水樹の姿があった。政宗が上半身を起こし、その姿を眺めていると水樹は目を開けた。


「あっ、政宗くん・・・・・体は・・・・大丈夫?」

「ああ、しばらくは動けないだろうが命に別状はない」


 それを聞くと水樹は大きく息を吐き出し安心する。


「ここまで運んだのはお前か?」

「ええ、それで家についたら傷の手当てをしたんだけど、あたしあまりうまくなくて・・・」


 政宗は水樹の容姿を改めて確認するがやはり病的に白い肌と強く握っただけで折れてしまいそうな華奢な体、とてもではないが金属の鎧を身にまとった自分をあそこからここまで運んでくる、それをこの弱々しい体で行うのにどれだけの苦労があったことだろうか、政宗は少しの間だまっていたが窓から外景色を眺め言う。


「いや、今回はお前がいなければ死んでいた・・・・・・礼を言う、やはり俺には・・・・・」


 水樹の顔を見て一言。


「お前が必要らしい・・・・・・」


 それを聞いた途端、水樹の白い肌が一瞬で赤く染まり、両手で顔を覆い、うつむく。


「・・・・・伊達政宗」


 突然部屋に響く聞き覚えのない声、政宗と水樹が辺りを見回すと部屋のドアの影がすうっと立ち上がり、人のような形を成す。声の主はその影だった。


「ワタシの名はパルラケルス、史上最強の錬金術師だ、今日は君にいい話を持ってきた」

「いい話だと?」


 政宗は殺気を剥き出しに、その影をにらむ。


「おいおい、その物騒な殺気はしまってくれないか?これはお互いのためになる大事な話なんだ」


 パルラケルスは、まず、とおいて本題に入る。


「五月一日の朝に誾千代たちはイギリスへと飛び立つ、理由は我々西洋の騎士達で結成されているチームを殲滅するためだ。そこで君たちには誾千代たちと一緒にイギリスに行き途中で彼らを裏切り我らの仲間になって欲しい、なぁに、理由は単純、ワタシは君のその邪眼に興味があるのだよ、まあ、ようするに君には実験体兼部下になって欲しいのだ、ワタシに協力すればワタシが優勝し生き返った時に錬金術で君を不完全ではあるが蘇生してあげられる。あくまでも不完全だからその腕輪は必要だし定期的に霊力を回復しなければならないが、なあに、心配はいらんよ、腕輪はその女にはめさせていればいいし霊力もワタシが責任を持って与えよう、どうだね、悪い話ではないだろう?」


 政宗はしばらくの沈黙のあとに口を開く。


「いいだろう・・・・イギリスに行ってやる・・・・・・」

「ほう、では我々、いや、ワタシに強力を・・・・・」


 ヒュッ

 政宗はすぐ横に置いてある花瓶を影に向かって投げつける。花瓶は弾丸のような速さで影を貫き、部屋の壁に当たると砕け散り、政宗は怒鳴る。


「この俺を実験体だと!?ふざけるな!貴様の首をもらいに行くから待っていろ!!」


「ハハハハハ、本当に予想通りの人間だ、いいだろう、ならば君を生け捕りにするまでだ、歓迎しよう、イギリスで待っている・・・・・・」

花瓶に貫かれた影は虚空に雲散霧消し、パルラケルスの声だけが部屋に響く。

「あの、政宗くん、あまり興奮すると傷が・・・・・」

「水樹、直人との連絡先わかるか?」


 水樹はその質問にやや驚き、電話番号と住所は知っていると言うと政宗は直人に連絡して自分達も行くと伝えろと言い。


「他のスレイヴ達が一箇所に集まっているなら好都合、パルラケルス共々撫で斬りにしてやるまでだ!!!」


 今の政宗は今までとは少し変わったように見える、前はただ全てを憎み殺さんばかりの殺気をまとっていたのに対し今はそれが和らぎ、純粋に最強を目指しているように見えた。


 気のせいかもしれないが水樹はただそれがうれしくてほほえむ。


「ええ、やりましょう、でも、一つだけ約束して・・・・・・」






 ははははは、チームを組む奴が出るのはわかっていたが、忠勝を倒す現代人にスレイヴを二人も持つロード、そして神弥直人の超人遺伝子覚醒、こんなにカオス要素が現れるなんて、最高の気分だよ。


 さぁて、スレイヴ達もこの時代に適応してきた所で戦いはさらに激しくなるはずだ。


 スレイヴの残り人数・・・・902人、ふふふふふ、君には特に期待しているよ。

・・・神弥・・・直人・・・・・・。


 幼い頃から好きだった、人生で最初の恋、一度も会ったことのない、一度も話したことのないその英雄を、少女は愛した。

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