第49話 決着


「だまれ!情など人を弱くさせる物でしかない!守る者など弱点にしかならん!!女風情が偉そうに・・・・そうだ、女の・・・・っ・・・・」


 一瞬、政宗の頭に生前の記憶がかすめ、政宗は顔を歪める、部下は全員戦の道具、女は同盟を結ぶための材料、自分の勢力を拡大し天下を取るためには田村家との同盟が必須だった。


 そのため同盟の口実作りに選んだ花嫁(ざいりょう)が愛姫(めごひめ)という女性だった。日本を自分の物にするための材料、そう思っていたはずなのに。


 彼女の笑顔は辛い自分の心を癒した。頭がいたくなる、違う、戦いに情は必要ない、あれは何かの間違いだ、仲間は弱点にしかならない、政宗が自分にそう言い聞かせた途端、彼の脳から嫌な記憶が引き出される。


 幼い頃の記憶「あんたなんか生まれてこなければ良かった」と言い自分を殴る母の手、片目しかない主についていくなどゴメンだと言う部下達の陰口、そうだ、やはり情などいらない、絆など不要だ、愛など論外、背負うのは自分の命だけでいい、他人など腹の中で何を考えているか分かったものではない、信じるのは自分だけで十分だ。


 政宗は苦悩で歪ませていた顔を今度は怒りと憎しみで歪ませ、右目の眼帯に手を伸ばし、途端に水樹が叫ぶ。


 「逃げて!!」


 と、政宗が眼帯を引きちぎり、右目のまぶたを開く。


 右の眼球があった場所には何も無く、くぼみになっている、だが次の瞬間、そのくぼみの周りに植物の葉脈のようなものが広がり、くぼみには黒い光りが宿る。


 政宗は再び誾千代に斬りかかるがその速度と力はさきほどとは比べ物にならないほど上がっている。


 だが逆に技の巧みさは失われている、ただ自分に牙を向ける誾千代への怒りと憎しみを乗せた攻撃は強烈だ。

 それでも誾千代の優勢は変わらない、誾千代は肉体への負担を考え、雷神化はせずにただ刀に雷を流すだけにとどめる。政宗にはそれで十分だ。


 政宗は冷静さを失った獅子奮迅の戦いに対し誾千代は冷静に、そして穏やかな明鏡止水、やがて政宗の刀は黒い光りを帯び始めるが誾千代の刀は金色に光り輝く。

 

 政宗の刃が闇ならば誾千代の刃は光、政宗が憎しみを源に戦うのに対し誾千代の源は直人を思う純粋な気持ち、独眼の邪龍(まさむね)と雷の女神(ぎんちよ)はどこまでも対極を取り続ける。


 だが徐々に誾千代が劣勢になり始める。


 誾千代が政宗を攻撃すればするほど、政宗が誾千代を憎めば憎むほど彼の身体能力は上がり続け、まるで全てが見えているかのように死角からの攻撃にも対処する。


 全方位の視界に加え相手への憎しみが強いほど身体能力が向上する。これが政宗の持つ異能の力、邪眼である。


 やがて政宗の身体能力は誾千代を遥かに上回る、雷神化すれば勝てるかもしれないが忠勝の時同様、途中で骨が砕ける可能性は十分にある。


 しかし政宗の速力はもう自分の攻撃を全てかわすほどに上がっている。ならば方法は一つしかない、誾千代は覚悟を決めると刀を鞘に収めた。


 その行動に誾千代以外の全員が驚くが誾千代は直人を見ると眼で大丈夫だと語る。


「武器を退くとは臆したか!?」


 政宗は誾千代の心臓に向かって全力で突きを放つ、刀の切っ先が誾千代の鎧に触れる瞬間に左腕だけを雷神化させ一瞬で刀を抜きそのまま政宗の刀と接触させ軌道をずらす、政宗の刀は心臓のすぐ下に刺さり、そのまま彼女の体を貫通した。

政宗はその行動に驚愕し叫ぶ。


「貴様何を考えている!?急所でなくてもこんな自殺行為を・・・・」


 すると誾千代は勝利を確信したように笑い、言った。


「かまわん、私はただ、貴様を捕まえることが出来ればそれでいいんだからな・・・・」


 すると誾千代は兜がなくなり、剥き出しになっている政宗の頭を右手でしっかりとつかみ、左手は逃げられないよう政宗の右腕をつかむ。それで政宗も誾千代の考えが読めたらしい。政宗はサッと顔色を変えると叫ぶ。


「貴様まさか・・・・やめ・・・・!!?」

「これで終わりだ!!」

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