第45話 この戦いから降りて

 次の日の朝、日本にいる間は直人の家に住むことになったジャンヌとルイスはすでに仲間集めに出かけており、直人と誾千代の二人だけで朝食を食べながらニュースを見ていると気になる情報が入ってくる。ニュースキャスターは言った。


「最近、多日市の、多日高等学校近辺で変質者が目撃されているとのことです。犯人は忍者の格好をしており、自分は霊界から生き返った服部半蔵だと名乗っています、多日高等学校、中等部三年の女子生徒が、自分の主になってくれと頼まれたと言っています、専門家の分析では精神状態が・・・・・」


 直人と誾千代は箸を膝の上に落とし、硬直した。


 それでもなんとか平常心を保ちながら学校へ行くために家の門を開けると直人は再び硬直する、家の前に倒れている全身黒ずくめの人間、どう見ても忍者である。


 門を出ようとしない直人を不自然に思い、玄関から誾千代が出てきてその男を見ると誾千代も硬直、行き倒れ忍者半蔵、そんな名前が二人の頭を打ち抜く。


 とにかく二人は家の中に運ぼうと半蔵の手足をそれぞれ持つと半蔵が一言、あまりにも弱々しい、かすれた声で言う。


「・・・・・水と・・・・・米・・・・・」

「??」


 二十分後、直人の作った食事を平らげた半蔵が大きなため息を漏らし、土下座する。


「命を助けていただき、心から感謝する」


 忍者と言えばもっと暗く、重たい声をイメージしていたが半蔵の声は涼やかで聞いていて気持ちがいいくらいだ。


 そして直人が倒れていた理由を聞くと気まずそうにやや下を向きながら話し出した。


「それが・・・・言いにくいんだが、実はまだ腕輪の持ち主(ロード)が見つかっていないんだ、手持ちの水や食料も底を尽き自然の物を獲ろうにもなぜかこの時代は走っても走っても石の家と地面ばかりでたまに森があっても食べれる物がないし、主君の命令なら盗みもするがこの戦いは最強になりたいという私的なもの、こんびに、とやらにある食べ物を盗むなどということをするわけにもいかず、そうしたら俺の時代と同じ雰囲気のこの家からいいにおいがして・・・・・」


「門の前で力尽きたってわけか?」


 半蔵はコクンとうなずきお茶のおかわりを頼んだ。


 普通、忍者と言えば影に生きる闇の住人、暗く、冷たく、無口なイメージがあるが半蔵は食事中にこの時代の食べ物はうまいと絶賛し、素直さや清清しさしか伝わってこない、そこで直人は駄目元で西洋の騎士達との戦いに加わってくれないかと頼むと半蔵はごちそうになった恩義があるからとあっさりOKしてしまった。


 本当に見た目以外に忍者的な特徴の無い忍者だ。直人が少々呆れ気味に半蔵が本当に忍者かどうかを心の中で疑っていると半蔵は辺りをきょろきょろと見回す。


「それで・・・・そのジャンヌとルイスとかいうのはどこにいるんだ?」

「ああ、あいつらは朝早く仲間集めに出かけたよ、あの二人はあくまでも仲間集めで来ているだけだから、学校にはほとんど行かないってさ」

「そうか・・・・やはり協力者(ロード)には迷惑がかかるんだな・・・・ならあいつが断るのも・・・・・」


 半蔵が一人でぶつぶつと言っていると誾千代が眉間にしわをよせる。


「なんだ半蔵、まさか何か隠しているのではないだろうな?」

「いや、そうじゃないけど、実は腕輪の適合者はもう見つかってるんだ」


 それを聞くと直人と誾千代は同時に上半身を前に乗り出し叫ぶ。


「それを先に言え!っで、どこの誰なんだ?」


 半蔵は申し訳なさそうにため息をつく。


「多日高等学校中等部という学校に通う水島(みずしま)飛鶴(ひづる)、だけど・・・・・断られた」


 半蔵の言葉に直人は朝のニュースを思い出す。変質者に主になってくれと頼まれた。おそらくあれのことだろう。


「じゃあ俺が水島を説得してやるから、あいつがお前のロードになったら・・・」

「約束通り西洋軍との戦いに協力するよ」

「よし、じゃあ俺は学校に行ってくるから、誾千代、半蔵のこと頼んだぞ」


 直人は半蔵を誾千代に任せると家を出た。遅刻の理由はまだ残っている傷口が開いたでいいだろう。





 学校の昼休み、直人が弁当を食べ終わり一息ついていると自分に向かって歩いてくる人の気配を感じ横を見る。


 病的に白い肌に細く華奢な体、憂いを含んだ眼、そして自分とそう変わらない身長をもった女子、多日高等学校高等部一年、長城水樹(ながしろみずき)だ。


「先輩、どうしたんですか?」


 水樹は口ごもり、ただ心配そうな顔で直人を見ていたが右手をスッと前に出し、袖をめくる。直人の目に映ったのは銀色の腕輪だった。


 直人は一瞬硬直した顔を、改めると場所を変えようと言い、教室を出た。


 直人とこれからの戦いについて話し合うことを楽しみにしている晶が教室に入ったのはその十秒後のことだった。


 屋上に着くと水樹はいきなり頭を下げた。


「お願い直人くん、この戦いから降りて!」


 あまりに突然の出来事に直人は驚き一歩後ろに下がる。


「ちょっ、ちょっと待ってください、どうしたんですかいきなり!?」

「・・・その腕輪、直人君も参加者なんでしょ?」

「それはそうですが・・・・俺だって誾千代を生き返らせたいし、それにこれは戦って・・・・」

「戦っちゃ駄目なの・・・・・」


 水樹の泣きそうな声に直人は戸惑い、水樹は懇願する。


「お願い・・・・あの人は・・・・・みんな殺しちゃうの・・・・・・過去の戦士(スレイヴ)も現代人(ロード)も・・・あの人に逆らった人はみんな殺されちゃうの!だからお願い、その腕輪を渡して!そうすればあなたは見逃してもらえるの!!・・・・・だから・・・・・」


 最後の方はもう完全に泣きながら話す水樹の姿に直人はどう対応したらいいのかわからず、ただ一言「すいません」と言ってその場を去ることしか出来なかった。


 直人は教室に帰る間、ずっと水樹の泣き顔が頭を離れず。そのためカンが鈍ったのか殺気を放つ晶に気付かずそのまま教室に入ってしまった。


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