第44話 もうすぐ終わる命
小次郎の涼やかな声が終わると小次郎の発する気が変わる。その場の空気が冷たく、ピンとはりつめたような感じだ。小次郎の周りの空気だけ圧縮されたようにも感じる。
それを見ると武蔵はやれやれと言った感じで誾千代と距離を作り左手の刀を鞘に収め、右手の大刀を両手で持ち構え、その瞬間、武蔵が誾千代に、小次郎が直人にほぼ同時に斬りかかった。
小次郎は上から下へ斬り下げ、武蔵はしたから上へと斬りあげる。
しかしその攻撃は特別速いわけではなく、かわすのにそう苦労しない、誾千代は下から迫る刃をなんなくかわそうとするがその瞬間、直人が叫ぶ。
「上だ!!」
「!?」
誾千代への攻撃はあくまでも下からのもの、上からの攻撃は直人が受けている。
しかし直人の言葉は明らかに自分に大して言っている、誾千代はなんの考えもなく、ただ反射的に刀を上に構えた。
途端、自分の刀に強い衝撃を感じる。
見ると武蔵の刃が自分の刃と触れ合い、火花を散らしており、直人のほうではその逆が起こっていた。
武蔵と小次郎は一瞬でフードの男のすぐ近くに戻り、武蔵、続けて小次郎が直人に問い掛ける。
「てめえ、なんで俺等の技がわかった?」
「私の奥義、燕返しを防ぐとは、あなたは本当に現代人ですか?」
すると直人はこっちが聞きたいぐらいだという具合に反論する。
「知らねえよ・・・・ただ俺には下から、誾千代には上からの攻撃がくる気がしただけだ」
「・・・・気がした?未来視ではないのですか?」
「そんな便利なもの使えるわけ無いだろ!」
自分の予想がはずれた小次郎に直人も正しい応えを出せずにいるとフードの男はフードをはずし素顔をさらして武蔵と小次郎の前に出た。
「小次郎の攻撃を受け止める上にわけのわからない能力か・・・・相変わらず無茶苦茶だな・・・・」
その男の顔に直人は思わず声を上げる。
「進一!?お前も参加者だったのか?」
「顔を見せなくても声でわかるだろ・・・・・・」
「いや・・・武蔵と小次郎の闘気が凄すぎて・・・・」
直人が申しわけなさそうに頭をかいて謝ると誾千代が直人に問い掛ける。
「直人、あの二人の主(ロード)を知っているのか?」
「ああ、あいつは神弥進一、俺の従兄弟(いとこ)だよ」
「・・・・いっ・・・・いとこ!?じゃあ従兄弟そろってこの戦いに参加しているというのか!?それも二人の過去の戦士(スレイヴ)と同じ魂の属性・・・・進一、あなたも十分無茶苦茶だと思うが・・・・」
誾千代が眼を見開き驚くと進一は呆れたように喋りだす。
「僕を直人みたいなデタラメ人間と一緒にしてほしくないな、それで、君の名前は?」
直人と進一の間に昔、何かあったのだろうと悟りつつ誾千代は自分の名と身分を言うが進一の反応は予想通り。
「悪いけど知らないな」
誾千代はガクリと肩を落とす。
「まあいい、君の力について分かるまで君たちに手を出すのはやめておこう・・・だが、もし君のその異能の力がなんなのか分かったときは容赦なく殺させてもらう!!」
血縁者に対して話しているとは思えない、憎悪に満ちた声、進一はそれだけ言うと武蔵、小次郎の二人と同時に塀を越えて立ち去った。
「直人、あの進一という男、殺すと言っていたが・・・・?」
直人は後ろめたそうに誾千代に背を向けると縁側へ歩いていく。
「・・・・あいつも・・・・進一も神弥家の人間だからな・・・・・最強義務付けられてるんだよ・・・だけど俺が・・・・・」
そこまで言うと直人は言葉を飲み込み「なんでもない」と言い、そのまま部屋に戻った。
その頃、街の地下駐車場でも一つの戦いが終了する。
「そんな・・・・ふっ・・・・福島正則が負けるなんて・・・・・!!?」
豊臣家の名将、福島正則を殺した眼帯の男はスレイヴを失い、この戦いになんの影響力もない、ただその場で怯えることしか出来ない無力なその男に近づいていく。
彼の主(ロード)はやめるように言う。しかし眼帯の男は止まらない、男に早く逃げるよう叫ぶ、それでも眼帯の男は刀を横に一振りした。
半生者(スレイヴ)の体は死ねば消えてなくなる、しかし駐車場の床には決して消えることの無い紅い液体が染み込み、その上に動かない肉の塊が横たわる。
なんで殺したのかと主(ロード)は眼帯の男の胸をバンバンと叩きながら涙を流す。すると眼帯の男は主(ロード)のアゴをつかみ上にあげ、自分と視線を合わさせる。
「俺に牙を向けた者、俺の邪魔をする者・・・・殺して何が悪い?」
「・・・・・・・・・!!」
言葉などというまともな物ではない、まるで魂の根の部分に直接恐怖を植え込むような冷たい声、鋭い空気、主(ロード)の涙はぴたりと止まり、表情が固まる。
男が手を外し、家路につこうとするとロードの視界に死んだ正則の腕輪の持ち主(ロード)の死体が飛び込んでくる。
しくじった、最初の戦いの時から目をつぶるようにしていたため、死ぬ瞬間は見ずにすんだのに死んだ後の死体を見てしまった。眼帯の男は動こうとしないその少女にどうしたのかと聞くと少女は言う。
「ごめんなさい・・・・・・」
またか、と男は呆れたように息を吐くと恐怖で足の自由が利かなくなった少女を抱き上げる。ちょうどお姫様抱っこのような形だ。
どうやら彼は背中に何かを背負うというのが嫌いらしく、このような運び方をしているらしいのだが少女からしてみればただ恥ずかしいだけである。
無力な現代人まで殺す冷酷な男には似つかわしくない格好、いや、この男ならどのようなやり方にせよ生きた人を運ぶという行為自体が似つかわしくない、あってもせいぜい、紐でつないで引きずるか鞄に詰めて手で運ぶといったぐらいだろう。
冷酷で残酷、無慈悲なその男に少女が素直に協力できるわけがない、なのに・・・。
「まったく・・・本当に弱く、無力な女だ・・・・しかし、今の俺にお前が必要だ、この戦いが終わるまでは迷惑をかけるぞ」
少女は男の左胸に顔をうずめると静かに言う。
「私への迷惑なら、いくらやってもかまわないわ、だって・・・・・」
・・・・・もうすぐ終わる命だから・・・・・
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